「舌の先は甘味担当」はウソだった。教科書に載った“味覚地図”の正体

読む前に予想してみよう!
舌の奥では、甘い味はほとんど感じない
甘味・塩味・酸味・苦味・うま味の受容体は、舌のあちこちに分布している。
- 対象
- 成人の味覚実験・味覚受容体の研究
- 規模
- 少人数の感覚実験+分子生物学研究
- 研究の種類
- 実験研究・総説
- 確かさ
- ★★★★☆
舌の「先は甘味、奥は苦味」という地図は、昔の論文のグラフを読み違えて広まったもの。実際は舌のどこでも5つの味を感じる。
ひとことで言うと舌はどこでも甘い・しょっぱい・すっぱい・苦い・うまいを感じるよ!
理科の教科書や資料集で、こんな図を見たことはありませんか?
舌の先が「甘味」、両脇の前が「塩味」、その奥が「酸味」、いちばん奥が「苦味」。色分けされた、あの舌の味覚地図です。
でも今すぐ、砂糖をひとつまみ舌の奥に乗せてみてください。……ちゃんと甘いはず。実はこの地図、昔の論文を読み違えたことから広まった“勘違い”だったんです。
01始まりは1901年のドイツの論文
ポイントは「少しだけ」。どの場所でも4つの味(当時はまだ4つ)は感じられていて、違いは「わずかに敏感かどうか」の差にすぎませんでした。
ところが1942年、アメリカの心理学者ボーリングが心理学の歴史をまとめた本でこのデータをグラフにした際、目盛りの意味が伝わりにくい描き方になっていました。それを見た人たちが「この場所ではこの味しか感じない」と受け取ってしまい、きれいに区切られた地図が生まれた、と考えられています。
02「少し敏感」が「そこしか感じない」に化けた
これ、伝言ゲームとそっくりです。
- 元の話:「舌の先は甘味をやや感じやすい」
- 伝わった話:「甘味は舌の先でしか感じない」
1974年には、研究者コリングスが改めて調べ直し、舌のどの場所でもすべての味を感じられることを確認しています。それでも地図はわかりやすさから教科書に残り続け、長く信じられてきました。

03今わかっている「味のしくみ」
舌の表面には、味蕾(みらい=味を感じる小さなセンサーの集まり。つぼみのような形)がたくさんあります。
2006年に学術誌『ネイチャー』で発表されたレビュー論文(チャンドラシェカールら)では、甘味・うま味・苦味などを受け取る受容体(=味の分子をキャッチする“鍵穴”)が詳しく整理されました。これらの鍵穴を持つ細胞は、舌のあちこちの味蕾に散らばっています。
そしてもうひとつ大事なのがうま味。1908年に日本の化学者・池田菊苗が昆布のだしから見つけた味です。古い味覚地図には、そもそもうま味の居場所がありませんでした。
04とはいえ、場所の差はゼロではない
公平のために言うと、舌の先や縁は真ん中より全体的に敏感だったり、喉に近い奥のほうでは濃い苦味を強く感じやすかったりと、小さな差はあると考えられています。
苦味は毒のサインになることも多いので、飲み込む直前でしっかりチェックできるのは理にかなっています。
つまり「場所によって微妙なクセはある。でも担当制ではない」。これが正確な答えです。
どの場所でも、ちゃんと味がしたはずです。自分の舌で確かめられるのが、この話のいいところ。教科書の図より、実験の結果を信じる――それこそが理科の楽しさです。
05まとめ
- 「舌の先=甘味」のような担当制の味覚地図はウソ
- 1901年の「少し敏感」というデータが、グラフの読み違いで「そこしか感じない」に化けた
- 実際は舌のどこでも5つの味(甘・塩・酸・苦・うま味)を感じる
今夜のごはんで、舌のいろんな場所で味わう実験をしてみてください。教科書より、自分の舌のほうが正直です。
この研究を英語で読もう原田英語の English CornerFor many years, textbooks showed a tongue map in which sweetness was sensed at the tip, saltiness and…
音声
4択クイズ9問A2・B1・B2タップして開く
原田英語の English Corner
この研究を英語で読もう
Many school books once showed a "tongue map." It said that the tip of the tongue tastes sweet things and the back tastes bitter things.
But this map is wrong. It came from a mistake in reading an old study from 1901. That study found only small differences between parts of the tongue. In fact, you can taste all five basic tastes on every part of your tongue. Try it at home!
72 words ・ CEFR A2
和訳を見る
多くの教科書にはかつて「舌の地図」が載っていました。それは、舌の先は甘いものを、奥は苦いものを味わうと言っていました。
しかし、この地図は間違っています。それは1901年の古い研究を読み間違えたことから生まれました。その研究は、舌の部分ごとの小さな違いを見つけただけでした。実際には、舌のどの部分でも5つの基本の味すべてを感じることができます。家で試してみてください!
4択リーディングクイズ
Q1. What is the passage mainly about?
舌の地図が間違いである理由を説明しているので D。
Q2. Where did the tongue map come from?
It came from a mistake in reading an old study from 1901. とあるので A。
Q3. In this passage, "tip" means ...
the tip of the tongue は「舌の先」。tip は「先端」なので D。
For many years, textbooks showed a tongue map in which sweetness was sensed at the tip, saltiness and sourness at the sides, and bitterness at the back. This map is a misunderstanding. In 1901, a German researcher tested how sensitive different parts of the tongue were to tastes. He found only small differences.
In 1942, an American psychologist turned this data into a graph that was easy to misread. People thought it meant each taste could only be sensed in one area. In 1974, another researcher confirmed that all tastes can be sensed everywhere on the tongue.
Today we know that receptors for different tastes are found in taste buds across the tongue. The old map also had no place for umami, discovered by a Japanese chemist in 1908.
129 words ・ CEFR B1
和訳を見る
長年、教科書には、甘味は舌の先、塩味と酸味は両脇、苦味は奥で感じるという舌の地図が載っていました。この地図は誤解です。1901年、ドイツの研究者が舌のさまざまな部分が味にどれだけ敏感かを調べました。彼が見つけたのは小さな違いだけでした。
1942年、アメリカの心理学者がこのデータを誤読しやすいグラフにしました。人々はそれを、それぞれの味は一つの場所でしか感じられないという意味だと考えました。1974年、別の研究者が、舌のどこでもすべての味を感じられることを確認しました。
今日では、さまざまな味の受容体が舌全体の味蕾にあることがわかっています。また、古い地図には、1908年に日本の化学者が発見したうま味の居場所がありませんでした。
4択リーディングクイズ
Q1. What did the 1901 study actually find?
He found only small differences. とあるので B。
Q2. How did the misunderstanding spread?
turned this data into a graph that was easy to misread とあるので C。
Q3. What does the last sentence suggest about the old map?
古い地図にはうま味の場所がなかった=基本味の一つが抜けていて不完全だった、と読み取れるので A。
For decades, students learned from a colorful diagram that divided the tongue into zones, with sweet at the tip, salty and sour along the sides and bitter at the back. The diagram is a textbook case of data being distorted as it is passed along. In 1901, the German researcher Hänig measured how weak a solution could be and still be tasted at different points on the tongue.
His thresholds varied only slightly from place to place, and every area detected every taste he tested. In a 1942 history of psychology, Edwin Boring presented these data in a graph whose scale was easy to misread. Readers seem to have concluded that each region handled a single taste. A "slightly more sensitive" area became the "only" area.
In 1974, Collings re-examined the question and confirmed that all tastes can be perceived throughout the tongue. Molecular research has since found receptors for sweet, umami and bitter tastes in cells spread among taste buds all over the tongue. Small regional differences in sensitivity are real. The regions simply do not divide up the work. The old map also had no zone for umami, which was identified in 1908.
195 words ・ CEFR B2
和訳を見る
何十年もの間、生徒たちは舌を区域に分けたカラフルな図で学んできました。先は甘味、両脇に沿って塩味と酸味、奥は苦味という図です。この図は、データが伝わる過程でゆがめられていく典型例です。
1901年、ドイツの研究者ヘーニッヒは、舌のさまざまな場所で、溶液がどれだけ薄くても味わえるかを測定しました。彼の閾値は場所によってわずかしか変わらず、どの領域も彼が調べたすべての味を感知しました。1942年、エドウィン・ボーリングは心理学の歴史書の中で、目盛りを誤読しやすいグラフでこのデータを示しました。読者は、それぞれの領域が一つの味を担当していると結論づけたようです。「少し敏感な」場所が「唯一の」場所になったのです。
1974年、コリングスはこの問題を改めて調べ、舌全体ですべての味を知覚できることを確認しました。その後、分子レベルの研究によって、甘味・うま味・苦味の受容体が、舌じゅうの味蕾に散らばる細胞にあることがわかりました。部位による感度の小さな違いは実際にあります。ただ、それぞれの部位が仕事を分担しているわけではないのです。また、古い地図には、1908年に特定されたうま味の区域がありませんでした。
4択リーディングクイズ
Q1. Why does the author call the tongue map "a textbook case" of distorted data?
「少し敏感」が「そこしか感じない」に変わった=伝わる過程でゆがめられた例なので A。
Q2. What did Collings confirm in 1974?
confirmed that all tastes can be perceived throughout the tongue とあるので C。
Q3. What does the author say about regional differences in sensitivity?
Small regional differences in sensitivity are real. The regions simply do not divide up the work. とあるので B。
重要単語
- taste budB2名詞(句)味蕾Taste buds are found all over the tongue.
bud は「つぼみ」。形がつぼみに似ていることから。 - receptorC1名詞受容体Sweet receptors detect sugar molecules.
receive(受け取る)と同語源。生物系長文で頻出。 - sensitivityB2名詞感度、感じやすさSensitivity differs only slightly across the tongue.
sensitive(敏感な)と sensible(分別のある)の区別は入試の定番。 - umamiB2名詞うま味Umami was discovered by a Japanese chemist.
日本語由来の英単語。tsunami, karaoke などと同じく英語の辞書に載っている。 - misinterpretC1動詞誤解する、読み違えるPeople misinterpreted the original graph.
mis-(誤って)+interpret(解釈する)。misunderstand より「解釈の誤り」に焦点。 - distortC1動詞ゆがめるThe graph distorted the original data.
dis-+tort(ねじる)。名詞 distortion。torture(拷問)も同じ tort。 - thresholdC1名詞閾値、境目/敷居The taste threshold was similar across the tongue.
on the threshold of ~「~の始まりに」。科学では「反応が起きる最小の値」。
動画でもっと知る
動画は各チャンネルの公式埋め込みで表示しています(YouTube)。
この話題を TED で聞く
同じテーマの TED・TED-Ed を、
TED HACK で。英語の見どころ・使える表現・学習ミッションつきの日本語ガイドです。(運営:原田英語)
4コマでわかる

このネタ、誰かに教えたくなった?
「舌の先は甘味、奥は苦味」の味覚地図、実は100年以上前の論文のグラフを読み違えて広まったものらしい。いま砂糖を舌の奥に乗せてみて。ちゃんと甘いから。
押すと「マジかリスト」に保存されます
出典・参考文献(3件)タップで表示
※本記事は上記の研究・公開資料をもとに、原田英語が独自の言葉で解説したものです。引用は著作権法第32条の範囲で行い、出典を明記しています。画像はすべてオリジナルのイメージです。研究結果には限界や個人差があります。誤りのご指摘は原田英語のお問い合わせフォームから。












