ウソ?ホント?検証ビミョー

「暴力的なゲームで攻撃的になる」論争の行方。研究者同士の"メタ分析戦争"が出した落としどころ

「暴力的なゲームで攻撃的になる」論争の行方。研究者同士の"メタ分析戦争"が出した落としどころ

読む前に予想してみよう!

暴力的なゲームが現実の暴力犯罪の主な原因であることは、科学的に確かめられている

研究カード(どんな研究?)
対象
子ども・若者・成人
規模
数万人規模のメタ分析+約1,000人の事前登録研究
研究の種類
メタ分析+観察研究
確かさ
★★★☆☆
3秒でわかる

暴力的なゲームと攻撃性の関連は「あっても小さい」が今の落としどころ。現実の暴力事件の原因になる証拠は乏しく、研究者の評価も割れてきた。

ひとことで言うと暴力ゲームの影響は、あってもとても小さい。犯罪の原因とは言えないよ。

もくじ
  1. 「影響あり」派の大規模メタ分析
  2. 「影響はほぼない」派の反論
  3. 第三者が「メタ分析戦争」を仲裁した
  4. 新しい研究ほど「関連なし」寄りに
  5. 学会の見解:「暴力犯罪の原因とする根拠は不十分」
  6. なぜ「ゲームのせい」が広まるのか
  7. まとめ

痛ましい事件が起きるたびに、ニュースやネットで繰り返される議論があります。「犯人は暴力的なゲームをしていたらしい」「ゲームのせいで攻撃的になったのでは」。

ゲームが好きな人にとっては、モヤモヤする話です。一方で、子どもを持つ親が心配になる気持ちもわかります。

実はこのテーマ、心理学の世界では数十年にわたって研究者同士が激しく対立してきた、とても"熱い"論争なのです。

01「影響あり」派の大規模メタ分析

この研究は大きな影響力を持ち、「暴力ゲームは危険」という主張の有力な根拠になりました。

02「影響はほぼない」派の反論

ところが、別の研究者たちは強く反論しました。

心理学者ファーガソンは2015年、子どもと若者を対象にした研究を集めたメタ分析で、ゲームの影響は非常に小さく、ほぼ無視できる程度だと報告しました。さらに、「影響あり」とする研究には、攻撃性の測り方があいまいだったり、都合のいい結果ばかりが論文になる(出版バイアス)可能性があったりすると指摘しました。

03第三者が「メタ分析戦争」を仲裁した

同じテーマのメタ分析なのに、なぜこんなに結論が違うのか。2019年、統計の専門家マチュールとヴァンダーウィールが、両陣営のデータを同じ方法で見直しました。

その結論は、ちょっと拍子抜けするものでした。両方のメタ分析は、実はそれほど矛盾していない。どちらのデータでも、効果はゼロではないが、かなり小さいことを示していたのです。そして、大きな影響を示す研究はほとんどありませんでした。

対立していた2つの陣営のデータは、意外と同じことを言っていた
対立していた2つの陣営のデータは、意外と同じことを言っていた

04新しい研究ほど「関連なし」寄りに

最近は、研究の透明性を高める方法も取り入れられています。

イギリスの若者約1,000人を対象にした2019年の研究は、データを集める前に分析方法を登録する「事前登録」という厳しいルールで行われました。結果は、暴力的なゲームをする時間と、親や保護者が評価した攻撃的な行動との間に、意味のある関連は見られないというものでした。

さらに2020年には、子どもを長期間追いかけた研究だけをまとめたメタ分析が発表され、長期的な影響は小さく(全体でr=0.06)、方法の優れた研究ほどゼロに近いと報告されています。

05学会の見解:「暴力犯罪の原因とする根拠は不十分」

米国心理学会(APA)は2020年の決議で、暴力的なゲームと攻撃性の小さな関連は認めつつ、ゲームを暴力犯罪の原因とするには証拠が不十分であり、事件をゲームのせいにすることは避けるべきだという立場を示しています。

06なぜ「ゲームのせい」が広まるのか

新しいメディアが登場すると、社会は不安になります。かつてはマンガやテレビ、ロック音楽が「若者を悪くする」と心配されました。ゲームもその流れの上にあります。

それに、事件のあとに「ゲームが原因」と言うと、わかりやすい答えが手に入ります。でも実際の暴力には、家庭環境、心の健康、周囲との関係など、もっと複雑な要因が絡んでいるのです。

07まとめ

  • 暴力的なゲームと攻撃性の関連は、あっても小さいというのが今の落としどころ
  • 研究者の間で長く対立してきたが、データを見直すと両者の差は意外と小さかった
  • ゲームを暴力犯罪の原因とする証拠は乏しい

ゲームとの付き合い方で大事なのは、内容だけでなく、睡眠や勉強、人との時間を削っていないか。そのバランスのほうが、ずっと身近で確かな問題かもしれません。

この研究を英語で読もう原田英語の English CornerAfter a violent crime, video games often get part of the blame. 音声 4択クイズ9問A2・B1・B2タップして開く

原田英語の English Corner

この研究を英語で読もう

After a violent crime, video games often get part of the blame. Psychologists have argued about this for decades. In 2010, one research team combined many studies from Eastern and Western countries. They concluded that violent games were linked to more aggressive thoughts and behavior.

In 2015, another psychologist found the effects were so small that they could almost be ignored. He also said that some studies measured aggression poorly.

Then, in 2019, two statistics experts reanalyzed both sets of data with the same method. The two sides agreed more than people expected. Both sets of data showed an effect that was real but small. The American Psychological Association says there is not enough evidence to blame games for violent crime.

121 words ・ CEFR B1

和訳を見る

暴力的な犯罪が起きると、ビデオゲームがその責任の一端を負わされることがよくあります。心理学者たちは何十年もこのことを議論してきました。2010年、ある研究チームは東洋と西洋の国々の多くの研究をまとめました。そして、暴力的なゲームはより攻撃的な考えや行動と関連していると結論づけました。

2015年、別の心理学者は、影響はほとんど無視できるほど小さいことを見いだしました。彼はまた、一部の研究は攻撃性の測り方がよくなかったとも述べました。

そして2019年、2人の統計の専門家が、両方のデータを同じ方法で分析し直しました。両者は、人々が思っていた以上に一致していました。どちらのデータも、本物ではあるが小さい影響を示していたのです。米国心理学会は、ゲームを暴力犯罪の原因とするには証拠が不十分だと述べています。

4択リーディングクイズ

Q1. What did the 2015 study suggest?

Q2. What did the two statistics experts do in 2019?

Q3. What did the 2019 reanalysis show about the two sides?

重要単語

  • aggressionB2
    名詞攻撃性Researchers measured aggression in the lab. 形容詞 aggressive。ビジネスでは「積極的な」という良い意味にもなる。
  • meta-analysisC1
    名詞メタ分析(複数の研究をまとめる分析)A meta-analysis combines many studies. meta-(~を超えた・より高次の)。研究の研究、というイメージ。
  • effect sizeC1
    名詞(句)効果量The effect size was very small. 「差があるか」ではなく「差がどれくらい大きいか」を表す指標。
  • preregistrationC1
    名詞事前登録Preregistration makes research more transparent. pre-(前に)+registration(登録)。都合のよい分析の後出しを防ぐ仕組み。
  • moral panicC1
    名詞(句)モラル・パニック(社会的な過剰不安)New media often cause a moral panic. 社会学の用語。漫画・テレビ・ゲームなど新しいメディアのたびに起きると言われる。
  • publication biasC1
    名詞(句)出版バイアスPublication bias can make effects look larger than they are. bias は「偏り」。「効果あり」の結果ほど論文になりやすいという偏り。

4コマでわかる

「暴力的なゲームで攻撃的になる」論争の行方。研究者同士の"メタ分析戦争"が出した落としどころの4コマ漫画
「暴力的なゲームは子どもを攻撃的にする」をめぐって、心理学者が何十年も"メタ分析戦争"をしてきたらしい。両陣営のデータを第三者が見直したら、結論は「影響はあってもかなり小さい」。現実の暴力の原因とする証拠も乏しいらしい。

押すと「マジかリスト」に保存されます

出典・参考文献(5件)タップで表示
  1. Anderson et al. (2010) Violent video game effects on aggression, empathy, and prosocial behavior in Eastern and Western countries: A meta-analytic review, Psychological Bulletindoi.org
  2. Ferguson (2015) Do Angry Birds Make for Angry Children? A Meta-Analysis of Video Game Influences on Children's and Adolescents' Aggression, Mental Health, Prosocial Behavior, and Academic Performance, Perspectives on Psychological Sciencedoi.org
  3. Mathur & VanderWeele (2019) Finding Common Ground in Meta-Analysis "Wars" on Violent Video Games, Perspectives on Psychological Sciencedoi.org
  4. Przybylski & Weinstein (2019) Violent video game engagement is not associated with adolescents' aggressive behaviour: evidence from a registered report, Royal Society Open Sciencedoi.org
  5. Drummond, Sauer & Ferguson (2020) Do longitudinal studies support long-term relationships between aggressive game play and youth aggressive behaviour? A meta-analytic examination, Royal Society Open Sciencedoi.org