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「左利きは9年早死に」という研究があった。世界を騒がせた数字は"統計のワナ"だった

「左利きは9年早死に」という研究があった。世界を騒がせた数字は"統計のワナ"だった

読む前に予想してみよう!

左利きの人は、右利きの人より寿命が短い

研究カード(どんな研究?)
対象
米国の死亡者・高齢者と、野球・クリケット選手の記録
規模
約1,000人〜数千人
研究の種類
後ろ向き調査+前向きコホート研究
確かさ
★★★☆☆
3秒でわかる

1991年、左利きは右利きより平均9年早く亡くなるという研究が話題に。だが昔は左利きを右に直す習慣があり、高齢者に左利きが少ないための見かけの差だった。

ひとことで言うと左利きが早死にするわけじゃない。昔は「右に直された」人が多かっただけ!

もくじ
  1. 1,000人の死亡記録を調べた研究
  2. ワナの正体:「昔は左利きを直していた」
  3. なぜ「見かけの差」が生まれるのか
  4. 生きている人を追いかけたら、差はなかった
  5. なぜこの話は広まったのか
  6. まとめ

あなたは右利き? 左利き?

1991年、世界中の左利きをドキッとさせるニュースが流れました。アメリカの一流医学誌に、「左利きの人は、右利きの人より平均で約9年早く亡くなっている」という研究が載ったのです。

9年。とんでもない差です。でもこの数字、今ではほぼ"統計のワナ"だったと考えられています。

011,000人の死亡記録を調べた研究

2人は以前にも、プロ野球選手の記録から「右利きのほうが長生き」とする研究を発表しており、左利きの寿命についての論文をいくつも出していました。

02ワナの正体:「昔は左利きを直していた」

この研究には、大きな落とし穴がありました。

20世紀の前半、アメリカでも日本でも、左利きの子どもを右利きに直すことがよく行われていました。左手で字を書くと叱られる、という時代です。

その結果、お年寄りの世代ほど「左利き」の人が少なく、若い世代ほど左利きが多い、という状態になっていました。

03なぜ「見かけの差」が生まれるのか

ここがこの話のいちばん面白いところです。

たとえば、ある年に亡くなった人たちを集めたとします。その中の左利きの人は、左利きが多い若い世代から来ていることが多い。一方、右利きの人はあらゆる世代から来ています。

すると、たとえ左利きと右利きの寿命がまったく同じでも、亡くなった左利きの平均年齢は低く出てしまうのです。

若い世代ほど左利きが多い。だから「亡くなった左利き」は若く見える
若い世代ほど左利きが多い。だから「亡くなった左利き」は若く見える

心理学者のハリスは1993年、この点を詳しく指摘しました。「死んだ人の平均年齢」を比べる方法では、世代によって左利きの割合が違うとき、正しい答えが出ないのです。

04生きている人を追いかけたら、差はなかった

この問題を避けるには、今生きている人たちの利き手を記録し、その後を追いかける方法が確実です。

イギリスのクリケット選手の記録を調べた研究や、野球選手のデータを新しく分析し直した研究でも、左利きの寿命が全体として短いという結果は確認されませんでした。

05なぜこの話は広まったのか

「左利きは早死にする」という話には、ニュースになりやすい要素がそろっていました。一流医学誌に載った、具体的な数字(9年)がある、身近な話題で自分にも関係がある。

さらに、昔から左利きには「不吉」「直すべきもの」という偏見がありました。そうしたイメージとこの研究が結びつき、記憶に残りやすかったのでしょう。

06まとめ

  • 1991年、「左利きは約9年早死に」という研究が話題になった
  • しかし昔は左利きを右に直す習慣があり、高齢者ほど左利きが少なかったため、見かけの差が出ていた
  • 生きている人を追いかけた研究では、寿命の差は見られなかった

数字そのものは正しくても、「どうやって集めた数字か」で意味はまったく変わる。この話は、統計を読むときの最高の教材です。

この研究を英語で読もう原田英語の English CornerIn 1991, two psychologists published a surprising study in a famous medical journal. 音声 4択クイズ9問A2・B1・B2タップして開く

原田英語の English Corner

この研究を英語で読もう

In 1991, two psychologists published a surprising study in a famous medical journal. They asked the families of about 1,000 people who had died in California whether the person had been right- or left-handed. The right-handers had died at about 75 on average, while the left-handers had died at about 66.

However, this gap was misleading. In the early twentieth century, many left-handed children were forced to switch to their right hand, so there were far fewer left-handers among older people. As a result, the left-handers who died tended to come from younger generations. When later researchers recorded the handedness of about 3,800 older Americans and then followed them, they found no meaningful difference in death rates.

117 words ・ CEFR B1

和訳を見る

1991年、2人の心理学者が有名な医学誌に驚くべき研究を発表しました。彼らは、カリフォルニア州で亡くなった約1,000人の遺族に、故人が右利きだったか左利きだったかをたずねました。右利きの人は平均約75歳で、左利きの人は約66歳で亡くなっていました。

しかし、この差は誤解を招くものでした。20世紀の前半には、多くの左利きの子どもが右手に替えるよう強制されていたため、高齢者には左利きがずっと少なかったのです。その結果、亡くなった左利きの人は若い世代の出身であることが多くなりました。後の研究者たちが約3,800人のアメリカの高齢者の利き手を記録し、その後を追跡したところ、死亡率に意味のある差は見られませんでした。

4択リーディングクイズ

Q1. How did the 1991 researchers collect their data?

Q2. Why were there fewer left-handers among older people?

Q3. What does the author suggest about the nine-year gap?

重要単語

  • left-handedA2
    形容詞左利きのAbout one in ten people is left-handed. 名詞は left-hander「左利きの人」。handedness は「利き手」。
  • life expectancyB2
    名詞(句)平均余命、寿命Life expectancy has risen over the past century. expect(期待する)+-ancy。統計・社会系の長文で頻出。
  • cohortC1
    名詞同じ時代に生まれた集団、追跡調査の集団Each birth cohort grew up in a different world. もとは古代ローマ軍の「部隊」。cohort study は「コホート研究(追跡調査)」。
  • artifactC1
    名詞(調査方法が生んだ)見かけの結果The gap was a statistical artifact. 本来は「人工物・遺物」。研究の文脈では「方法が作り出したニセの結果」の意味になる。
  • mortalityC1
    名詞死亡率The study found no difference in mortality. mort-(死)。mortal(死すべき運命の)、immortal(不死の)も同語源。
  • misleadingB2
    形容詞誤解を招くThe headline was misleading. mislead(誤った方向に導く)の -ing 形。統計・広告の話題で入試頻出。

4コマでわかる

「左利きは9年早死に」という研究があった。世界を騒がせた数字は"統計のワナ"だったの4コマ漫画
1991年、「左利きは右利きより平均9年早く死ぬ」という研究が医学誌に載って大騒ぎに。でも正体は統計のワナ。昔は左利きを右利きに直す習慣があったので、高齢者には左利きが少なかっただけらしい。

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出典・参考文献(5件)タップで表示
  1. Halpern & Coren (1991) Handedness and Life Span, New England Journal of Medicinedoi.org
  2. Coren & Halpern (1991) Left-handedness: A marker for decreased survival fitness, Psychological Bulletindoi.org
  3. Harris (1993) Do left-handers die sooner than right-handers? Commentary on Coren and Halpern's (1991) "Left-handedness: A marker for decreased survival fitness", Psychological Bulletindoi.org
  4. Salive et al. (1993) Left-handedness and mortality, American Journal of Public Healthdoi.org
  5. Aggleton et al. (1994) Handedness and longevity: archival study of cricketers, BMJdoi.org