「脳トレで頭が良くなる」は言い過ぎだった。1万人超の実験と数百件の研究が出した答え

読む前に予想してみよう!
脳トレのゲームを毎日続けると、学校の成績や仕事の能力も上がることが確かめられている
練習したゲームの成績は上がるが、日常の能力まで上がる確かな証拠は乏しい。
- 対象
- 成人・高齢者など
- 規模
- 1万1,000人超の実験+数百件の研究を統合
- 研究の種類
- 大規模実験+系統的レビュー+二次メタ分析
- 確かさ
- ★★★★☆
脳トレを続ければ、そのゲームは上手になる。でも勉強や仕事など別の場面の頭の良さまで上がる証拠はほとんどない。誇大広告で和解金を払った会社もある。
ひとことで言うと脳トレを続けると、そのゲームは上手になる。でも頭全体が良くなるわけじゃない!
計算問題、パズル、記憶ゲーム。スマホを開けば「1日5分で脳が若返る!」といった脳トレアプリがたくさん見つかります。
毎日続けていると、スコアはどんどん上がっていく。「頭が良くなっている!」と感じますよね。
でも、そのスコアの上昇は、本当に「頭の良さ」が上がった証拠なのでしょうか?
01ゲームは上手になる。問題は「その先」
研究者がこの問題を考えるときに使うキーワードが「転移」です。
- 近い転移:練習したゲームや、それによく似た課題が上手になる
- 遠い転移:練習とは別の能力(仕事・勉強・日常生活)まで良くなる
脳トレが本当に「頭を良くする」と言えるには、遠い転移が必要です。パズルが上手になっても、それが料理の段取りや試験の点数に広がらなければ、「パズルが上手になった」だけです。
021万1,000人の実験で見えた現実
03数百件の研究を洗い直した総説
2016年、心理学者のダニエル・シモンズらは、脳トレ会社が「効果の根拠」として挙げていた研究なども含め、数百件の研究を詳しく検討しました。
その結論は、こうまとめられます。
- 練習した課題が上手になる証拠はたくさんある
- 似た課題が上手になる証拠は少しある
- 遠い課題や日常生活の能力が上がる証拠はほとんどない
さらに、多くの研究に参加者が少ない、比較対象が不適切、期待による効果(プラセボ効果)を除けていないといった問題があると指摘しました。
その後、認知トレーニングのメタ分析をさらにまとめた研究(二次メタ分析)でも、遠い転移の効果は、研究の質を考慮するとほぼゼロに近いと報告されています。

04誇大広告で200万ドル
この問題は、科学の世界だけの話ではありませんでした。
2016年、アメリカの連邦取引委員会(FTC)は、人気脳トレアプリの運営会社が「仕事や学校の成績が上がる」「認知症を防ぐ」などと根拠なく宣伝したとして、200万ドルを支払う和解を発表しました。
05高齢者の研究では「希望」もある
ただし、すべての認知トレーニングが無意味というわけではありません。
アメリカの高齢者約2,800人を10年追跡した研究(ACTIVE研究)では、トレーニングを受けたグループで、買い物や家事、金銭管理などの日常の活動(IADL)の衰えを本人が感じにくい傾向が報告されました。ただしこれは自己申告の評価が中心で、解釈には慎重さが必要です。
06なぜ脳トレは「効く」と思われたのか
理由は簡単。スコアが上がるからです。上達が目に見えると、人は「自分が成長した」と感じます。そこに「脳科学」という言葉が加わると、一気に説得力が増します。
でも、上達したのは「そのゲームの腕前」。人生の役に立つ頭の良さは、読書、運動、人との会話、新しいことへの挑戦など、もっと幅広い活動の中で育つのかもしれません。
07まとめ
- 脳トレを続ければ、そのゲームは確実に上手になる
- でも、仕事・勉強・日常の能力まで上がる証拠はほとんどない
- 「頭を良くする」と宣伝した会社が、誇大広告で和解金を払った例もある
脳トレは「楽しい暇つぶし」としては最高です。でも「頭を良くする薬」として期待しすぎないのが、賢い付き合い方です。
この研究を英語で読もう原田英語の English CornerMany brain-training apps claim to make you smarter.
音声
4択クイズ9問A2・B1・B2タップして開く
原田英語の English Corner
この研究を英語で読もう
Many apps say brain games can make you smarter. If you play every day, your score goes up. But does this mean your brain is better? In a big study, about 11,000 people played brain games for six weeks. They got better at the games.
But on other tests, they did not improve much. So brain games help you play the games, not your whole brain.
66 words ・ CEFR A2
和訳を見る
多くのアプリが、脳トレゲームで頭がよくなると言っています。毎日遊ぶと、スコアは上がっていきます。でも、それは脳がよくなったということでしょうか?ある大きな研究で、約1万1千人が6週間脳トレゲームをしました。彼らはゲームが上手になりました。
しかし、ほかのテストでは、あまり伸びませんでした。つまり、脳トレゲームはゲームを上手にするのであって、脳全体をよくするわけではないのです。
4択リーディングクイズ
Q1. What is the passage mainly about?
脳トレゲームで頭がよくなるのかがテーマなので D。
Q2. How long did people play brain games in the big study?
played brain games for six weeks とあるので B。
Q3. In this passage, "improve" means ...
improve は「よくなる・向上する」。ほかのテストではあまり伸びなかった、という文脈なので A。
Many brain-training apps claim to make you smarter. Practice clearly makes you better at the games themselves, but does the effect spread to other abilities? Researchers call this "transfer." In 2010, a study with about 11,000 people found that six weeks of online brain training improved scores on the trained tasks, but not on other mental tests.
In 2016, a review of hundreds of studies concluded that there was little evidence that brain training improves everyday abilities. That same year, a U.S. government agency announced that a popular brain-training company would pay 2 million dollars for making unsupported claims, such as improving school and work performance.
106 words ・ CEFR B1
和訳を見る
多くの脳トレアプリは、頭がよくなると主張しています。練習すればゲームそのものが上手になるのは確かですが、その効果はほかの能力にも広がるのでしょうか?研究者はこれを「転移」と呼びます。2010年、約1万1千人を対象にした研究で、6週間のオンライン脳トレによって練習した課題の点数は上がったものの、ほかの認知テストの点数は上がらなかったことがわかりました。
2016年、数百件の研究を検討した総説は、脳トレで日常の能力が上がるという証拠はほとんどないと結論づけました。同じ年、アメリカの政府機関は、人気の脳トレ会社が、学校や仕事の成績が上がるといった根拠のない主張をしたとして、200万ドルを支払うことになったと発表しました。
4択リーディングクイズ
Q1. What is the main point of the passage?
練習した課題は上手になるが、ほかの能力や日常の能力が上がる証拠はほとんどない、という内容なので C。
Q2. Why did the brain-training company pay 2 million dollars?
for making unsupported claims, such as improving school and work performance とあるので A。
Q3. In the passage, "transfer" refers to ...
直前の does the effect spread to other abilities? を受けて Researchers call this "transfer." と言っているので B。
Brain-training apps often promise sharper minds in minutes a day, and steadily rising scores seem to confirm it. Researchers, however, distinguish between near transfer, meaning improvement on the practiced task or very similar ones, and far transfer, meaning improvement in unrelated abilities such as work, study or daily life. Only far transfer would justify claims that brain training makes people smarter. In 2010, Owen and colleagues recruited about 11,000 participants through a British television program for six weeks of online training.
Performance on the trained tasks rose, but gains on separate cognitive tests were minimal and similar to those of a control group that answered obscure trivia questions using online resources. A 2016 review led by Simons examined hundreds of studies, including those cited by companies, and found plenty of evidence for near transfer but little for far transfer, while noting frequent problems such as small samples, unsuitable control groups and uncontrolled placebo effects. A later second-order meta-analysis concluded that far transfer was close to zero once study quality was considered. In 2016, a U.S. regulator also announced a $2 million settlement with a company over deceptive advertising.
188 words ・ CEFR B2
和訳を見る
脳トレアプリは1日数分で頭が冴えると約束することが多く、着実に上がっていくスコアがそれを裏づけているように見えます。しかし研究者は、練習した課題やそれによく似た課題が上手になる「近い転移」と、仕事、勉強、日常生活のような関係のない能力が向上する「遠い転移」を区別しています。脳トレで頭がよくなると主張できるのは、遠い転移がある場合だけです。2010年、オーウェンさんらはイギリスのテレビ番組を通じて約1万1千人の参加者を集め、6週間のオンライントレーニングをしてもらいました。
練習した課題の成績は上がりましたが、別の認知テストでの伸びはごくわずかで、ネットで調べながら雑学の問題に答えていただけの対照群と同じくらいでした。2016年にシモンズさんが率いた総説は、企業が根拠として挙げていたものも含めて数百件の研究を調べ、近い転移の証拠はたくさんあるが遠い転移の証拠はほとんどないことを見いだし、標本が小さい、対照群が不適切、プラセボ効果を除けていないといった問題がよくあることも指摘しました。その後の二次メタ分析は、研究の質を考慮すると遠い転移はゼロに近いと結論づけました。2016年には、アメリカの規制当局が、誤解を招く広告をめぐってある企業との200万ドルの和解も発表しています。
4択リーディングクイズ
Q1. What is "far transfer"?
far transfer, meaning improvement in unrelated abilities such as work, study or daily life とあるので C。
Q2. What did Owen and colleagues find?
gains on separate cognitive tests were minimal and similar to those of a control group とあるので A。
Q3. Which problem with brain-training research does the passage mention?
small samples, unsuitable control groups and uncontrolled placebo effects が問題として挙げられているので D。
重要単語
- cognitiveC1形容詞認知のMemory is one of our cognitive abilities.
cognition(認知)の形容詞。recognize と同語源。cognitive ability「認知能力」がセット。 - transferB2名詞・動詞転移(学んだ効果が他に広がること)/移すFar transfer is rare in brain training.
trans-(向こうへ)+fer(運ぶ)。電車の「乗り換え」、お金の「送金」も transfer。 - working memoryC1名詞(句)作業記憶Working memory holds information for a short time.
暗算するときに数字を頭に置いておくような、短時間の記憶。脳トレの主な対象。 - deceptiveC1形容詞人を欺く、誤解を招くThe company paid to settle charges over deceptive ads.
動詞 deceive(だます)、名詞 deception。deceptive advertising「誇大・虚偽広告」。 - placebo effectC1名詞(句)プラセボ効果Expectations can create a placebo effect.
「効くはず」という思い込みで実際に良くなったと感じる効果。実験では対照群で取り除く。 - distinguishB2動詞区別するIt is important to distinguish near and far transfer.
distinguish A from B / distinguish between A and B の形で頻出。distinguished は「著名な」。
動画でもっと知る
動画は各チャンネルの公式埋め込みで表示しています(YouTube)。
この話題を TED で聞く
同じテーマの TED・TED-Ed を、
TED HACK で。英語の見どころ・使える表現・学習ミッションつきの日本語ガイドです。(運営:原田英語)
公式・一次情報をチェック
4コマでわかる

このネタ、誰かに教えたくなった?
「脳トレで頭が良くなる」を検証した総説によると、練習したゲームは上手になるけど、別の場面の頭の良さが上がる証拠はほとんどないらしい。アメリカでは「成績が上がる」と宣伝した会社が200万ドル払う和解をしている。
押すと「マジかリスト」に保存されます
出典・参考文献(4件)タップで表示
- Simons et al. (2016) Do "Brain-Training" Programs Work?, Psychological Science in the Public Interestdoi.org
- Owen et al. (2010) Putting brain training to the test, Naturedoi.org
- Sala et al. (2019) Near and Far Transfer in Cognitive Training: A Second-Order Meta-Analysis, Collabra: Psychologydoi.org
- Rebok et al. (2014) Ten-Year Effects of the Advanced Cognitive Training for Independent and Vital Elderly Cognitive Training Trial on Cognition and Everyday Functioning in Older Adults, Journal of the American Geriatrics Societydoi.org
※本記事は上記の研究・公開資料をもとに、原田英語が独自の言葉で解説したものです。引用は著作権法第32条の範囲で行い、出典を明記しています。画像はすべてオリジナルのイメージです。研究結果には限界や個人差があります。誤りのご指摘は原田英語のお問い合わせフォームから。












