ウソ?ホント?検証ウソ

「人間は脳の10%しか使っていない」説、脳をスキャンしたらほぼ全域が働いていた

「人間は脳の10%しか使っていない」説、脳をスキャンしたらほぼ全域が働いていた

読む前に予想してみよう!

人間の脳は、ふだん全体の10%ほどしか使われていない

研究カード(どんな研究?)
対象
人の脳(エネルギー代謝・脳画像・神経細胞の計数)
規模
多数の研究
研究の種類
総説(レビュー)・基礎研究
確かさ
★★★★★
3秒でわかる

脳画像で見ると、1日の中で脳のほぼ全域がちゃんと働いている。「残り90%が眠っている」場所はどこにもなかった。

ひとことで言うと脳に「お休み中の90%」はない。全部の場所に仕事がある!

もくじ
  1. 脳は体重の2%なのに、エネルギーは約20%を食べる
  2. スキャンすると、脳はほぼ全域が働いていた
  3. じゃあ、なぜ「10%説」は広まったの?
  4. 「伸びしろ」は本当にある
  5. まとめ

「人間は脳の10%しか使っていない。残り90%を目覚めさせれば天才になれる!」

映画や自己啓発本でおなじみのこのセリフ。ワクワクする話ですよね。眠っている潜在能力があるなら、ぜひ起こしてみたい。

でも残念ながら、脳科学の答えはハッキリしています。脳に「使われていない9割」なんて場所は、見つかっていません。

01脳は体重の2%なのに、エネルギーは約20%を食べる

まず、お財布の話から考えてみましょう。

脳の重さは体重のおよそ2%。ところが、体が使うエネルギーのうち約20%を脳が消費していることが知られています。脳はとんでもない大食いなんです。

生き物の体は「ムダを嫌う」方向に進化してきました。もし脳の9割がサボっているなら、そんな燃費の悪い臓器はとっくに小さくなっていたはずです。

02スキャンすると、脳はほぼ全域が働いていた

今はfMRI(脳のどこで血流が増えているかを映す装置。いわば脳の「混雑マップ」)やPETで、生きている人の脳活動を見ることができます。

その結果わかったのは、話す・見る・歩く・思い出す・ぼんやりする……と場面ごとに働く場所は変わるけれど、1日を通せば脳のほぼすべての領域に出番があるということ。

場面ごとに光る場所は違っても、「ずっと真っ暗な9割」はどこにもない
場面ごとに光る場所は違っても、「ずっと真っ暗な9割」はどこにもない

さらに決定的なのが、病気やケガの例です。脳卒中などで脳のごく一部が傷つくだけで、言葉が出にくくなったり手が動きにくくなったりします。もし9割が予備なら、こんなことは起きにくいはずですよね。

ブラジルの神経科学者エルクラーノ=ウゼルらの研究チームは2009年、人間の脳には約860億個の神経細胞があると報告しました。その一つひとつが、ちゃんと回路の一員として働いています。

03じゃあ、なぜ「10%説」は広まったの?

出どころははっきりしていません。よく挙げられるのは、心理学者ウィリアム・ジェームズが20世紀初めに述べた「人は自分の能力のごく一部しか使っていない」という趣旨の発言。これは「能力を伸ばす余地がある」という励ましで、脳の体積の話ではありませんでした。

それが自己啓発の本などで「10%」という覚えやすい数字に変わり、広まっていったと考えられています。

さらに、昔は脳の神経細胞以外の細胞(グリア細胞=神経細胞を支える「縁の下の力持ち」)の働きがよくわかっておらず、「何もしていない部分がある」と誤解されたことも一因と言われます。

教育現場でもこの思い込みは根強く、2012年の研究では、イギリスとオランダの教師の間でも「10%説」を信じる人が少なくないと報告されています。

04「伸びしろ」は本当にある

ここで落ち込む必要はありません。10%説はウソでも、脳が変わり続けることは本当です。

新しいことを練習すると、神経細胞どうしのつながり方が変わっていきます。これを可塑性(かそせい=粘土のように形を変えられる性質)と呼びます。

「眠っている90%を起こす」のではなく、「全部使っている脳を、使い方で鍛えていく」。こっちのほうが、ずっと現実的でワクワクしませんか?

05まとめ

  • 脳はほぼ全域に仕事がある。「使っていない90%」はない
  • 脳は体重2%で約20%のエネルギーを使う大食い。サボる余裕はない
  • でも練習で脳の回路は変わる。伸びしろは「使い方」にある

次に「脳の10%」と聞いたら、「いや、全部フル出勤してるらしいよ」と教えてあげてください。

この研究を英語で読もう原田英語の English CornerMovies and self-help books often claim that we use only 10 percent of our brains. 音声 4択クイズ9問A2・B1・B2タップして開く

原田英語の English Corner

この研究を英語で読もう

Movies and self-help books often claim that we use only 10 percent of our brains. Neuroscience says otherwise. First, the brain is very expensive to run: it makes up about 2 percent of body weight but uses about 20 percent of the body's energy. If 90 percent of it did nothing, such a costly organ would probably not have evolved.

Second, brain scans such as fMRI show that different areas work in different situations, and almost every area is active at some point during the day. Third, damage to even a small part of the brain, such as from a stroke, can cause serious problems with speech or movement. The myth may have come from a misunderstanding of an encouraging comment about human potential.

124 words ・ CEFR B1

和訳を見る

映画や自己啓発本は、私たちは脳の10%しか使っていないとよく主張します。神経科学の答えは違います。第一に、脳は動かすのにとてもコストがかかります。脳は体重の約2%ですが、体のエネルギーの約20%を使います。もしその90%が何もしていないなら、これほどコストのかかる器官はおそらく進化してこなかったでしょう。

第二に、fMRIのような脳スキャンは、場面によってちがう領域が働き、1日のうちにほとんどすべての領域がどこかの時点で活動していることを示しています。第三に、脳卒中などで脳のほんの一部が傷つくだけで、話すことや体を動かすことに深刻な問題が起こりえます。この俗説は、人間の可能性についての励ましの言葉を誤解したことから生まれたのかもしれません。

4択リーディングクイズ

Q1. Why does the author mention the brain's energy use?

Q2. What do brain scans such as fMRI show?

Q3. Why is the example of a stroke important?

重要単語

  • neuronC1
    名詞神経細胞The human brain has about 86 billion neurons. neuro-(神経)は neuroscience(神経科学)、neural(神経の)などに共通。
  • consumeB2
    動詞消費するThe brain consumes a lot of energy. 名詞 consumption、consumer(消費者)。time-consuming「時間のかかる」も頻出。
  • mythB2
    名詞根拠のない通説、神話The 10 percent idea is a popular myth. myth と fact の対比は長文の定番。neuromyth は「脳にまつわる俗説」。
  • plasticityC1
    名詞可塑性(変化できる性質)Brain plasticity lets us learn new skills. plastic(形を変えられる)+-ity。「プラスチック」の語源も「形づくれる」。
  • regionB1
    名詞領域、部位Different regions of the brain work together. 地理の「地域」の意味が基本。形容詞 regional。
  • scrutinyC1
    名詞厳密な調査、精査The claim did not survive scientific scrutiny. 動詞 scrutinize「精査する」。under scrutiny「厳しく調べられて」。
  • seizureC1
    名詞(てんかんなどの)発作、押収A seizure happens when many neurons fire at once. 動詞 seize(つかむ・押収する)の名詞形。発作は「病気に突然つかまれる」イメージ。

動画でもっと知る

4コマでわかる

「人間は脳の10%しか使っていない」説、脳をスキャンしたらほぼ全域が働いていたの4コマ漫画
「人間は脳の10%しか使ってない」って、脳をスキャンするとほぼ全域が働いてるのがわかるらしい。体重の2%しかない脳がエネルギーの約20%を食べてるのに、9割サボってたら大赤字。

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出典・参考文献(4件)タップで表示
  1. Raichle & Gusnard (2002) Appraising the brain's energy budget, PNASdoi.org
  2. Azevedo et al. (2009) Equal numbers of neuronal and nonneuronal cells make the human brain an isometrically scaled-up primate brain, Journal of Comparative Neurologydoi.org
  3. Herculano-Houzel (2009) The human brain in numbers: a linearly scaled-up primate brain, Frontiers in Human Neurosciencedoi.org
  4. Dekker et al. (2012) Neuromyths in education: Prevalence and predictors of misconceptions among teachers, Frontiers in Psychologydoi.org