臓器提供の同意率、ドイツ12%でオーストリア99%。差を生んだのは「初期設定」だった

読む前に予想してみよう!
臓器提供の同意率が国によって大きく違う背景には、「何もしなければ同意」かどうかという制度の違いがあった
ジョンソンとゴールドスタインの分析では、初期設定の違いが同意率の差に大きく影響していた。
- 対象
- 欧州各国の同意率データ+オンライン実験
- 規模
- 11か国+161人
- 研究の種類
- 国際比較・実験・メタ分析
- 確かさ
- ★★★★☆
「何もしなければ同意」か「何もしなければ不同意」か。初期設定(デフォルト)の違いだけで、国ごとの臓器提供の同意率に大きな差が出ていた。
ひとことで言うと人は「最初から選ばれている方」をそのまま選びがち!
ドイツとオーストリア。言葉も文化もよく似たお隣の国です。
ところが、臓器提供に同意している人の割合を比べると、ドイツは約12%、オーストリアは99%以上。
この差、国民の優しさの違い……ではありませんでした。決め手は、申込書の「初期設定」だったのです。
01「何もしない」とどうなるか、がすべて
国によって、臓器提供の意思表示には2つのタイプがあります。
- オプトイン方式:提供したい人が自分で「同意します」と申し出る(何もしなければ不同意)
- オプトアウト方式:提供したくない人が「拒否します」と申し出る(何もしなければ同意)
ドイツは前者、オーストリアは後者でした。つまり、どちらの国でも多くの人は「何もしなかった」だけ。その「何もしない」の行き先が違っていたのです。
02なぜ人は初期設定に流されるのか
デフォルト(初期設定)がこれほど強い理由は、主に3つ考えられています。
- めんどう:変えるには手間がかかる。迷ったら「そのまま」がいちばん楽
- おすすめに見える:「最初から選ばれているなら、それが普通なんだろう」と受け取る
- 損失回避:今の状態を手放すことが「損」に感じられる
特に、臓器提供のように考えるのが重たいテーマほど、人は決断を先送りにして初期設定に身を任せやすいのです。
身近な例で言えば、スマホの着信音や壁紙。買ったときのまま使っている人も多いのではないでしょうか。「変えたくない」わけではなく、「わざわざ変える理由がない」。デフォルト効果は、そんな小さな「まあいいか」の積み重ねでできているのです。
2019年には、デフォルト効果を調べた多くの研究をまとめたメタ分析も発表され、効果は全体として確かにあるものの、テーマや状況によって大きさがかなり違うことが示されました。

03お金の世界でも大活躍
デフォルト効果は、貯金の分野でも有名です。
アメリカのある企業では、退職後のための積立制度を「加入するなら申し込む」から「最初から加入、嫌なら抜ける」に変えました。すると新入社員の加入率が約4割から8割台へと大きく上がったと報告されています(Madrian と Shea、2001年)。
このように、選択の自由を残したまま、行動をそっと良い方向に後押しする工夫はナッジ(英語で「ひじでそっとつつく」)と呼ばれ、世界中の政策に使われています。
04ただし「同意率」=「提供数」ではない
ここで注意したいポイントがあります。
同意率が99%でも、実際に臓器提供が行われる数は、病院の体制や家族の意向など多くの要因で決まります。実際、35か国を比べた2019年の分析(Arshad ら)では、オプトアウト方式の国とオプトイン方式の国で、亡くなった人からの臓器提供の数に統計的に有意な差は見られなかったと報告されています。
また、初期設定は人を操作する道具にもなりえます。勝手にオプションが付いてくる通販のチェックボックスなどは、その悪い例です。
05まとめ
私たちは「自分で選んでいる」つもりでも、じつは最初から用意された選択肢に乗っているだけのことが多いのです。
臓器提供の意思表示も、あなたの「何もしない」がどちらに向かうのかを、一度確かめてみてもいいかもしれません。
この研究を英語で読もう原田英語の English CornerWhy do over 99 percent of Austrians agree to organ donation, while only about 12 percent of Germans do?
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4択クイズ9問A2・B1・B2タップして開く
原田英語の English Corner
この研究を英語で読もう
Germany and Austria are neighbors with similar cultures. But only about 12 percent of Germans agreed to be organ donors, while over 99 percent of Austrians did.
Why? In Germany, you must say "yes" to become a donor. In Austria, you are a donor unless you say "no." Most people in both countries did nothing. This shows the power of the default, the choice that is already made for you.
70 words ・ CEFR A2
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ドイツとオーストリアは、似た文化を持つお隣の国です。しかし、臓器提供に同意していたのはドイツ人では約12%だけで、オーストリア人では99%以上でした。
なぜでしょうか。ドイツでは、提供者になるには「はい」と言わなければなりません。オーストリアでは、「いいえ」と言わない限り提供者になります。両国とも、ほとんどの人は何もしませんでした。これは、あらかじめ自分のために選ばれている選択肢、つまり「初期設定」の力を示しています。
4択リーディングクイズ
Q1. What is the passage mainly about?
最終文で初期設定(default)の力を示していると述べており、それが主旨なので D。
Q2. About how many Germans agreed to be organ donors?
only about 12 percent of Germans agreed とあるので B。99%以上はオーストリア。
Q3. In this passage, "unless you say no" means ...
unless は「~しない限り」= if ... not。「いいえと言わない限り」なので A。
Why do over 99 percent of Austrians agree to organ donation, while only about 12 percent of Germans do? According to a 2003 study by Eric Johnson and Daniel Goldstein, the answer is the default setting. Austria uses an opt-out system, so people are donors unless they refuse. Germany uses an opt-in system, so people must actively sign up.
In both countries, most people simply did nothing. Defaults are powerful because changing them takes effort, because they look like a recommendation, and because giving up the current option can feel like a loss. The same idea works with money. When one American company automatically enrolled new workers in a retirement savings plan, participation rose from about 40 percent to over 80 percent.
122 words ・ CEFR B1
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なぜオーストリア人の99%以上が臓器提供に同意しているのに、ドイツ人ではわずか約12%なのでしょうか。エリック・ジョンソンとダニエル・ゴールドスタインによる2003年の研究によると、答えは初期設定です。オーストリアはオプトアウト方式を採用しているので、拒否しない限り人々は提供者になります。ドイツはオプトイン方式なので、人々は自分から登録しなければなりません。
どちらの国でも、ほとんどの人はただ何もしませんでした。初期設定が強力なのは、変えるのに手間がかかり、おすすめのように見え、今の選択肢を手放すことが損に感じられるからです。同じ考え方はお金にも当てはまります。あるアメリカの企業が新入社員を退職後の積立制度に自動で加入させたところ、加入率は約40%から80%以上に上がりました。
4択リーディングクイズ
Q1. What explains the difference between Austria and Germany?
the answer is the default setting とあり、オプトアウトとオプトインの違いを説明しているので C。
Q2. In an opt-out system, ...
Austria uses an opt-out system, so people are donors unless they refuse. とあるので A。
Q3. Which is NOT given as a reason why defaults are powerful?
本文の理由は「手間」「おすすめに見える」「損に感じる」の3つ。法律で強制されるとは書かれていないので D。
Germany and Austria share a language and much of their culture, yet only about 12 percent of Germans consent to organ donation, against more than 99 percent of Austrians. In a 2003 paper in Science, Eric Johnson and Daniel Goldstein traced the gap to the default rather than to national character. Austria presumes consent unless citizens opt out. Germany requires them to opt in.
Across Europe, opt-out countries showed consent rates above 85 percent, and an online experiment found that changing nothing but the default answer to a question shifted responses substantially. Three forces seem to be at work: the effort needed to change a choice, the sense that the preselected option is being recommended, and loss aversion, which turns the default into a reference point.
A 2019 meta-analysis found that default effects are real overall but vary a great deal from one domain to another. A high consent rate also does not guarantee more transplants. Actual donations depend on hospital systems and family wishes, and a 2019 comparison of 35 countries found no significant difference in deceased donation rates between opt-out and opt-in systems. Online shops that pre-tick paid options show how defaults can also be used manipulatively.
199 words ・ CEFR B2
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ドイツとオーストリアは言語も文化の多くも共有していますが、臓器提供に同意しているのはドイツ人の約12%にすぎず、オーストリア人では99%を超えます。2003年に『サイエンス』誌に発表された論文で、エリック・ジョンソンとダニエル・ゴールドスタインは、この差の原因を国民性ではなくデフォルト(初期設定)にあるとしました。オーストリアでは、市民が拒否を申し出ない限り同意したとみなされます。ドイツでは、同意を自分で申し出る必要があります。
ヨーロッパ全体で、拒否申告制の国は85%を超える同意率を示し、オンライン実験でも、質問のデフォルトの答えだけを変えると回答が大きく変わることがわかりました。3つの力が働いていると考えられます。選択を変えるのにかかる手間、あらかじめ選ばれた選択肢が推奨されているという感覚、そしてデフォルトを基準点にしてしまう損失回避です。
2019年のメタ分析は、デフォルト効果は全体として実在するものの、分野によって大きく異なることを示しました。また、同意率が高くても移植が増えるとは限りません。実際の提供は病院の体制や家族の意向に左右され、2019年の35か国の比較では、拒否申告制と同意申告制の間で死後の臓器提供率に有意な差は見られませんでした。有料オプションにあらかじめチェックを入れておくネットショップを見れば、デフォルトが人を操る目的にも使えることがわかります。
4択リーディングクイズ
Q1. According to Johnson and Goldstein, what mainly caused the gap in consent rates?
traced the gap to the default rather than to national character とあるので B。
Q2. What did the 2019 comparison of 35 countries find?
found no significant difference in deceased donation rates between opt-out and opt-in systems とあるので C。
Q3. What can be inferred from the passage?
同意率が高くても移植数は保証されず、病院体制や家族の意向に左右されるとあるので、制度変更だけでは不十分と推論できる。A が正解。
重要単語
- defaultB2名詞初期設定Many people never change the default settings.
by default「初期設定で・自動的に」。経済では「債務不履行」の意味もあり、文脈で判断。 - opt outC1動詞句不参加を申し出るYou can opt out at any time.
opt(選ぶ)は option と同語源。opt out of ~「~から抜ける」⇔ opt in「参加を選ぶ」。 - consentB2名詞同意The form asks for your consent.
con-(共に)+sent(感じる)=「同じように感じる」。informed consent「説明を受けた上での同意」は医療系長文の頻出語。 - nudgeC1名詞・動詞そっと後押し(する)A small nudge can help people save more.
原義は「ひじで軽くつつく」。行動経済学者セイラーの著書名で有名に。 - inertiaC1名詞惰性、慣性Inertia keeps people in the same plan.
物理の「慣性」から「変えようとしない傾向」へ。発音は /ɪˈnɜːrʃə/(イナーシャ)。 - enrollB2動詞登録する、加入させるNew workers were automatically enrolled in the plan.
en-(中に)+roll(名簿)=「名簿に載せる」。enroll in a course「講座に登録する」。 - loss aversionC1名詞(句)損失回避Loss aversion makes people keep what they already have.
aversion は「嫌悪」。averse to ~「~を嫌う」。行動経済学の最重要キーワード。
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臓器提供に同意している人の割合、ドイツは約12%、隣のオーストリアは99%超。国民性の差じゃなくて、「最初からチェックが入っているかどうか」の違いだったらしい。初期設定、おそるべし。
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出典・参考文献(4件)タップで表示
- Johnson & Goldstein (2003) Do defaults save lives?, Sciencedoi.org
- Madrian & Shea (2001) The power of suggestion: Inertia in 401(k) participation and savings behavior, The Quarterly Journal of Economicsdoi.org
- Jachimowicz et al. (2019) When and why defaults influence decisions: a meta-analysis of default effects, Behavioural Public Policydoi.org
- Arshad, Anderson & Sharif (2019) Comparison of organ donation and transplantation rates between opt-out and opt-in systems, Kidney Internationaldoi.org
※本記事は上記の研究・公開資料をもとに、原田英語が独自の言葉で解説したものです。引用は著作権法第32条の範囲で行い、出典を明記しています。画像はすべてオリジナルのイメージです。研究結果には限界や個人差があります。誤りのご指摘は原田英語のお問い合わせフォームから。













