【決着】「年収が一定を超えると幸せは頭打ち」説、ライバル同士の共同研究で書き換えられた

読む前に予想してみよう!
2023年の共同研究では、もともと幸福度が低い人たちのグループで、年収10万ドル前後から幸福感の伸びが止まっていた
多くの人は年収とともに幸福感が上がり続けたが、最も幸福度の低い層では頭打ちが見られた。
- 対象
- アメリカの働く成人
- 規模
- 約3万3千人・170万回超の回答
- 研究の種類
- 経験サンプリング調査(敵対的共同研究による再分析)
- 確かさ
- ★★★★☆
「年収7.5万ドルで幸せは頭打ち」説は、対立した研究者同士の共同研究で修正。多くの人は年収とともに幸福も上がり続けていた。
ひとことで言うとお金で幸せは増える。でも、増え方は人によってちがう!
「お金で幸せは買えない」って、よく聞きますよね。
じつは科学の世界でも、この問題は10年以上続いた大論争でした。しかも最後は、意見が真っ向から対立していた研究者同士が「一緒にデータを見直す」という、ちょっと胸アツな展開で決着したんです。
今日はその論争を、3つのラウンドに分けて追いかけてみましょう。
01ラウンド1:ノーベル賞学者「7.5万ドルで頭打ち」
2010年、ノーベル経済学賞を受けた心理学者ダニエル・カーネマンと、経済学者アンガス・ディートンが、アメリカで集めた大規模な電話調査を分析しました。
ここで大事なのは、「幸せ」を2種類に分けたことです。
- 人生の評価:「自分の人生は何点?」と振り返ったときの点数
- 感情的な幸福:「昨日、楽しい・ストレスなどをどれくらい感じた?」という日々の気分
結果、人生の評価は年収とともに上がり続けたのに、日々の気分の良さは年収約7.5万ドルあたりで伸びが止まるように見えました。これが「年収◯◯万円で幸せは頭打ち」説として世界中に広まったのです。
02ラウンド2:若手研究者「いや、頭打ちしてないよ」
2021年、ペンシルベニア大学のマシュー・キリングスワースが反論します。
彼はスマホアプリで「今どんな気分?」とランダムなタイミングで何度も尋ねる方法(経験サンプリング法:その瞬間の気分をこまめにメモしてもらうやり方)で、アメリカの働く大人3万人以上のデータを集めました。
すると、7.5万ドルを超えても、気分の良さは年収とともに上がり続けていたのです。ちょうど真逆の結論。さあ、どっちが正しい?

03ラウンド3:ライバルが手を組んだ
ここからがこの話のいちばんの見どころです。
カーネマンとキリングスワースは、言い争うのではなく、第三者の研究者バーバラ・メラーズを仲裁役にして「敵対的共同研究」(意見が対立する者同士があらかじめルールを決めて一緒に検証する方法)を行いました。
わかったのはこうです。
- ほとんどの人は、年収が上がるほど日々の幸福感も上がり続けた
- ただしもともと幸福度がいちばん低いグループ(下位15〜20%ほど)では、年収10万ドル前後で伸びが止まった
- 逆に幸福度の高いグループでは、高収入になるほど伸びがむしろ加速した
つまり2010年の「頭打ち」は、頭打ちが実際に見られるのは不幸な人たちだけなのに、「はい/いいえ」で答える質問では幸せな人どうしの差を見分けられず、全体が頭打ちのように見えてしまった可能性が高い、という結論になりました。お金で減らせる悩みもあるけれど、失恋や病気、喪失のようにお金では消せない苦しみもある。そう考えるとすんなり理解できますね。
04「お金=幸せ」と言い切れない理由
ここで勘違いしやすいポイントも押さえておきましょう。
まず、この研究は相関(いっしょに動く関係)を見ています。「お金が増えたから幸せになった」のか、「幸せで元気な人が稼ぎやすい」のかは、これだけでは区別しきれません。
もう一つ、年収と幸福の関係は比率で効くと考えられています。年収200万円→400万円の変化と、2000万円→2200万円の変化は、同じ200万円でも重みがまったく違うのです。
05まとめ
「お金で幸せは買えるか?」の答えは、多くの人にとってはイエス、でも上限なしの万能薬ではない。
そして何より面白いのは、ライバル同士が手を組んで答えに近づいたこと。科学は「どっちが勝つか」ではなく、「何が本当か」を探すゲームなんですね。
この研究を英語で読もう原田英語の English CornerCan money buy happiness?
音声
4択クイズ9問A2・B1・B2タップして開く
原田英語の English Corner
この研究を英語で読もう
Does more money make us happier? In 2010, two famous researchers said that daily happiness stops rising at about 75,000 dollars a year. In 2021, a younger researcher said this was wrong.
So the rivals worked together and checked the data again. They found that most people kept getting happier as they earned more. Only the least happy people stopped at about 100,000 dollars.
64 words ・ CEFR A2
和訳を見る
お金が増えると、私たちはもっと幸せになるのでしょうか。2010年、2人の有名な研究者が、日々の幸福感は年収約7万5千ドルで上がらなくなると言いました。2021年、若い研究者がそれは間違いだと言いました。
そこで、ライバル同士が協力して、もう一度データを確かめました。その結果、ほとんどの人は、稼ぐほど幸せになり続けていることがわかりました。最も幸福度の低い人たちだけが、約10万ドルで伸びが止まっていました。
4択リーディングクイズ
Q1. What is the passage mainly about?
お金と幸福の関係をめぐる研究者同士の論争とその決着の話なので B。
Q2. What did the rivals find when they worked together?
most people kept getting happier as they earned more とあるので D。
Q3. In this passage, "rivals" are people who ...
rival は「競争相手・ライバル」。意見が対立していた研究者を指すので A。
Can money buy happiness? In 2010, Nobel Prize winner Daniel Kahneman and economist Angus Deaton reported that people's evaluation of their lives kept rising with income, but their daily emotional happiness seemed to stop rising at around 75,000 dollars a year. In 2021, Matthew Killingsworth disagreed. Using a smartphone app that asked over 30,000 working adults about their feelings at random times, he found that happiness kept rising even above 75,000 dollars.
Instead of arguing, the two sides worked together with a third researcher. When they reanalyzed the data, they found that most people's happiness continued to rise with income. Only the least happy group, about 15 to 20 percent of people, stopped improving at around 100,000 dollars.
118 words ・ CEFR B1
和訳を見る
お金で幸せは買えるのでしょうか。2010年、ノーベル賞受賞者のダニエル・カーネマンと経済学者のアンガス・ディートンは、人々の人生に対する評価は収入とともに上がり続けるが、日々の感情的な幸福は年収約7万5千ドルあたりで上がらなくなるようだと報告しました。2021年、マシュー・キリングスワースはこれに反対しました。3万人以上の働く大人に、ランダムなタイミングで気分を尋ねるスマホアプリを使って、彼は7万5千ドルを超えても幸福感が上がり続けることを発見しました。
言い争う代わりに、両者は第三の研究者とともに協力しました。データを分析し直すと、ほとんどの人の幸福感は収入とともに上がり続けていることがわかりました。最も幸福度の低いグループ、つまり全体の約15〜20%の人たちだけが、約10万ドルで伸びが止まっていました。
4択リーディングクイズ
Q1. What did Kahneman and Deaton report in 2010?
daily emotional happiness seemed to stop rising at around 75,000 dollars とあるので B。人生の評価は上がり続けた。
Q2. How did Killingsworth collect his data?
Using a smartphone app that asked ... about their feelings at random times とあるので A。
Q3. What can we infer from the final results?
最も不幸なグループだけが10万ドルで頭打ちになったことから、お金で解決できない不幸もあると推論できるので C。
Whether money buys happiness sparked a scientific dispute lasting over a decade. In 2010, Daniel Kahneman and Angus Deaton distinguished two kinds of well-being: life evaluation, or how people rate their lives overall, and emotional well-being, or how they feel day to day. Analyzing a large telephone survey, they found that life evaluation rose steadily with income, while emotional well-being appeared to level off at around 75,000 dollars a year.
In 2021, Matthew Killingsworth challenged this conclusion using experience sampling, in which more than 30,000 employed Americans reported their feelings through a smartphone app at random moments. He found no plateau. Rather than continuing the dispute, the researchers conducted an "adversarial collaboration" with Barbara Mellers as a mediator.
Their 2023 reanalysis showed that for most people, emotional well-being kept rising with income; only the unhappiest 15 to 20 percent leveled off near 100,000 dollars, while the happiest group's gains accelerated. This suggests the earlier plateau reflected misery that money cannot fix, such as illness or loss. That said, the data are correlational, so happier people may simply earn more, and the effect of income appears to work in proportion, meaning the same raise matters more to lower earners.
198 words ・ CEFR B2
和訳を見る
お金で幸せが買えるかどうかは、10年以上続く科学的な論争を巻き起こしました。2010年、ダニエル・カーネマンとアンガス・ディートンは、幸福を2種類に区別しました。人が自分の人生を全体としてどう評価するかという「人生の評価」と、日々どう感じているかという「感情的な幸福」です。大規模な電話調査を分析した結果、人生の評価は収入とともに着実に上がる一方、感情的な幸福は年収約7万5千ドルあたりで横ばいになるように見えました。
2021年、マシュー・キリングスワースは経験サンプリング法を用いてこの結論に異議を唱えました。これは、3万人以上の働くアメリカ人が、ランダムな瞬間にスマホアプリを通じて自分の気分を報告する方法です。彼は頭打ちを見出しませんでした。論争を続ける代わりに、研究者たちはバーバラ・メラーズを仲裁役として「敵対的共同研究」を行いました。2023年の再分析では、ほとんどの人にとって感情的な幸福は収入とともに上がり続けていました。
最も不幸な15〜20%だけが10万ドル近くで横ばいになり、一方で最も幸福なグループの伸びはむしろ加速していました。これは、以前の頭打ちが、病気や喪失のようにお金では解決できない苦しみを反映していたことを示唆しています。それでも、このデータは相関的なものなので、単に幸せな人の方が多く稼いでいるのかもしれません。また、収入の効果は比率で働くようで、同じ額の昇給でも収入の低い人ほど大きな意味を持ちます。
4択リーディングクイズ
Q1. What is an "adversarial collaboration" as described in the passage?
対立していた研究者が論争を続ける代わりに、メラーズを仲裁役として共同で行った研究なので B。
Q2. What did the 2023 reanalysis find about the happiest group?
the happiest group's gains accelerated とあるので C。
Q3. Which limitation does the author mention?
the data are correlational, so happier people may simply earn more とあるので A。
重要単語
- incomeB1名詞収入Higher income can reduce money worries.
in(中に)+come(入る)=「入ってくるもの」。high / low income と形容詞は high・low を使う。 - plateauC1名詞・動詞頭打ち(になる)Happiness did not plateau for most people.
原義は「高原」。上がった後で平らになるグラフのイメージ。level off とほぼ同義。 - adversarialC1形容詞敵対する、対立するThey ran an adversarial collaboration.
名詞 adversary「敵対者」。adverse「不利な」も同語源。 - well-beingB2名詞幸福、健やかさEmotional well-being is about daily feelings.
emotional well-being(日々の感情)と life evaluation(人生の評価)の区別が本文の鍵。 - correlationC1名詞相関The study shows a correlation, not a cause.
形容詞 correlational「相関的な」。因果(causation)と区別することが入試で問われる。 - disputeB2名詞論争、争いThe dispute lasted more than ten years.
動詞としても使う。beyond dispute「議論の余地なく」。 - mediatorC1名詞仲裁者A third researcher acted as a mediator.
medi-(中間)+-ator。動詞 mediate、media(媒体)と同じ「間に入る」語根。
動画でもっと知る
動画は各チャンネルの公式埋め込みで表示しています(YouTube)。
この話題を TED で聞く
同じテーマの TED・TED-Ed を、
TED HACK で。英語の見どころ・使える表現・学習ミッションつきの日本語ガイドです。(運営:原田英語)
4コマでわかる

このネタ、誰かに教えたくなった?
「年収が一定を超えたら幸せは増えない」は有名な話。でも反論した研究者と、元の説の提唱者が一緒にデータを見直したら、多くの人は年収が上がるほど幸せも上がり続けていたらしい。
押すと「マジかリスト」に保存されます
出典・参考文献(4件)タップで表示
- Kahneman & Deaton (2010) High income improves evaluation of life but not emotional well-being, PNASdoi.org
- Killingsworth (2021) Experienced well-being rises with income, even above $75,000 per year, PNASdoi.org
- Killingsworth, Kahneman & Mellers (2023) Income and emotional well-being: A conflict resolved, PNASdoi.org
- Jebb, Tay, Diener & Oishi (2018) Happiness, income satiation and turning points around the world, Nature Human Behaviourdoi.org
※本記事は上記の研究・公開資料をもとに、原田英語が独自の言葉で解説したものです。引用は著作権法第32条の範囲で行い、出典を明記しています。画像はすべてオリジナルのイメージです。研究結果には限界や個人差があります。誤りのご指摘は原田英語のお問い合わせフォームから。











