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冷たい水に長く手をつける方を選んだ? 「終わりよければ全てよし」を証明した奇妙な実験

冷たい水に長く手をつける方を選んだ? 「終わりよければ全てよし」を証明した奇妙な実験

読む前に予想してみよう!

苦痛の時間が長くても、最後が少しマシな体験の方を「もう一度やるならこっち」と選ぶ人が多かった

研究カード(どんな研究?)
対象
冷水実験の参加者・内視鏡検査の患者
規模
数十人〜約700人
研究の種類
実験・ランダム化比較試験・メタ分析
確かさ
★★★★☆
3秒でわかる

人は体験を「一番強烈だった瞬間」と「最後」で記憶しやすい。苦痛の時間が長くても、最後が少しマシなら、もう一度選ぶ人が多かった。

ひとことで言うと思い出は「いちばんスゴかったところ」と「最後」で決まる!

もくじ
  1. 冷たい水に手をつける2つの体験
  2. 記憶は「ピーク」と「エンド」で決まる
  3. 病院の検査でも確かめられた
  4. 日常にあふれる「ピーク・エンド」
  5. まとめ

「終わりよければ全てよし」。シェイクスピアの劇のタイトルにもなった言葉です。

でも、これが人間の記憶の性質をズバリ言い当てていたとしたら?

ノーベル賞学者カーネマンらが、氷のように冷たい水を使って、そのことを確かめてしまいました。しかも結果は、ちょっと信じられないものだったのです。

01冷たい水に手をつける2つの体験

実験を行ったのは、心理学者ダニエル・カーネマンらのチームです。

冷静に考えれば、②は①につらい時間を30秒足しただけ。選ぶなら①に決まっていますよね。

ところが、約7割の人が②を選んだのです。

02記憶は「ピーク」と「エンド」で決まる

なぜこんなことが起きるのでしょう?

カーネマンらは、人が過去の体験を振り返るとき、全体の長さはほとんど気にせず、「一番強烈だった瞬間(ピーク)」と「最後の瞬間(エンド)」の平均くらいで評価していると考えました。これがピーク・エンドの法則です。

②は、最後の30秒が少しだけマシだったので、終わりの印象が良くなり、記憶全体が「まあまあ」に書き換わったのです。

ちなみに、体験の長さが記憶の評価にあまり反映されない現象は持続時間の無視と呼ばれています。

カーネマンは、私たちの中には「体験している自分」と「思い出す自分」の2人がいる、とたとえました。体験している自分にとっては、つらい30秒が増えるのは損。でも、次に何を選ぶかを決めるのは「思い出す自分」の方なのです。

記憶に残るのは、一番強い瞬間と最後の瞬間。途中は意外と薄れてしまう
記憶に残るのは、一番強い瞬間と最後の瞬間。途中は意外と薄れてしまう

03病院の検査でも確かめられた

この法則は、実際の医療の場でも調べられています。

カーネマンと医師のドナルド・レデルマイヤーは、大腸の内視鏡検査を受ける患者を調べ、検査の長さではなく、痛みのピークと最後の痛みが、あとで振り返ったときの「つらさ」の評価とよく結びついていることを報告しました(1996年)。

さらに約700人の患者をランダムに2つに分けた2003年の試験(Redelmeier・Katz・Kahneman)では、検査の最後に少しだけ楽な時間を加えると、患者が検査を振り返ったときの印象が良くなり、その後の検査を受けてくれやすくなる可能性も示されています。

04日常にあふれる「ピーク・エンド」

この法則を知ると、身の回りの工夫が見えてきます。

  • テーマパーク:最後にパレードや花火があると、待ち時間の記憶が薄れる
  • コース料理:最後のデザートが、食事全体の印象を左右する
  • 旅行:トラブル続きでも、最終日の夕日が最高なら「いい旅だった」になる

逆に、楽しい1日でも最後にケンカをすると、その日全体が「最悪の日」として記憶されてしまうことも。

05まとめ

私たちの記憶は、ビデオカメラのように全部を記録しているわけではありません。一番の山場と、最後の場面を切り取った「ハイライト集」なのです。

だからこそ、終わり方を少し工夫するだけで、思い出はぐっと良くなる。「終わりよければ全てよし」は、科学的にも使える知恵でした。

この研究を英語で読もう原田英語の English Corner"All's well that ends well" may describe how our memory works. 音声 4択クイズ9問A2・B1・B2タップして開く

原田英語の English Corner

この研究を英語で読もう

"All's well that ends well" may describe how our memory works. In a 1993 experiment led by Daniel Kahneman, participants had two painful experiences. In one, they held a hand in 14°C water for 60 seconds. In the other, they did the same, but then kept their hand in the water for 30 more seconds while the temperature rose slightly.

The second trial included more pain, yet about 70 percent chose to repeat it. Kahneman explained that we judge past experiences mainly by their most intense moment, or peak, and by how they end. This is called the peak-end rule. We also tend to ignore how long an experience lasted, which is known as duration neglect.

116 words ・ CEFR B1

和訳を見る

「終わりよければ全てよし」は、私たちの記憶の働きを言い表しているのかもしれません。ダニエル・カーネマンが率いた1993年の実験で、参加者は2つのつらい体験をしました。一方では、14℃の水に片手を60秒間つけました。もう一方では同じことをしたあと、水温が少しだけ上がる間、さらに30秒手を水につけておきました。

2つ目の試行の方が苦痛は多かったのに、約70%の人がそれをもう一度やると選びました。カーネマンは、私たちは過去の体験を主に、最も強烈な瞬間(ピーク)と、どう終わったかで判断すると説明しました。これはピーク・エンドの法則と呼ばれます。私たちはまた、体験がどれくらい続いたかを無視しがちで、これは持続時間の無視として知られています。

4択リーディングクイズ

Q1. What was different about the second trial?

Q2. What is the peak-end rule?

Q3. What can we infer from the experiment?

重要単語

  • peakB1
    名詞頂点、山場The peak of the pain was short. peak hours「ピーク時」。動詞では「頂点に達する」。peek(のぞく)と綴りを区別。
  • durationB2
    名詞持続時間We often ignore the duration of an event. dur-(続く)は during, durable と同じ語根。for the duration of ~「~の間ずっと」。
  • retrospectiveC1
    形容詞振り返ってのRetrospective ratings depend on the ending. retro-(後ろへ)+spect(見る)。in retrospect「振り返ってみると」。
  • evaluateB2
    動詞評価するPatients evaluated the test afterwards. 名詞 evaluation。e-(外へ)+value(価値)=「価値を引き出す」。
  • colonoscopyC1
    名詞大腸内視鏡検査The colonoscopy study tested the peak-end rule. colon(大腸)+-scopy(見ること)。microscope, telescope の scope と同じ語根。
  • endureB2
    動詞耐えるThey endured the cold water for 60 seconds. dur-(続く)を含む語。bear / put up with と言い換え可能。名詞 endurance「忍耐力」。
  • neglectB2
    名詞・動詞無視(する)、怠るDuration neglect means we ignore how long something lasted. neg-(否定)+lect(選ぶ)=「選ばない」。ignore より「なおざりにする」ニュアンス。

動画でもっと知る

4コマでわかる

冷たい水に長く手をつける方を選んだ? 「終わりよければ全てよし」を証明した奇妙な実験の4コマ漫画
冷たい水に手を60秒つける体験と、60秒+水温をちょっとだけ上げて30秒追加する体験。苦痛は後者の方が長いのに、もう一度やるならと聞くと約7割が後者を選んだらしい。記憶は「最後」に支配されてる。

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出典・参考文献(4件)タップで表示
  1. Kahneman, Fredrickson, Schreiber & Redelmeier (1993) When more pain is preferred to less: Adding a better end, Psychological Sciencedoi.org
  2. Redelmeier & Kahneman (1996) Patients' memories of painful medical treatments: Real-time and retrospective evaluations of two minimally invasive procedures, Paindoi.org
  3. Redelmeier, Katz & Kahneman (2003) Memories of colonoscopy: A randomized trial, Paindoi.org
  4. Alaybek et al. (2022) All's well that ends (and peaks) well? A meta-analysis of the peak-end rule and duration neglect, Organizational Behavior and Human Decision Processesdoi.org