大航海時代の船乗りを襲った壊血病。「レモンで治る」とわかっていたのに、なぜ忘れられたのか

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壊血病の原因であるビタミンCは、リンドの実験からすぐに特定された
ビタミンCが分離・特定されたのは1930年前後で、リンドの試験から約180年後だった。
- 対象
- 1747年ソールズベリー号の船上試験
- 規模
- 船員12人(2人ずつ6群)
- 研究の種類
- 前向きの比較試験(ランダム化なし)
- 確かさ
- ★★★☆☆
1747年、英海軍の医師リンドが船上で治療を比べる試験を行い、オレンジとレモンの効果を示した。だが原因がわからないまま、19世紀に壊血病はぶり返した。
ひとことで言うと果物で治る病気なのに、原因がわからず何度も忘れられてしまった。
壊血病。大航海時代、多くの船乗りの命を奪った病気の一つです。
症状は、だるさ、あざ、歯ぐきからの出血、足のむくみ。放っておくと命を落とします。長い航海では、乗組員の多くが倒れることもありました。
おどろくのは、この病気が「果物を食べれば治る」と、何度も発見され、そして何度も忘れられてきたことです。
01船の上で行われた「比べる実験」
1747年、英国海軍の軍医ジェームズ・リンドは、軍艦ソールズベリー号の上で、ある試みを行いました。
壊血病の患者12人を2人ずつ6組に分け、同じ食事を与えながら、グループごとに違うものを追加したのです。りんご酒、硫酸の希釈液、酢、海水、薬草とスパイス、そしてオレンジとレモン。
ただし、くじ引きで割り当てたわけではなく、人数もごく少数です。現代のランダム化比較試験とは違います。
02それでも、すぐには広まらなかった
リンド自身、柑橘類が効く「理由」はわかりませんでした。当時は、壊血病は腐敗や湿気、消化の乱れなどが原因と考えられていました。
さらに、リンドは果汁を濃縮して保存する方法を工夫しましたが、加熱によってビタミンCが壊れてしまうことを知りませんでした。保存した「濃縮果汁」が効かないことも、混乱を招きました。
英国海軍がレモン果汁の支給を本格化させるのは、リンドの試験から約50年後です。その効果は劇的で、艦隊から壊血病がほぼ消えました。

03どんでん返し:19世紀に壊血病はぶり返した
ところが19世紀後半、英国海軍は供給の都合などから、レモン果汁を西インド諸島産のライム果汁に切り替えました。
壊血病の正体がビタミンC(アスコルビン酸)の欠乏だと確立するのは20世紀です。ハンガリー出身の生化学者セント・ジェルジは、ビタミンCに関する研究で1937年のノーベル生理学・医学賞を受けています。
04日本にも似た話があった
同じころ、日本の海軍でも脚気(かっけ)が大問題でした。
海軍医高木兼寛は、階級によって発症率が違うことに注目し、食事が原因ではないかと考えます。1884年、脚気が多発した練習艦龍驤(1882〜83年の航海)と同じ航路で筑波を航海させ、食事を変えて比較し、食事を改善した艦では脚気が激減しました。原因がビタミンB₁の欠乏だと判明する30年以上前の出来事です。
05まとめ
- 壊血病はビタミンC欠乏で起こり、柑橘類で治る
- 1747年、リンドは船上で6通りの治療を比べ、オレンジとレモンの効果を示した
- 原因物質が不明だったため、ライム果汁へのすり替えで19世紀に再発した
- 日本の脚気と高木兼寛の比較実験も、よく似た物語
「効く」から「なぜ効く」へ。この一歩を踏み出せるかどうかが、科学と経験則の分かれ道です。
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Long ago, many sailors on long trips got a serious illness called scurvy. In 1747, a ship doctor named James Lind tried an experiment. He gave 12 sick sailors six different treatments. The two sailors who ate oranges and lemons got better fastest.
But nobody knew why fruit worked. Later, the navy used lime juice instead of lemon juice, and scurvy came back.
63 words ・ CEFR A2
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昔、長い航海に出た多くの船乗りが、壊血病という重い病気にかかりました。1747年、ジェームズ・リンドという船の医師がある実験を試みました。彼は病気の船乗り12人に、6種類の異なる治療を与えました。オレンジとレモンを食べた2人の船乗りが、最も早く回復しました。
しかし、なぜ果物が効くのかは誰にもわかりませんでした。のちに海軍はレモン果汁の代わりにライム果汁を使い、壊血病が再び起こりました。
4択リーディングクイズ
Q1. What is the passage mainly about?
壊血病の治療を比べた実験と、のちに病気が再発した理由がテーマなので D。
Q2. Which sailors got better fastest?
The two sailors who ate oranges and lemons got better fastest. とあるので B。
Q3. In this passage, "came back" means scurvy ...
come back は「戻ってくる」。病気が再び起きたという意味なので C。
Scurvy, which causes tiredness, bruises and bleeding gums, was one of the greatest dangers for sailors on long voyages. In 1747, James Lind, a doctor in the British navy, divided 12 sick sailors into six pairs. They all ate the same basic food, but each pair received something different, such as cider, vinegar, sea water or oranges and lemons.
The pair given citrus fruit recovered most quickly. Because Lind compared groups under similar conditions, his test is seen as an early model of the clinical trial. However, he did not understand why the fruit worked, and the navy only began supplying lemon juice about 50 years later. Without this knowledge, people later made changes that allowed the disease to return.
120 words ・ CEFR B1
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だるさやあざ、歯ぐきからの出血を引き起こす壊血病は、長い航海に出る船乗りにとって最大の危険の一つでした。1747年、英国海軍の医師ジェームズ・リンドは、病気の船乗り12人を2人ずつ6組に分けました。全員が同じ基本の食事をとりましたが、組ごとにりんご酒、酢、海水、オレンジとレモンなど、違うものが与えられました。
柑橘類を与えられた組が最も早く回復しました。リンドは似た条件のもとでグループを比べたため、彼の試験は臨床試験の初期の原型とみなされています。しかし、彼はなぜ果物が効くのかを理解しておらず、海軍がレモン果汁の支給を始めたのは約50年後のことでした。この知識がなかったため、人々は後に、病気が再発してしまうような変更を加えてしまいました。
4択リーディングクイズ
Q1. How did Lind organize his experiment?
divided 12 sick sailors into six pairs ... each pair received something different とあるので A。
Q2. Why is Lind's test considered an early model of the clinical trial?
Because Lind compared groups under similar conditions とあるので B。
Q3. What is the writer's main point in the last two sentences?
なぜ効くかわからないまま変更を加え、病気が再発したと述べており、理由を知る重要性を示しているので D。
Scurvy, marked by fatigue, bruising and bleeding gums, was a leading cause of death among sailors during the age of long ocean voyages. In 1747, the naval surgeon James Lind tested six remedies aboard HMS Salisbury, assigning two of 12 affected sailors to each, while keeping their basic diet the same. Those given oranges and lemons improved fastest, a result he published in 1753.
Because it used concurrent comparison groups and controlled other conditions, the experiment is often described as a forerunner of the clinical trial, though it was tiny, unblinded and not randomized. Its impact was also limited by a lack of theory. Lind believed scurvy involved decay and poor digestion, and he did not realize that heating fruit juice to preserve it destroyed the active substance.
The British navy adopted lemon juice roughly 50 years later, with dramatic results, but in the late nineteenth century it switched to lime juice, which contains less vitamin C and lost more during processing. Scurvy reappeared, notably on polar expeditions. Only in the twentieth century was vitamin C deficiency established as the cause. An effective remedy was lost because no one knew why it worked.
193 words ・ CEFR B2
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疲労、あざ、歯ぐきの出血を特徴とする壊血病は、長い海洋航海の時代に船乗りの主要な死因の一つでした。1747年、海軍軍医ジェームズ・リンドはソールズベリー号の船上で6つの治療法を試し、壊血病にかかった12人の船乗りを2人ずつ各治療に割り当て、基本の食事は同じに保ちました。オレンジとレモンを与えられた人が最も早く回復し、彼はこの結果を1753年に発表しました。
同時に比較する群を用い、他の条件をそろえていたため、この実験はしばしば臨床試験の先駆けとされますが、規模はごく小さく、盲検化もランダム化もされていませんでした。その影響は、理論の欠如によっても限られていました。リンドは壊血病が腐敗や消化不良に関わると考えており、保存のために果汁を加熱すると有効成分が壊れることに気づいていませんでした。英国海軍は約50年後にレモン果汁を採用し、劇的な効果を上げましたが、19世紀後半にはライム果汁に切り替えました。
ライム果汁はビタミンCが少なく、加工の過程でさらに多くが失われました。壊血病は、特に極地探検で再び現れました。ビタミンCの欠乏が原因だと確立されたのは20世紀になってからです。効くとわかっていた治療法は、なぜ効くのかを誰も知らなかったために、失われてしまったのです。
4択リーディングクイズ
Q1. Which of the following best summarizes the passage?
比較で柑橘の効果を示したが、原因がわからずライムへの切り替えで再発した、という流れなので C。
Q2. Which limitation of Lind's experiment is mentioned?
it was tiny, unblinded and not randomized とあるので A。
Q3. Why did scurvy reappear in the late nineteenth century?
switched to lime juice, which contains less vitamin C and lost more during processing とあるので D。
重要単語
- scurvyC1名詞壊血病Scurvy was the sailor's worst enemy.
ビタミンCの別名 ascorbic acid は a-(否定)+scorbutus(壊血病)=「壊血病を防ぐ酸」。 - deficiencyC1名詞欠乏Scurvy is caused by vitamin C deficiency.
形容詞 deficient。be deficient in ~「~が不足している」。 - citrusB2名詞・形容詞柑橘類(の)Citrus fruit cured the disease.
citrus fruit でレモン・オレンジ・ライムなどの総称。citric acid は「クエン酸」。 - trialB2名詞試験・治験His trial compared six treatments.
clinical trial「臨床試験」。trial and error「試行錯誤」も頻出。 - gumsB2名詞歯ぐきBleeding gums are a sign of scurvy.
gum は「ガム」の意味もある。歯ぐきの意味ではふつう複数形 gums。 - voyageB2名詞航海Long voyages made the problem worse.
主に船や宇宙の長い旅。Bon voyage!「よい旅を」はフランス語由来。 - empiricalC1形容詞経験的な・実証的なThe remedy was based on empirical observation.
empirical evidence「実証的証拠」は論説文の頻出語。
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大航海時代の船乗りを襲った壊血病。1747年に軍医リンドが船上で6通りの治療を比べレモンの効果を示したのに、原因が不明なまま19世紀に病気はぶり返した。
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出典・参考文献(3件)タップで表示
- Baron (2009) Sailors' scurvy before and after James Lind - a reassessment, Nutrition Reviewsdoi.org
- Bartholomew (2002) James Lind's Treatise of the Scurvy (1753), Postgraduate Medical Journaldoi.org
- Sugiyama & Seita (2013) Kanehiro Takaki and the control of beriberi in the Japanese Navy, Journal of the Royal Society of Medicinedoi.org
※本記事は上記の研究・公開資料をもとに、原田英語が独自の言葉で解説したものです。引用は著作権法第32条の範囲で行い、出典を明記しています。画像はすべてオリジナルのイメージです。研究結果には限界や個人差があります。誤りのご指摘は原田英語のお問い合わせフォームから。












