「共感の正体はミラーニューロン」は言い過ぎだった? 大発見が"盛られた"30年

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自閉スペクトラム症の原因は「ミラーニューロンの故障」だと科学的に確かめられている
25本の研究をまとめた系統的レビューでは、ミラーシステム全体の不全を示す証拠は乏しかった。
- 対象
- サル・てんかん患者・脳画像研究
- 規模
- 多数の研究
- 研究の種類
- 単一神経記録・fMRI・系統的レビュー
- 確かさ
- ★★★☆☆
サルの脳で見つかった「ものまね細胞」ミラーニューロンは実在する。でも共感・言語・自閉症まで説明できるという話は、証拠が追いついていなかった。
ひとことで言うとミラーニューロンは本当にある。でも「心の全部」の正体ではなかった。
友だちがあくびをすると、つられてしまう。映画で誰かが指を切ると、自分まで「イタッ」となる。
こうした現象の説明として、一時期ものすごく人気を集めたのが「ミラーニューロン(鏡の神経細胞)」です。「共感の正体」「言葉の起源」「自閉症の原因」……ミラーニューロンはまるで心の万能キーのように語られてきました。
でも、それって本当なのでしょうか?
01サルの脳で見つかった「ものまね細胞」
「自分がする」と「他人がするのを見る」の両方で反応する。まるで他人の動作を、自分の脳の中で鏡のように映しているようです。この細胞はのちにミラーニューロンと名づけられました。
02「心の万能キー」としてブームに
この発見は大きな反響を呼びました。
他人の動作を自分の脳でなぞれるなら、相手の意図や気持ちがわかる(共感)のもそのおかげでは? 人がまねをして言葉を覚えるのも? 他人の気持ちを読み取るのが苦手とされる自閉スペクトラム症は、ミラーニューロンの「故障」では?
アイデアは次々に広がり、ある著名な神経科学者は「ミラーニューロンは、DNAが生物学にしたことを心理学にするだろう」とまで予言しました。

03「8つの問題点」というツッコミ
しかし2009年、アメリカの認知科学者ヒコック(Hickok)は、「ミラーニューロン理論の8つの問題」という論文で強烈なツッコミを入れました。たとえば——
- 運動の領域が傷ついて動作ができなくなった人でも、他人の動作の意味は理解できる場合がある
- 動作を「理解」するのにミラーニューロンが必要だという直接の証拠は乏しい
- サルは人ほど上手にまねをしないのに、ミラーニューロンを持っている
さらに人間では、脳に電極を入れられる機会が限られるため、証拠の多くはfMRIなどの間接的な測定でした。2010年には、てんかん患者の1,177個の細胞を記録した研究で、人にも「する・見る」の両方に反応する細胞があることが示されましたが、場所はサルの研究とは違う領域も含んでいました。
04自閉症の「壊れた鏡」説はどうなった?
2013年、イギリスのハミルトン(Hamilton)さんは、自閉スペクトラム症とミラーシステムを調べた研究25本を系統的にレビューしました。結論は、データはバラバラで、ミラーシステム全体の不全を示す証拠は乏しいというものでした。
05まとめ
ミラーニューロンは、ちゃんと存在する面白い細胞です。ただ、「共感も言葉も自閉症も、ぜんぶミラーニューロンで説明できる」という話は、証拠よりずっと先を走っていました。
大発見ほど、話は大きくなりがち。ニュースで「〇〇の正体がついに判明!」と見たら、ミラーニューロンの30年を思い出してみてください。
この研究を英語で読もう原田英語の English CornerIn the early 1990s, a team at the University of Parma in Italy was recording cells in a movement area of…
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4択クイズ9問A2・B1・B2タップして開く
原田英語の English Corner
この研究を英語で読もう
In the early 1990s, scientists in Italy studied the brains of monkeys. Some brain cells became active when a monkey picked up food. The same cells were also active when the monkey only watched a person pick up food. These cells were called mirror neurons. Many people said they explain kindness, language and autism.
But later studies did not find enough proof for these big ideas. The cells are real, but the story was too big.
76 words ・ CEFR A2
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1990年代のはじめ、イタリアの科学者たちはサルの脳を調べていました。いくつかの脳の細胞は、サルが食べ物をつかむときに活動しました。同じ細胞は、サルが人が食べ物をつかむのをただ見ているときにも活動しました。これらの細胞はミラーニューロンと呼ばれました。多くの人が、それで思いやりや言葉、自閉症が説明できると言いました。
しかし、その後の研究では、こうした大きな考えを支える十分な証拠は見つかりませんでした。細胞は本物ですが、話が大きくなりすぎたのです。
4択リーディングクイズ
Q1. What is the passage mainly about?
ミラーニューロンの発見と、その後「話が大きくなりすぎた」ことが全体のテーマなので A。
Q2. When were the special cells active?
サルが自分でつかむときと、人がつかむのを見ているときの両方で活動したとあるので C。鏡を見たわけではない。
Q3. In this passage, "proof" is closest in meaning to ...
proof は「証拠・証明」。evidence とほぼ同じ意味なので D。
In the early 1990s, a team at the University of Parma in Italy was recording cells in a movement area of the monkey brain. They noticed that some cells fired not only when the monkey grasped an object but also when it watched a researcher do the same. These cells became known as mirror neurons, and the discovery caused great excitement. People suggested that they could explain empathy, how we learn language, and even autism.
However, in 2009 a scientist named Hickok listed eight problems with this theory. For example, some people who cannot perform an action because of brain damage can still understand it. In 2013, a review of 25 studies found little evidence that autism is caused by a broken mirror system.
124 words ・ CEFR B1
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1990年代のはじめ、イタリアのパルマ大学のチームは、サルの脳の運動に関わる領域で細胞の活動を記録していました。彼らは、一部の細胞がサルが物をつかむときだけでなく、研究者が同じことをするのを見ているときにも反応することに気づきました。これらの細胞はミラーニューロンとして知られるようになり、この発見は大きな興奮を巻き起こしました。人々は、それによって共感や言葉の習得、さらには自閉症まで説明できるかもしれないと考えました。
しかし2009年、ヒコックという科学者がこの理論の8つの問題点を挙げました。たとえば、脳の損傷のために動作ができない人でも、その動作を理解できる場合があります。2013年には、25本の研究をまとめたレビューで、自閉症が「壊れたミラーシステム」によって起こるという証拠はほとんど見つかりませんでした。
4択リーディングクイズ
Q1. Where were mirror neurons first found?
a movement area of the monkey brain で細胞を記録していて見つかったので B。
Q2. What did the 2013 review of 25 studies find?
found little evidence that autism is caused by a broken mirror system とあるので D。
Q3. What does the example of people with brain damage suggest?
動作ができなくても理解はできる例は、「理解には自分で動作する仕組みが必要」という説への反例なので C。
In 1992, researchers in Parma reported that certain neurons in a motor region of the monkey brain fired when the animal grasped an object, and also when it simply watched a person do the same thing. These "mirror neurons" seemed to show that the brain simulates other people's actions internally.
Soon the idea was being stretched to explain empathy, the origins of language and autism, and one prominent neuroscientist predicted that mirror neurons would do for psychology what DNA did for biology. Critics argued that the evidence lagged far behind such claims. In 2009, Hickok listed eight problems. Some patients who cannot perform an action can still understand it, for example, and monkeys have mirror neurons even though they are poor imitators.
Most of the human evidence came from fMRI, which shows only that the same regions are active, not that the same cells are. A 2010 study of 1,177 neurons in epilepsy patients did find cells that responded to both doing and seeing, though partly in different areas from those in monkeys. The autism claim fared worse. A 2013 systematic review of 25 studies found inconsistent data and little support for a global mirror-system deficit in autism.
198 words ・ CEFR B2
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1992年、パルマの研究者たちは、サルの脳の運動領域にある特定の神経細胞が、サルが物をつかむときに反応し、さらに人が同じことをするのをただ見ているときにも反応すると報告しました。この「ミラーニューロン」は、脳が他者の動作を内部で模擬していることを示しているように思われました。
まもなくこの考えは、共感や言語の起源、自閉症の説明にまで広げられ、ある著名な神経科学者は、ミラーニューロンはDNAが生物学にしたことを心理学にするだろうと予言しました。批判者たちは、証拠はそうした主張にはるかに追いついていないと論じました。2009年、ヒコックは8つの問題を挙げました。たとえば、動作を行えない患者でもその動作を理解できる場合があり、サルはまねが下手なのにミラーニューロンを持っています。
ヒトの証拠の多くはfMRIによるもので、fMRIは同じ領域が活動することは示せても、同じ細胞が活動することは示せません。2010年にてんかん患者の1,177個の神経細胞を記録した研究では、「する」と「見る」の両方に反応する細胞が確かに見つかりましたが、その一部はサルとは異なる領域にありました。自閉症についての主張は、さらに分が悪いものでした。25本の研究を対象とした2013年の系統的レビューでは、データは一貫せず、自閉症におけるミラーシステム全体の不全を支持する証拠はほとんどありませんでした。
4択リーディングクイズ
Q1. What is the author's main point?
細胞は1992年や2010年の研究で見つかっているが、the evidence lagged far behind such claims とあり、自閉症の説明も little support とされているので C。
Q2. Why is fMRI evidence described as limited?
which shows only that the same regions are active, not that the same cells are とあるので B。
Q3. Why does the author mention that monkeys are "poor imitators"?
まねが下手なサルにもミラーニューロンがある=「ミラーニューロンが模倣の基盤」という説への疑問として挙げられているので A。
重要単語
- mirror neuronC1名詞(句)ミラーニューロンMirror neurons fire when we watch others move.
mirror(鏡)のように他者の動作を自分の脳に映す細胞、というイメージで命名。 - empathyB2名詞共感Empathy helps us understand how others feel.
sympathy(同情)との違いが入試頻出。empathy は相手の立場で感じること。動詞 empathize with ~。 - imitationB1名詞模倣、まねBabies learn a lot through imitation.
動詞 imitate。imitator は「まねする者」。形容詞 imitation(模造の)としても使う。 - overstateC1動詞誇張する、言い過ぎるThe headline overstated the results.
over(過剰に)+state(述べる)。反対は understate。It is hard to overstate ~「~はいくら強調してもしすぎることはない」。 - evidenceB1名詞証拠We need more evidence before we decide.
不可算名詞なので an evidence は不可。a piece of evidence と数える。 - simulateB2動詞模擬的に再現するThe brain may simulate other people's actions.
similar と同語源。名詞 simulation。flight simulator(飛行訓練装置)で覚えやすい。
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他人の動きを見ただけで、自分が動いたときと同じように反応する「ミラーニューロン」。共感や言葉の起源まで説明できると大ブームになったけど、その後の研究で「さすがに盛りすぎ」という声が強まったらしい。
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出典・参考文献(5件)タップで表示
- di Pellegrino et al. (1992) Understanding motor events: a neurophysiological study, Experimental Brain Researchdoi.org
- Rizzolatti & Craighero (2004) The mirror-neuron system, Annual Review of Neurosciencedoi.org
- Hickok (2009) Eight problems for the mirror neuron theory of action understanding in monkeys and humans, Journal of Cognitive Neurosciencedoi.org
- Mukamel et al. (2010) Single-neuron responses in humans during execution and observation of actions, Current Biologydoi.org
- Hamilton (2013) Reflecting on the mirror neuron system in autism: a systematic review of current theories, Developmental Cognitive Neurosciencedoi.org
※本記事は上記の研究・公開資料をもとに、原田英語が独自の言葉で解説したものです。引用は著作権法第32条の範囲で行い、出典を明記しています。画像はすべてオリジナルのイメージです。研究結果には限界や個人差があります。誤りのご指摘は原田英語のお問い合わせフォームから。













