脳と心理ビミョー

「バカほど自信満々」は誤解だった。ダニング=クルーガー効果の本当の中身

「バカほど自信満々」は誤解だった。ダニング=クルーガー効果の本当の中身

読む前に予想してみよう!

ダニング=クルーガーの研究で、成績下位の人は上位の人より自分の成績を高く見積もっていた

研究カード(どんな研究?)
対象
大学生ほか
規模
原典は4研究・数十〜百数十人、追試は約4,000人×2
研究の種類
実験研究+統計的再分析・大規模追試
確かさ
★★★☆☆
3秒でわかる

成績の低い人ほど自分を過大評価する傾向は見つかった。でも「無能ほど自信満々」というネットの定番グラフは元論文になく、統計のクセで説明できるという批判もある。

ひとことで言うと自分の実力を当てるのは、だれにとっても難しい!

もくじ
  1. 元の実験は何を調べたのか
  2. ネットのあの「山型グラフ」は論文にない
  3. 誤解その2「無能な人ほど自信満々」
  4. 「統計のトリックでは?」という鋭いツッコミ
  5. じゃあ、どう受け止めればいい?
  6. まとめ

SNSで誰かが的外れな自信満々の発言をすると、決まって登場する言葉があります。「はい、ダニング=クルーガー効果」。

「能力の低い人ほど、自分を過大評価する」。グラフ付きで紹介されることも多いこの心理学用語、実はかなり誤解されて広まっているって知ってましたか?

元の論文を読み直すと、話はもっと地味で、そしてもっと私たち全員に関係のある内容でした。

01元の実験は何を調べたのか

研究者たちの解釈はこうです。ある分野の能力が足りないと、自分の間違いに気づくための能力も足りない。だから実力を正しく見積もれない――「二重の苦しみ」というわけです。

02ネットのあの「山型グラフ」は論文にない

ここで大きな誤解その1。ネットでよく見る「知識ゼロで自信が急上昇し("バカの山")、学ぶと自信が谷底へ落ち、熟練でまた上がる」というジェットコースターのような曲線。

これ、元の論文には載っていません。後から誰かが作った、いわば「イメージ図」です。

よく出回る「自信の曲線」は、元の論文のグラフとは別物
よく出回る「自信の曲線」は、元の論文のグラフとは別物

03誤解その2「無能な人ほど自信満々」

もう一つの誤解は、「成績が低い人が一番自信満々」というもの。

実際のデータでは、下位グループの自己評価は実力より高かったけれど、それでも上位グループの自己評価よりは低かったのです。つまり、実力が上がるほど自己評価もちゃんと上がっていました。ただ、その上がり方がゆるやかで、下は高めに、上は低めに「真ん中寄り」に見積もってしまう、というのが正確な姿です。

04「統計のトリックでは?」という鋭いツッコミ

さらに近年は、効果そのものに疑問も出ています。

研究者の中には、完全にランダムな数字でシミュレーションしても、同じようなグラフが描けてしまうと指摘した人たちがいます。理由は主に2つ。

  • 平均への回帰:極端に低い(高い)点を取った人は、たまたま運が悪かった(良かった)部分もあるので、自己評価は真ん中に寄りやすい
  • 平均以上効果:そもそも多くの人が「自分は平均より少し上」と思いがち

この2つだけで、ダニング=クルーガー型のグラフの大部分が説明できてしまう、という主張です(Journal of Personality and Social Psychology, 2002 など)。より厳密な分析方法で調べ直すと、効果は存在してもかなり小さいとする研究もあります(Intelligence, 2020)。

ただし、話はまだ決着していません。2021年には米国の研究チームが、元の研究の文法と論理のテストを約4,000人ずつの2つの研究で大規模に追試し、数理モデルで分析しました(Nature Human Behaviour, 2021)。その結果は、「成績の低い人は、自分の答えが合っているかどうかを判断する力も弱い」という、元の解釈を支持するものでした。統計のクセだけでは片付けられない部分も残っている、というのが現時点での落ち着きどころです。

05じゃあ、どう受け止めればいい?

効果の大きさや仕組みは議論中ですが、「自分の実力を正確に知るのは難しい」という点は、多くの研究者が認めるところです。

06まとめ

ダニング=クルーガー効果は、「バカを笑うための言葉」ではなく、人間みんなが持つ自己評価のクセを指摘した研究でした。そしてその研究自体が、今も科学者たちのツッコミを受けて磨かれ続けています。

自分の物差しは、思っているより狂っているかもしれない。そう思えることこそ、賢さの第一歩なのかもしれません。

この研究を英語で読もう原田英語の English CornerThe Dunning-Kruger effect is often described as "the less you know, the more confident you are." However,… 音声 4択クイズ9問A2・B1・B2タップして開く

原田英語の English Corner

この研究を英語で読もう

The Dunning-Kruger effect is often described as "the less you know, the more confident you are." However, the original 1999 study says something different. Researchers gave college students tests in humor, logical reasoning and grammar, and asked them to guess how they ranked. The lowest-scoring group was actually around the 12th percentile, but they guessed they were around the 62nd. Top students slightly underestimated themselves. Low scorers still rated themselves below top scorers.

Also, the popular curve showing a "peak of stupidity" does not appear in the paper. Some researchers argue that statistics can create this pattern, but a large 2021 study suggested that low performers really are worse at judging whether their answers are correct.

116 words ・ CEFR B1

和訳を見る

ダニング=クルーガー効果は、よく「知らない人ほど自信がある」と説明されます。しかし、1999年の元の研究が述べていることは違います。研究者たちは大学生にユーモア、論理的思考、文法のテストを受けさせ、自分が何位くらいかを予想させました。最も成績の低いグループは、実際には12パーセンタイルあたりでしたが、自分は62パーセンタイルくらいだと予想しました。上位の学生は自分をわずかに低く見積もっていました。それでも、成績の低い学生は、上位の学生より自分を低く評価していました。

また、「バカの山」を示す有名な曲線は、論文には載っていません。統計がこのパターンを作り出しうると主張する研究者もいますが、2021年の大規模な研究は、成績の低い人は自分の答えが正しいかどうかを判断するのが本当に苦手であることを示唆しました。

4択リーディングクイズ

Q1. What is the main point of the passage?

Q2. Where did the lowest-scoring group think they ranked?

Q3. What did the 2021 study suggest?

重要単語

  • overestimateC1
    動詞過大評価するMany drivers overestimate their own skills. 反対は underestimate(過小評価する)。estimate は「見積もる」で /ˈestɪmeɪt/(動詞)。
  • metacognitionC1
    名詞メタ認知(自分の考えを客観的に見る力)Good metacognition helps you notice your own mistakes. meta(~を超えて)+cognition(認知)。「考えについて考える力」として教育系長文で頻出。
  • percentileC1
    名詞パーセンタイル(全体の中の位置)She scored in the 90th percentile. 90th percentile は「下から90%の位置」=上位10%。偏差値とは別の指標。
  • regression to the meanC1
    名詞(句)平均への回帰Regression to the mean can create misleading patterns. 極端な値の次は平均に近い値が出やすい現象。regress は「後戻りする」。
  • artifactC1
    名詞(統計上の)見かけの結果、人工産物The pattern may be a statistical artifact. 本来は「人工物・遺物」。art(技)+fact(作られたもの)。英国つづりは artefact。
  • competenceB2
    名詞能力、力量It is hard to judge your own competence. 形容詞 competent(有能な)、反対は incompetence(無能)。原題 own incompetence にも登場。

動画でもっと知る

ネットでよく見る「ダニング=クルーガー効果」の山型グラフ、実は元論文には載っていないらしい。しかも成績が低い人も、上位の人より自分を高く見積もってたわけじゃない。誤解されすぎた心理学。

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出典・参考文献(5件)タップで表示
  1. Kruger & Dunning (1999) Unskilled and unaware of it: how difficulties in recognizing one's own incompetence lead to inflated self-assessments, Journal of Personality and Social Psychologydoi.org
  2. Krueger & Mueller (2002) Unskilled, unaware, or both? The better-than-average heuristic and statistical regression predict errors in estimates of own performance, Journal of Personality and Social Psychologydoi.org
  3. Nuhfer et al. (2016) Random number simulations reveal how random noise affects the measurements and graphical portrayals of self-assessed competency, Numeracydoi.org
  4. Gignac & Zajenkowski (2020) The Dunning-Kruger effect is (mostly) a statistical artefact: valid approaches to testing the hypothesis with individual differences data, Intelligencedoi.org
  5. Jansen, Rafferty & Griffiths (2021) A rational model of the Dunning-Kruger effect supports insensitivity to evidence in low performers, Nature Human Behaviourdoi.org