録音した自分の声が「変」に聞こえるのはなぜ? 頭の骨を伝わる“もう一つの声”が消えていた

読む前に予想してみよう!
他人が聞いているあなたの声に近いのは、自分で話しているときの声より「録音した声」のほうだ
他人の耳に届くのは空気を伝わる音だけ。骨伝導の成分が入らない録音のほうが近い。
- 対象
- 健康な成人
- 規模
- 20人(音響測定)/80人(評価実験)
- 研究の種類
- 実験研究
- 確かさ
- ★★★☆☆
ふだん聞く自分の声は「空気を伝わる音」と「頭の骨を伝わる音」のミックス。録音には空気の音しか入らないので、高く薄く聞こえる。
ひとことで言うといつもの声には「骨のスピーカー」の音がまざってる。録音には入ってないんだ!
動画やボイスメモで自分の声を聞いて、「え、私ってこんな声なの…?」とゾワッとした経験はありませんか。
答えを先に言うと、ふだん自分に聞こえている声には、頭の骨を伝わってくる「もう一つの声」が混ざっているからです。録音にはその成分が入らないので、聞き慣れた声より高く、薄っぺらく聞こえます。
そして少し残念なお知らせ。まわりの人が聞いているのは、録音のほうの声です。
01声は2つのルートで耳に届いている
声を出すと、のどで生まれた振動は2つのルートで耳の奥(内耳)に届きます。
1つめは、口から出た音が空気を伝わり、耳の穴から入るルート。これを気導(きどう)といいます。他人に聞こえるのも、マイクが拾うのも、この音です。
2つめは、のどや口の振動が頭の骨や体の組織を直接伝わって内耳に届くルート。こちらが骨伝導です。骨伝導は体の中を伝わるぶん音の響きが変わり、自分に聞こえる声は、実際より太く、低く感じられやすいとされます。
つまり、自分にとっての「いつもの声」は、他人が一度も聞いたことのない、本人専用のミックス音声なのです。

02骨ルートはどれくらい効いている?
骨ルートは「おまけ」どころか、帯域によっては主役級。録音で骨ルートがごっそり消えれば、別人のように聞こえても不思議はありません。
03違和感の正体は「なじみ」のズレ
音の違いだけでなく、心理的な要素もあります。
1960年代、アメリカの心理学者ホルツマン(Holzman)さんらは、録音された自分の声を聞いたときの反応を調べ、居心地の悪さや身構えるような反応が起きやすいことを報告しました。何十年も聞き続けてきた「頭の中の声」と、外から聞こえる声が食い違う。このズレが「これは自分じゃない」という違和感を生むと考えられています。
日本では、東京大学の木村さんと四本(よつもと)さんが2018年、録音した声にフィルターをかけて「自分の声らしさ」を再現できるかを調べました。結果は、どのフィルターが一番「自分の声」に近いかは人によって大きく違うというもの。万人向けの補正方法はなさそうです。
04どんでん返し:知らずに聞くと、自分の声が好き
ここで面白い研究を一つ。
アメリカのヒューズ(Hughes)さんらは2013年、男女80人にいろいろな人の録音音声を聞かせ、声の魅力を評価してもらいました。じつは中に本人の声も混ぜてあったのですが、参加者には知らせていません。
すると参加者は、自分の声を、他の人が評価したよりも高く、また他人の声よりも高く評価していました。研究者たちは、これを自分をひいき目に見る「自己高揚」の一種ではないかと考えています。
「自分の声だ」と身構えると嫌になるのに、知らずに聞くとむしろ好き。違和感の正体は、声そのものより「なじみとのズレ」なのかもしれません。
05まとめ
録音した声が変に聞こえるのは、ふだんの声から頭の骨を伝わる成分が抜けているから。そして、なじんだ声とのズレに心がざわつくからです。
でも、まわりの人はずっと「録音のほうの声」であなたを知っています。違和感は自分だけのもの。次に録音を聞くときは、「これがみんなの知っている私の声か」と、少しだけ優しく聞いてあげてください。
この研究を英語で読もう原田英語の English CornerMany people dislike hearing their own voice on a recording.
音声
4択クイズ9問A2・B1・B2タップして開く
原田英語の English Corner
この研究を英語で読もう
When you hear your voice in a recording, it often sounds strange. Why? When you speak, your voice travels to your ears in two ways. One way is through the air.
The other way is through the bones of your head. This is called bone conduction. The bone sound makes your voice seem lower and fuller. A recording has only the air sound.
So it sounds higher and thinner. Other people hear only the air sound, too.
77 words ・ CEFR A2
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録音で自分の声を聞くと、変に聞こえることがよくあります。なぜでしょうか。話すとき、声は2つの道を通って耳に届きます。1つは空気を通る道です。
もう1つは頭の骨を通る道です。これは骨伝導と呼ばれます。骨を通る音のせいで、声は低く、太く感じられます。録音には空気を通る音しか入っていません。
だから、高く薄っぺらく聞こえるのです。ほかの人たちにも、空気を通る音しか聞こえていません。
4択リーディングクイズ
Q1. What is the passage mainly about?
第1文で録音した声が変に聞こえることを挙げ、その理由を説明しているので B が正解。
Q2. How does your recorded voice usually sound to you?
So it sounds higher and thinner. とあるので D。Lower and fuller は骨の音が混ざったふだんの声の説明。
Q3. In this passage, "thinner" describes a voice that ...
thinner は fuller(厚みのある)の反対として使われ、「深みや厚みが少ない」声を表すので A。
Many people dislike hearing their own voice on a recording. The main reason is physical. When we speak, sound reaches the inner ear through the air and through the bones and tissues of the head, which is called bone conduction. Bone conduction changes the sound as it passes through the body, so the voice we hear while speaking often seems deeper.
A microphone picks up only the sound in the air, and that is also what other people hear. There is also a psychological side. Psychologists in the 1960s reported that people often feel uncomfortable when they hear their recorded voice, probably because it does not match the familiar voice in their heads. In a 2013 study of 80 people, participants rated their own voice as more attractive when they did not realize it was theirs.
136 words ・ CEFR B1
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多くの人は、録音で自分の声を聞くのが好きではありません。主な理由は物理的なものです。話すとき、音は空気を通って、そして頭の骨や組織を通って内耳に届きます。後者は骨伝導と呼ばれます。骨伝導では音が体を通るうちに変化するので、話しているときに聞こえる声はより低く感じられることが多いのです。
マイクが拾うのは空気中の音だけで、それはほかの人が聞いている音でもあります。心理的な面もあります。1960年代の心理学者たちは、人は録音された自分の声を聞くと居心地の悪さを感じやすいと報告しました。おそらく、頭の中のなじみのある声と一致しないからでしょう。2013年の80人を対象にした研究では、参加者は自分の声だと気づいていないとき、自分の声をより魅力的だと評価しました。
4択リーディングクイズ
Q1. What is the main idea of the passage?
The main reason is physical. と There is also a psychological side. の2つの理由を説明しているので C。
Q2. According to the passage, what do other people hear when you speak?
A microphone picks up only the sound in the air, and that is also what other people hear. とあるので A。
Q3. What can we infer from the 2013 study?
自分の声と気づかないときは高く評価した、という最終文から、嫌な感じは声そのものより「自分の声だと知っていること」から来る可能性が読み取れるので D。
The discomfort many people feel when listening to their recorded voice has both an acoustic and a psychological explanation. Acoustically, our own voice reaches the inner ear by two routes: air conduction, through the ear canal, and bone conduction, through the skull and soft tissue. In a 2010 study, Swedish researchers used specially designed earmuffs to block airborne sound and measured both routes while participants produced ten different speech sounds.
For many of these sounds, bone conduction actually dominated at around 1,000 to 2,000 hertz. Since a microphone records only air-conducted sound, the familiar internal voice is missing an important component. Psychologically, the recording conflicts with a voice we have heard for decades, which may explain the defensive reactions reported in the 1960s.
A 2018 Japanese study found that no single filter could make recordings sound like one's own voice; the best filter differed greatly between individuals. Most surprisingly, in a 2013 study, when 80 participants rated voices without being told that their own was included, they judged their own voice more attractive than others did. However, the acoustic measurements involved few people, and the 2013 study could not separate familiarity from self-enhancement, so both effects may be involved.
199 words ・ CEFR B2
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多くの人が録音した自分の声を聞くときに感じる不快感には、音響的な説明と心理的な説明の両方があります。音響的には、自分の声は2つのルートで内耳に届きます。耳の穴を通る気導と、頭蓋骨や柔らかい組織を通る骨伝導です。2010年の研究で、スウェーデンの研究者たちは空気中の音をさえぎる特製のイヤーマフを使い、参加者が10種類の音声を発する間に両方のルートを測定しました。
これらの音の多くで、1,000〜2,000ヘルツあたりでは、実は骨伝導のほうが優勢でした。マイクは空気を伝わる音しか録音しないので、なじみのある内側の声から重要な成分が抜け落ちてしまうのです。心理的には、録音は何十年も聞いてきた声と食い違います。
これが1960年代に報告された身構えるような反応の説明になるかもしれません。2018年の日本の研究では、録音を自分の声らしく聞こえさせる単一のフィルターは見つからず、最適なフィルターは個人によって大きく異なりました。最も驚くべきことに、2013年の研究で、80人の参加者が自分の声が含まれていると知らされずに声を評価したところ、彼らは自分の声を、他の人が評価したよりも魅力的だと判断しました。ただし、音響測定の対象は少人数であり、2013年の研究は「なじみ」と「自己高揚」を切り分けられなかったため、両方の効果が関わっている可能性があります。
4択リーディングクイズ
Q1. What is the passage mainly about?
第1文で acoustic and psychological explanation があると述べ、以降その両面を説明しているので B。
Q2. According to the 2010 study, what happened at around 1,000 to 2,000 hertz?
For many of these sounds, bone conduction actually dominated at around 1,000 to 2,000 hertz. とあるので C。dominate=優勢である。
Q3. Why does the author mention that the 2013 study "could not separate familiarity from self-enhancement"?
However で始まる最終文は研究の限界を述べる部分。なじみと自己高揚のどちらが原因か区別できない、という解釈上の限界を示しているので B。
重要単語
- bone conductionC1名詞(句)骨伝導Bone conduction lets you hear sound through your skull.
conduct(伝える・導く)+-ion。conduct heat「熱を伝える」のように物理でも使う。骨伝導イヤホンは bone conduction headphones。 - air conductionC1名詞(句)気導(空気を伝わって届く音)A microphone picks up only air conduction.
bone conduction とセットで覚える。聴力検査でも「気導」「骨導」を分けて測る。 - pitchB1名詞音の高さMy voice sounds higher in pitch on the recording.
high / low pitch で「高い/低い音」。野球の「投げる」や「売り込み(sales pitch)」の意味も入試頻出。 - familiarB1形容詞聞き慣れた、なじみのあるThe voice in my head is more familiar to me.
A is familiar to B「AはBにとってなじみがある」/B is familiar with A「BはAをよく知っている」の主語の違いは超頻出。 - self-enhancementC1名詞自分を実際よりよく見る傾向(自己高揚)Self-enhancement may make us like our own voice.
enhance(高める)+-ment。心理学の論文で bias とよく並ぶ。 - discomfortB2名詞不快感、居心地の悪さMany people feel discomfort when they hear their recorded voice.
dis-(否定)+comfort(快適さ)。feel discomfort の形で使う。
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録音した自分の声がゾワッとするのは、ふだん聞いている声に「頭の骨を伝わる音」が混ざっているから。他人が聞いているのは録音のほう。でも実験では、自分の声と知らずに聞くと他人の声より高く評価していたらしい。
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出典・参考文献(4件)タップで表示
- Reinfeldt et al. (2010) Hearing one's own voice during phoneme vocalization—Transmission by air and bone conduction, The Journal of the Acoustical Society of Americadoi.org
- Holzman & Rousey (1966) The voice as a percept, Journal of Personality and Social Psychologydoi.org
- Hughes & Harrison (2013) I Like My Voice Better: Self-Enhancement Bias in Perceptions of Voice Attractiveness, Perceptiondoi.org
- Kimura & Yotsumoto (2018) Auditory traits of "own voice", PLOS ONEdoi.org
※本記事は上記の研究・公開資料をもとに、原田英語が独自の言葉で解説したものです。引用は著作権法第32条の範囲で行い、出典を明記しています。画像はすべてオリジナルのイメージです。研究結果には限界や個人差があります。誤りのご指摘は原田英語のお問い合わせフォームから。












