体と健康・食ホント

大人になって牛乳が苦手になるのは「人類の標準」だった。むしろ平気な人が“突然変異”

大人になって牛乳が苦手になるのは「人類の標準」だった。むしろ平気な人が“突然変異”

読む前に予想してみよう!

大人になっても乳糖を分解できるのは、人類のもともとの性質だ

研究カード(どんな研究?)
対象
世界89か国の成人など
規模
約6万3千人(メタ分析・のち撤回)+30人の二重盲検試験
研究の種類
系統的レビュー・遺伝子研究・ランダム化比較試験
確かさ
★★★★☆
3秒でわかる

哺乳類は本来、大人になると乳糖を分解する酵素が減る。世界の大人の多くは乳糖をうまく吸収できず、牛乳が平気な人は遺伝子の変異をもつ少数派だった。

ひとことで言うと牛乳が苦手になるのは「ふつう」。平気な人のほうが珍しかった!

もくじ
  1. 乳を消化する酵素は「赤ちゃん専用」だった
  2. 世界の大人の多くは「乳糖をうまく吸収できない」
  3. 牛乳が平気な人は「牧畜の遺伝子」をもっていた
  4. 「コップ1杯なら平気」なことも多い
  5. まとめ

給食の牛乳は平気だったのに、大人になったら牛乳を飲むとお腹がゴロゴロするようになった——そんな人は少なくありません。

「自分の胃腸が弱いのかな」と思うかもしれませんが、実は逆です。大人になって乳を消化しにくくなるのは、哺乳類としてはごく"ふつう"のこと。むしろ、大人になっても牛乳がまったく平気な人のほうが、遺伝子の変異をもつ"少数派"なのです。

01乳を消化する酵素は「赤ちゃん専用」だった

牛乳に含まれる糖は乳糖(ラクトース)。小腸でラクターゼという酵素が、乳糖をブドウ糖とガラクトースに分解して吸収します。

ところが、ほとんどの哺乳類では、乳離れ(離乳)のあとにラクターゼが大きく減ります。乳を飲むのは赤ちゃんの時期だけなので、大人にはもう必要ない、というわけです。

分解されなかった乳糖は大腸まで届き、腸内細菌がそれを分解してガスを出すため、お腹の張りやゴロゴロ、下痢などが起こります。

02世界の大人の多くは「乳糖をうまく吸収できない」

つまり、世界全体で見れば、「乳糖をうまく吸収できない」ほうが多数派なのです(ただし、吸収できないことと症状が出ることは別で、あとの節のように、少量なら症状が軽い人も多いようです)。

03牛乳が平気な人は「牧畜の遺伝子」をもっていた

では、ヨーロッパ北部の人たちは、なぜ大人になっても乳糖を分解できるのでしょうか。

2002年、フィンランドの研究チームは、ラクターゼ遺伝子から少し離れた場所にある1文字の変化(C/T-13910)が、大人になってもラクターゼが作られ続けること(ラクターゼ持続性)と強く結びついていることを突き止めました。この変化は遺伝子の「スイッチ」の部分にあり、大人になってもスイッチがオフにならないようにしていると考えられています。

この変異は、牛やヤギなどを飼い、乳を利用してきた集団で広がったと考えられています。乳を栄養源にできる人が生き残りやすかったため、数千年のうちに広まった——人類の進化と食文化が手を取り合った、教科書的な例です。なお、アフリカなどでは、別の場所の変異で同じ性質をもつ集団も見つかっています。

ラクターゼ持続性の人は、大人になっても乳糖分解酵素の「スイッチ」がオフにならない
ラクターゼ持続性の人は、大人になっても乳糖分解酵素の「スイッチ」がオフにならない

04「コップ1杯なら平気」なことも多い

おもしろい研究もあります。1995年のアメリカの実験では、「牛乳を少し飲んだだけでひどい症状が出る」と自己申告した30人に、ふつうの牛乳と、乳糖を分解済みの牛乳を、どちらか分からないようにして1週間ずつ毎朝240mL飲んでもらいました。

すると、どちらの牛乳でも症状はごく軽く、差はありませんでした。乳糖の吸収が苦手な人でも、コップ1杯程度なら症状が出にくい人が多いことを示す結果です。

05まとめ

大人になって乳糖を消化しにくくなるのは、哺乳類として、そして世界の多数派として、ごくふつうのことでした。牛乳が平気な人は、牧畜とともに広がった遺伝子の変異をもつ、むしろ珍しい存在なのです。

自分の体質を知ったうえで、量や種類を工夫して、乳製品と上手につきあっていきましょう。

この研究を英語で読もう原田英語の English CornerMany adults feel bloated after drinking milk, and this is actually common among humans. 音声 4択クイズ9問A2・B1・B2タップして開く

原田英語の English Corner

この研究を英語で読もう

Many adults feel bloated after drinking milk, and this is actually common among humans. Milk contains a sugar called lactose, which is broken down by an enzyme called lactase. In most mammals, lactase production falls sharply after weaning. Undigested lactose then reaches the large intestine, where bacteria produce gas.

Studies suggest that most adults worldwide do not absorb lactose well, although far fewer adults have this problem in northern Europe. In 2002, Finnish scientists found a small DNA change that keeps lactase working in adults. This change probably spread among groups that kept animals for milk, because milk became a valuable food for them.

104 words ・ CEFR B1

和訳を見る

牛乳を飲んだ後にお腹が張る大人は多く、これは実は人間にはよくあることです。牛乳にはラクトース(乳糖)という糖が含まれ、それはラクターゼという酵素によって分解されます。ほとんどの哺乳類では、離乳後にラクターゼを作る量が大きく減ります。すると、消化されなかった乳糖は大腸に届き、そこで細菌がガスを作ります。研究によれば、世界の大人の大半は乳糖をうまく吸収できませんが、北ヨーロッパではその割合はずっと低くなります。

2002年、フィンランドの科学者たちは、大人になってもラクターゼをはたらかせ続ける小さなDNAの変化を発見しました。この変化はおそらく、乳のために動物を飼っていた集団の間で広がりました。乳が彼らにとって貴重な食べ物になったからです。

4択リーディングクイズ

Q1. What causes gas when lactose is not digested?

Q2. In which region do far fewer adults have poor lactose absorption?

Q3. Why did the DNA change probably spread among herding groups?

重要単語

  • lactoseC1
    名詞乳糖Milk contains a sugar called lactose. lact-(乳)+-ose(糖)。glucose(ブドウ糖)、fructose(果糖)も -ose で糖を表す。
  • intoleranceC1
    名詞不耐(体が受けつけないこと)Lactose intolerance is common in East Asia. tolerate(耐える)の否定名詞。社会の文脈では「不寛容」の意味で出る。
  • enzymeB2
    名詞酵素Lactase is the enzyme that breaks down lactose. 酵素名は -ase で終わることが多い(lactase, amylase など)。
  • weanC1
    動詞離乳させるMost mammals are weaned within a few months. be weaned off ~ で「~を徐々にやめさせる」という比喩的な意味にもなる。
  • mutationB2
    名詞突然変異A mutation let some adults digest milk. mutate(変異する)の名詞形。variant(変異型)とともに遺伝の文章で頻出。
  • absorbB1
    動詞吸収するMany adults cannot absorb lactose well. be absorbed in ~「~に夢中になる」も入試頻出。名詞は absorption。

動画でもっと知る

4コマでわかる

大人になって牛乳が苦手になるのは「人類の標準」だった。むしろ平気な人が“突然変異”の4コマ漫画
牛乳が苦手になるのは、実は人類の標準らしい。世界の大人の多くは乳糖をうまく吸収できない。牛乳がずっと平気な人は、牧畜とともに広がった遺伝子の変異をもつ少数派だった。

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出典・参考文献(3件)タップで表示
  1. Storhaug, Fosse & Fadnes (2017/2025年1月に撤回) Country, regional, and global estimates for lactose malabsorption in adults: a systematic review and meta-analysis, Lancet Gastroenterology & Hepatologydoi.org
  2. Enattah et al. (2002) Identification of a variant associated with adult-type hypolactasia, Nature Geneticsdoi.org
  3. Suarez, Savaiano & Levitt (1995) A comparison of symptoms after the consumption of milk or lactose-hydrolyzed milk by people with self-reported severe lactose intolerance, New England Journal of Medicinedoi.org