
ネコは、自分の名前を聞き分けている
返事は、耳や頭の動きでしている。
もくじ
ある家の部屋。ネコからは見えない場所に、小さなスピーカーが置いてあります。そこから飼い主の声で、ネコの名前と同じ長さの言葉が、15秒おきに4つ流れます。ネコははじめ耳を動かしますが、だんだん反応が小さくなっていきます。
5つ目に、そのネコの名前が流れます。すると多くのネコが、また耳を動かし、頭をスピーカーのほうへ向けました。
2019年、上智大学や東京大学の齋藤慈子(さいとう・あつこ)らのチームが、こうした実験の結果を発表しました。ネコは自分の名前を、ほかの言葉と聞き分けていたのです。ただ、記録を細かく見ると、ネコは名前を呼ばれても、鳴いたり動いたりすることは少なく、おもに耳と頭で反応していました。
この記事では、まず実験のやり方を説明します。次に、4つの実験の結果と、ネコの反応のしかたを紹介します。最後に、ネコが名前を顔や絵と結びつけているかを調べた研究を見ます。
01同じような言葉に慣れさせてから名前を聞かせ、反応がもどるかを調べた
ネコに「名前が分かりますか」と聞くことはできません。犬のように、名前を呼ばれたら来るよう訓練するのも、ネコでは時間がかかります。そこでチームは、慣れ(馴化=じゅんか)という性質を使いました。
動物は、同じような刺激がくり返されると、だんだん反応しなくなります。これが慣れです。そのあとで、違う刺激が来ると、反応がもどります。もし反応がもどれば、動物は「さっきまでとは違う」と気づいた、と考えられます。
実験では、ネコの名前と同じ拍の数(「ミケ」なら2拍)で、アクセントも同じふつうの名詞を、4つ選びました。どれも、ふだんよく聞く言葉で、うれしい・こわいといった気持ちに結びつかない言葉です。飼い主がふだん愛称(ふだんの呼び名)で呼んでいるなら、名前のかわりに愛称を使いました。
ネコの反応の強さは、実験とは別の人たちが、動画を見て点数をつけました。動画の、言葉が流れる部分は、ピーという別の音で隠してありました。点数をつける人に、どの言葉が流れたかが分からないようにするためです。そうすれば、点数をつける人の思い込みで、結果がゆがむことはありません。
02知らない人の声で呼ばれても、ネコは自分の名前に反応した
実験は4つ行われました。そのうち3つの結果をまとめます(実験2は、あとで紹介します)。
- 実験1:ほかのネコ2匹以下と暮らす16匹。4つの名詞に慣れた11匹のうち9匹が、自分の名前を聞くと、また反応が大きくなった。
- 実験3:ほかに4匹以上のネコと暮らすネコ。家庭のネコも猫カフェのネコも、名詞と自分の名前を聞き分けた。
- 実験4:飼い主ではなく、ネコが知らない女性2人の声で、名詞と名前を録音した。33匹中20匹が名詞に慣れ、そのうち13匹が自分の名前で、また反応が大きくなった。
ネコは飼い主の声と、知らない人の声を聞き分けることが分かっています。それでも、知らない人が呼んだ名前にも反応しました。つまりネコは、飼い主の声かどうかだけでなく、名前の音そのものを手がかりにしていると考えられます。

03名前を聞いたネコの多くは耳と頭を動かし、鳴いたネコは1割もいなかった
ネコが名前にどう反応したかにも、とくちょうがありました。どの実験でも、半分以上のネコは耳や頭を動かしました。音のほうへ注意を向ける、こうした動きを定位反応と呼びます。
一方、鳴く、しっぽを動かす、立って移動するといった反応をしたネコは、10%未満でした。名前を呼ばれても、ネコはおもに耳と頭で「聞いているよ」と示していたのです。
ただし論文は、鳴いたり動いたりしたネコが少なかったのは、実験という特別な場面だったからかもしれない、とも書いています。ふだんの生活で、ごはんや遊びの前に名前を呼ばれれば、もっと大きな反応をするかもしれません。
04猫カフェのネコは、自分の名前と仲間のネコの名前を区別しなかった
実験2では、ほかに4匹以上のネコと暮らすネコ34匹を調べました。このときは、ふつうの名詞のかわりに、一緒に暮らすネコの名前を4つ聞かせ、最後に自分の名前を聞かせました。
結果は、家庭のネコか、猫カフェのネコかで分かれました。
- 家庭のネコ:一緒に暮らすネコの名前に慣れたのは24匹中6匹だけ。その6匹は全員、自分の名前で反応を強めた。
- 猫カフェのネコ:10匹中9匹が一緒に暮らすネコの名前に慣れたが、自分の名前で反応を強めたのは9匹中3匹だけだった。
家庭のネコは、一緒に暮らすネコの名前を何度聞いても、反応が小さくなりにくく、なかなか慣れませんでした。チームは、その理由を、飼い主がネコを何匹もまとめて呼ぶことがあるからではないか、と考えています。ほかのネコの名前も、ごはんなどのよいことと結びついているのかもしれません。
猫カフェでは、たくさんのお客さんが、それぞれ違う呼び方で名前を呼びます。お客さんがネコAを呼んだのに、ネコBが来てなでてもらうこともあります。このような場所では、ネコにとって、自分の名前を聞き分けても得になることが少ないのかもしれない、とチームは考えています。ただし、調べた猫カフェは1軒だけでした。
深掘り講義
ここから先は、もう一段深く。しくみ・史料・論争まで踏み込みます。
「慣れ」と「反応のもどり」で、言葉を話せない相手が区別できているかを調べる
この研究で使われた馴化・脱馴化法は、人の赤ちゃんの研究でもよく使われる方法です。似た刺激をくり返すと、反応が小さくなります(馴化)。そこで違う刺激を出すと、反応がもどります(脱馴化)。反応がもどったかどうかで、相手が2つの刺激を区別しているかを調べるのです。
この方法のよいところは、訓練がいらないことです。ネコがふだん暮らす場所で、ふだんのままの反応を調べられます。一方で、弱点もあります。区別していても、反応をもどさないネコがいるかもしれません。また、そもそも最初の4語に慣れないネコは、分析に使えません。実験2の家庭のネコでは、慣れたのが24匹中6匹だけで、分析できた数がとても少なくなりました。
名前の音を聞き分けられても、名前が自分を指すと分かっているとはかぎらない
この研究が示したのは、ネコが名前の音を、ほかの言葉と聞き分けていることです。実験では、名前と同じ長さ・同じアクセントの言葉を使いました。そのため、ネコは、長さやアクセントではなく、一つ一つの音の細かい違い(音素の違い)を手がかりにしていたと考えられます。
でも、名前の音を聞き分けられることは、「この名前は自分のことだ」と理解していることと同じではありません。ネコにとって名前は、「よいことか、いやなことが起きる合図」なのかもしれません。論文の著者たちも、名前がごはん・なでる・遊びといったごほうびや、病院・お風呂といったいやなことと結びついている可能性を挙げています。
家庭のネコは、仲間の名前と顔が合わないと、画面を長く見た
では、ネコは名前を聞いて、そのネコや人の顔を思いうかべているのでしょうか。2022年、京都大学の高木佐保(たかぎ・さほ)らが、これを調べました。
使ったのは、期待違反法です。予想と合わないことが起きると、長く見つめる性質を使って、相手が何を予想していたかを調べる方法です。一緒に暮らすネコの名前を飼い主の声で4回聞かせ、そのあと画面に顔写真を7秒見せます。名前と顔が合っている場合と、合っていない場合を比べました。もしネコが名前から顔を思いうかべているなら、合わないときに「あれ?」と長く見るはずです。
48匹で調べると、家庭のネコは、名前と顔が合わないときに長く画面を見ました。猫カフェのネコでは、差がありませんでした。2019年の研究と同じく、家庭で暮らすか猫カフェで暮らすかで、結果に違いが出るようです。
人の家族の名前と顔でも試しました。すると、家族の人数が多い家のネコほど、名前と顔が合わないときに長く見ました。一緒に暮らした期間が長いネコほど、この傾向が強まりました。ただし、全体としては、すべてのネコが顔を予想したわけではありません。また、ネコの年齢が結果に影響した可能性も否定できない、と論文は書いています。
ネコは、9秒ずつ2回見聞きしただけで、言葉と絵を結びつけたらしい
2024年、麻布大学の高木らは、ネコが言葉を絵と結びつけられるかを調べました。まず、意味のない絵と言葉の組み合わせを2つ、ネコに見聞きさせます。そのあとで、絵と言葉の組み合わせを入れかえて見せました。すると、言葉が人の声のときには、ネコは入れかえた組み合わせの画面を長く見ました。言葉が機械の音のときには、はっきりした差は出ませんでした。
多くのネコは、組み合わせを4回見聞きしたところで慣れました。組み合わせは2つなので、1つの組み合わせを見聞きしたのは、9秒ずつ2回だけです。同じような人の赤ちゃんの研究では、1組あたり20秒以上を4回以上見せていました。ネコは、人の声と物の結びつきを、とても短い時間でつくれるのかもしれません。
05まとめ
ネコは、自分の名前を、同じ長さ・同じアクセントのほかの言葉と聞き分けていました。知らない人の声で呼んでも、同じでした。ただし反応は耳と頭が中心で、鳴いたりしっぽを動かしたりしたネコは10%未満でした。
猫カフェのネコは、仲間の名前と自分の名前を区別しませんでした。ただし、調べた猫カフェは1軒だけです。家でネコの名前を呼んだら、走って来るかではなく、耳が動くかを見てみてください。
人に話すなら、こう言おう
ネコって自分の名前を、ほかの言葉と聞き分けてるんだって。ただ返事はほとんど耳と頭を動かすだけで、鳴いたりしっぽを振ったりするネコは1割もいなかったらしいよ。
英語で読む
Your Cat Knows Its Name
英文をタップすると、その文の訳が出ます。
Many people say that cats do not come when we call them.ネコは呼んでも来ない、と言う人はたくさんいます。 But does that mean they do not know their names?でも、それは自分の名前が分かっていないということでしょうか。 In 2019, a team in Japan tested this question.2019年、日本のあるチームがこの問いを調べました。
The scientists visited cats in their homes.科学者たちは、家で暮らすネコたちを訪ねました。 From a hidden speaker, the cats heard four words, one every 15 seconds.かくれたスピーカーから、ネコは15秒ごとに1つずつ、4つの言葉を聞きました。 Each word was as long as the cat's name, with the same accent.どの言葉も、ネコの名前と同じ長さで、アクセントも同じでした。 The cats slowly stopped reacting.ネコたちは、だんだん反応しなくなりました。 Then they heard their own name, and many of them reacted again.そのあと自分の名前を聞くと、多くのネコがまた反応しました。
The cats did this even when a stranger said the words.ネコたちは、知らない人が言葉を言ったときでも、同じようにしました。 So they were listening to the sounds of the name, not only to their owner's voice.つまり、飼い主の声だけでなく、名前の音そのものを聞いていたのです。 However, their answer was small.ただ、彼らの返事は小さなものでした。 Most cats only moved their ears or turned their heads.ほとんどのネコは、耳を動かすか、頭を向けるだけでした。 Fewer than 10 percent made a sound or moved their tails.声を出したり、しっぽを動かしたりしたのは10%未満でした。
Cats from a cat cafe were different.猫カフェのネコはちがいました。 In the test, they did not tell their own names from the names of the other cats there.実験では、彼らは自分の名前と、そこにいるほかのネコの名前を区別しませんでした。 In a cafe, many visitors call the cats in many different ways.カフェでは、たくさんのお客さんが、いろいろな呼び方でネコを呼びます。 Sometimes one cat is called, but another cat comes and gets a treat.あるネコが呼ばれたのに、別のネコが来ておやつをもらうこともあります。
Later studies found that house cats may even connect the names of other cats with their faces.その後の研究では、家のネコがほかのネコの名前と顔を結びつけているかもしれないことが分かりました。 So next time you call your cat, do not watch its legs.だから次にネコを呼ぶときは、足を見ないでください。 Watch its ears.耳を見てください。
4択問題 Reading Quiz
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Q1What is this story mainly about?
この話は主に何についてのものですか。
正解:B Whether cats know their own names
第1段落で「名前が分かっていないのか」と問い、第2〜5段落でそれを調べた実験と結果を説明しているので正解はB。Aは話のきっかけにすぎない。
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Q2How often did the cats hear a word from the speaker?
ネコはスピーカーからどれくらいの間隔で言葉を聞きましたか。
正解:C Every 15 seconds
第2段落2文目に「15秒ごとに1つずつ」とあるので正解はC。Aの10は第3段落の「10%」、Bの4は言葉の数からのひっかけ。
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Q3Why might cafe cats not tell their names apart?
カフェのネコが名前を区別できないのは、なぜかもしれませんか。
正解:A Visitors call the cats in many different ways.
第4段落3・4文目に、お客さんがいろいろな呼び方で呼び、呼ばれていないネコがおやつをもらうこともある、とあるので正解はA。B〜Dは本文にない。
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Q4In paragraph 3, the word "stranger" is closest in meaning to …
第3段落の stranger という語に最も意味が近いのはどれですか。
正解:D a person the cat does not know
stranger は「知らない人」。次の文で「飼い主の声だけでなく」と対比されているので正解はD。Aは反対の意味。
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Q5What can we learn from the story?
この話から何が分かりますか。
正解:B A cat may know its name even if it does not come.
第2・3段落で、ネコは名前に反応したが、ほとんどは耳や頭を動かすだけだったとあるので正解はB。Dは「声を出したのは10%未満」と、Cは第4段落と矛盾する。
重要語 Key Words(タップで裏返る)
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react動詞反応する
The baby reacted to the loud sound.
赤ちゃんは大きな音に反応した。
💡 react to ~ で「~に反応する」。名詞は reaction。
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hidden形容詞かくれた
There is a hidden key under the mat.
マットの下にかくしたかぎがある。
💡 hide(かくす)の過去分詞。
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accent名詞アクセント、(言葉の)強めるところ
Where is the accent in this word?
この単語のアクセントはどこ?
💡 「なまり」の意味もある。
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stranger名詞知らない人
My dog barks at strangers.
うちの犬は知らない人にほえる。
💡 strange(見知らぬ)+ -er。
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owner名詞飼い主
The cat sat on its owner's lap.
そのネコは飼い主のひざにすわった。
💡 own(持つ)+ -er。
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tell A from B熟語AとBを見分ける
Can you tell a frog from a toad?
カエルとヒキガエルを見分けられる?
💡 tell ~ apart でも「見分ける」。
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treat名詞(ごほうびの)おやつ、ごちそう
I gave my cat a treat after its bath.
お風呂のあと、ネコにおやつをあげた。
💡 動詞では「扱う」「おごる」。
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connect動詞結びつける、つなぐ
This bridge connects the two towns.
この橋は2つの町を結んでいる。
💡 connect A with B で「AをBと結びつける」。
SOURCES出典・ウラ取り
この記事の事実は、次の資料を実際に開いて確認しています(確認した事実 22件)。
- Saito, A., Shinozuka, K., Ito, Y., Hasegawa, T. (2019) Domestic cats (Felis catus) discriminate their names from other words, Scientific Reports 9:5394doi.org
- Takagi, S. ほか (2022) Cats learn the names of their friend cats in their daily lives, Scientific Reports 12:6155doi.org
- Takagi, S., Koyasu, H., Nagasawa, M., Kikusui, T. (2024) Rapid formation of picture-word association in cats, Scientific Reports 14:23091doi.org
公式ページで見てみよう
- Saito ほか (2019) 論文の全文(PubMed Central)pmc.ncbi.nlm.nih.gov
文章はすべて資料をもとに独自の言葉で書いています。画像はオリジナルのイメージです。誤りにお気づきの方は訂正窓口へ。
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