テクノロジー・未来

牛を育てずに肉を「育てる」培養肉、販売OKの国はもうある。なのに食卓に並ばない理由

牛を育てずに肉を「育てる」培養肉、販売OKの国はもうある。なのに食卓に並ばない理由

読む前に予想してみよう!

培養肉の販売を認めた国は、まだ世界に1つもない

研究カード(どんな研究?)
対象
培養肉の生産技術・規制・環境影響
規模
技術経済分析・ライフサイクル評価・消費者調査
研究の種類
レビュー・モデル試算
確かさ
★★★☆☆
3秒でわかる

動物の細胞を増やして作る培養肉は、シンガポールや米国で販売が認められた。ただ値段・量産・食感の壁が高く、ふつうの食卓に並ぶにはまだ時間がかかりそう。

ひとことで言うと培養肉は「牛を育てず、細胞を育てて」作るお肉!

もくじ
  1. 培養肉は「細胞の畑」で育てる
  2. もう「売っていい」国がある
  3. スーパーに並ばない3つの壁
  4. まとめ

牛も豚も鶏も、1頭も育てずに「お肉」を作る。

そんなSFのような話が、一部の国ではすでに現実になっています。動物から取った細胞を、タンクの中で増やして作るお肉――それが培養肉です。

「じゃあ、いつ近所のスーパーで買えるの?」と思いますよね。実はそこには、かなり手ごわい壁がいくつもあるのです。

01培養肉は「細胞の畑」で育てる

作り方をざっくり説明すると、こうなります。

  1. 動物から、ほんの少しだけ細胞を取る(針で取れるくらいの量)
  2. 栄養たっぷりの液体(培養液)の中で、細胞を増やす
  3. 増えた細胞を集めて、ミンチやナゲットのような形にする

牛を育てるには、エサや水、広い土地、そして長い時間が必要です。培養肉は、お肉として食べる部分の細胞だけを育てるので、うまくいけば土地や水を大きく減らせるのでは、と期待されています。

牛を丸ごと育てる代わりに、肉になる細胞だけを育てる発想。
牛を丸ごと育てる代わりに、肉になる細胞だけを育てる発想。

02もう「売っていい」国がある

2020年、シンガポールが世界で初めて培養肉(鶏肉)の販売を認めました。2023年には米国でも、培養した鶏肉の販売が認められています。その後もイスラエル(2024年、牛の培養肉)などで認可が続いていますが、執筆時点でも販売はレストランなどごく限られた場所・量にとどまっています。

一方で、イタリアや米国の一部の州のように、培養肉の生産や販売を法律で禁止する動きも出てきました。伝統的な畜産を守りたい、安全性が心配、といった理由からです。

03スーパーに並ばない3つの壁

壁1:培養液が高い

細胞を増やす培養液には、成長を促すタンパク質などが入っていて、これがとても高価です。2021年に化学工学の専門家 Humbird が発表したコスト分析では、培養液や無菌設備のコストを考えると、今の延長線上ではふつうの肉と勝負できる値段にするのは難しいと結論づけられ、大きな議論を呼びました。

壁2:大きなタンクで育てるのが難しい

実験室の小さな容器と、工場の巨大なタンクでは話が別。細胞は傷つきやすく、酸素や栄養をまんべんなく行き渡らせながら、雑菌が入らないよう管理し続けなければなりません。

壁3:「ステーキ」が作れない

いま実用化されているのは、主にミンチやナゲットのような形。ステーキには筋肉の繊維だけでなく、脂肪や血管が複雑に組み合わさった構造があります。細胞を立体的に並べる足場をどう作るかが研究されています。

たとえるなら、ミンチは「レンガをバラバラに積んだ山」、ステーキは「設計図どおりに組み上げたレンガの家」。細胞を増やすだけでなく、どう並べるかまで考えなければならないのです。そのため、植物由来の素材で作ったスポンジ状の足場に細胞を育てたり、3Dプリンターで形を整えたりする方法が試されています。培養肉と植物由来の原料を混ぜて、食感や値段のバランスをとる商品づくりも考えられています。

04まとめ

培養肉は、販売を認める国が出てきた「実現した未来」。でも、値段・量産・食感という3つの壁があり、毎日の食卓に並ぶにはまだ時間がかかりそうです。

もし同じ値段で売られていたら、あなたは培養肉のハンバーグを選びますか? その答えこそが、この技術の未来を決めるのかもしれません。

この研究を英語で読もう原田英語の English CornerCultured meat is produced by taking a small number of cells from an animal and growing them in a… 音声 4択クイズ9問A2・B1・B2タップして開く

原田英語の English Corner

この研究を英語で読もう

Cultured meat is produced by taking a small number of cells from an animal and growing them in a nutrient-rich liquid called a growth medium. Because only the cells we eat are grown, some people hope it could greatly reduce the land and water used by farming. In 2013, Professor Mark Post presented the world's first hamburger made from cultured beef cells. Singapore approved the sale of cultured chicken in 2020, and the United States followed in 2023.

However, it is still sold only in very limited places. There are three main problems. The growth medium is expensive, growing cells in huge tanks is difficult, and it is hard to create complex structures like steak. Some places, such as Italy, have even banned it.

124 words ・ CEFR B1

和訳を見る

培養肉は、動物から少数の細胞を取り、培養液と呼ばれる栄養豊富な液体の中で育てることで作られます。私たちが食べる部分の細胞だけを育てるので、畜産で使われる土地や水を大きく減らせるかもしれないと期待する人もいます。2013年、マーク・ポスト教授は、培養した牛の細胞で作った世界初のハンバーガーを披露しました。シンガポールは2020年に培養鶏肉の販売を承認し、米国も2023年に続きました。

しかし、今もごく限られた場所でしか売られていません。主な問題は3つあります。培養液が高価であること、巨大なタンクで細胞を育てるのが難しいこと、そしてステーキのような複雑な構造を作るのが難しいことです。イタリアのように、禁止した場所さえあります。

4択リーディングクイズ

Q1. What is a growth medium?

Q2. Which is NOT one of the three main problems mentioned?

Q3. What can we infer about cultured meat from the passage?

重要単語

  • cultivated meatC1
    名詞(句)培養肉Cultivated meat is grown from animal cells. cultivate は「耕す・育てる」。cultured meat, lab-grown meat とも言う。culture(文化)も「耕す」が語源。
  • growth mediumC1
    名詞(句)培養液The growth medium is a very expensive part. medium は「媒体・中間」。複数形は media(マスメディアの media と同じ形)。
  • bioreactorC1
    名詞培養タンク(生物反応器)Cells multiply inside a large bioreactor. bio-(生物)+reactor(反応器)。nuclear reactor(原子炉)の reactor と同じ。
  • scaffoldC1
    名詞足場A plant-based scaffold helps cells form a steak-like shape. 建設現場の足場が原義。細胞を立体的に並べる土台の意味で再生医療・培養肉に共通。
  • livestockB2
    名詞家畜Raising livestock needs a lot of land and water. live(生きている)+stock(在庫・財産)。集合名詞なので通常 a や -s を付けない。
  • banB1
    動詞・名詞禁止する/禁止Some places have banned cultivated meat. ban A from doing「Aが~するのを禁じる」。新聞見出しで好まれる短い語。
  • emissionB2
    名詞排出(量)Beef production causes large greenhouse gas emissions. 動詞 emit(排出する)。carbon emissions「炭素排出」は環境系長文の最頻出語。

動画でもっと知る

牛を1頭も育てずに「細胞だけ」を増やして作る培養肉、実はシンガポールやアメリカではもう販売OKになってるらしい。それでもスーパーに並ばない大きな理由の一つは“培養液のお値段”だった。

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出典・参考文献(5件)タップで表示
  1. Post (2012) Cultured meat from stem cells: Challenges and prospects, Meat Sciencedoi.org
  2. Humbird (2021) Scale-up economics for cultured meat, Biotechnology and Bioengineeringdoi.org
  3. Lynch & Pierrehumbert (2019) Climate Impacts of Cultured Meat and Beef Cattle, Frontiers in Sustainable Food Systemsdoi.org
  4. Sinke et al. (2023) Ex-ante life cycle assessment of commercial-scale cultivated meat production in 2030, The International Journal of Life Cycle Assessmentdoi.org
  5. Bryant & Barnett (2018) Consumer acceptance of cultured meat: A systematic review, Meat Sciencedoi.org