夏休みで学力は「1か月分」下がる? 有名な"サマースライド"説、測り方を変えたら揺らいだ

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夏休み中に、家庭の経済状況による学力格差が大きく広がることは、研究で完全に確かめられている
測り方を見直した研究では、夏に格差が広がるかどうかは結果が一貫せず、格差の多くは入学前にできていた。
- 対象
- 米国の小中学生
- 規模
- 39研究/340万人のテストデータほか
- 研究の種類
- メタ分析・大規模縦断データ分析
- 確かさ
- ★★★☆☆
古いメタ分析では夏休みで学力が約1か月分低下。でも測り方を見直した研究では「夏に格差が広がる」定説ははっきりせず、格差の多くは入学前にできていた。
ひとことで言うと夏休みに勉強を忘れる「サマースライド」は、思ったより複雑な話だった。
長い夏休みが終わって、2学期最初の授業。「あれ、この解き方どうやるんだっけ?」となった経験、ありませんか。
夏休みの間に学力が下がる現象は、アメリカでは「サマースライド(夏の滑り落ち)」と呼ばれ、100年以上前から研究されてきました。そして「夏休みに家庭の差で学力格差が広がる」という説は、教育政策の定番の根拠にもなってきました。
ところが最近、この定説がぐらついているのです。
01定説:夏休みで約1か月分の学力が下がる
研究チームは、読書は夏の間も自然に続けやすいけれど、算数の練習は日常生活では起きにくいことが、科目による違いを生んでいるのではないかと考えました。
02「格差は夏休みに広がる」という有名な研究
この考え方をさらに強めたのが、ジョンズ・ホプキンス大学のAlexanderさんらの研究です。アメリカ・ボルティモアの子どもたちを小学1年生から追跡したデータを分析し、2007年に、高校入学時の家庭の経済状況による学力格差の多くは、小学校時代の「夏休みの学びの差」で説明できると報告しました。
学校に通っている間は、どの家庭の子も同じように伸びる。でも夏休みには、本や体験に恵まれた子とそうでない子で差がつく。だから学校は格差を縮める場所であり、夏休みこそ支援が必要だ——。これは説得力のあるストーリーでした。

03どんでん返し:テストの「測り方」のクセだった?
2019年、アメリカのvon Hippelさんらは、こうした研究の多くに測定上の問題があったと指摘しました。
- テストの目盛りの問題:年齢とともに点数の広がり方が変わる目盛りを使うと、格差が実際以上に広がって見えることがある
- テストの種類の問題:春と秋で違う種類のテストを受けると、夏の変化を正確に測るのが難しい
こうした問題を考慮して新しいデータで分析し直すと、最も確かな発見は「学力格差の多くは、学校に入る前にすでにできている」ということでした。入学後は格差はあまり広がらず、縮まるものもあった。そして、夏休みに格差が広がるかどうかは、データによって結果が一貫しなかったのです。
さらにKuhfeldさんは2019年、約340万人のテストデータを分析し、夏の学力低下はよく見られるものの避けられないものではなく、しかも前の学年で大きく伸びた子ほど夏に大きく下がる傾向があることを報告しました。
04日本の夏休みは?
アメリカの夏休みは2か月以上と長いのに対し、日本の夏休みは40日前後と短めで、宿題もあります。アメリカの研究をそのまま当てはめることはできません。それでも、「使わないスキルは鈍る」という点は、どの国にも共通しそうです。
05まとめ
「夏休みで学力が1か月分下がる」「夏に格差が広がる」は、長く信じられてきた定説でした。でも、測り方を見直すと、その結論ははっきりしなくなったのです。
とはいえ、算数のように使わないと鈍るスキルがあるのは確か。夏休みは、思いきり遊びつつ、ときどき頭の「準備運動」も忘れずに。
この研究を英語で読もう原田英語の English CornerMany students find it hard to remember how to solve problems after summer vacation.
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4択クイズ9問A2・B1・B2タップして開く
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この研究を英語で読もう
Do students forget what they learned during summer vacation? In the United States, this is called the "summer slide." A study in 1996 found that students lost about one month of learning over the summer. Math skills dropped the most, but reading did not drop much.
However, newer research says that the way tests measure scores can change the results. Skills you do not use can still get rusty.
69 words ・ CEFR A2
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生徒は夏休みの間に、学んだことを忘れてしまうのでしょうか。アメリカでは、これは「サマースライド」と呼ばれています。1996年の研究では、生徒は夏の間に約1か月分の学習を失っていました。算数の力が最も下がりましたが、読む力はあまり下がりませんでした。
しかし、新しい研究によると、テストの点の測り方によって結果が変わることがあります。それでも、使わないスキルはさびついてしまうことがあるのです。
4択リーディングクイズ
Q1. What is the passage mainly about?
夏休みに学力が下がる「サマースライド」についての研究がテーマなので C。
Q2. Which skill dropped the most over the summer?
Math skills dropped the most とあるので D。読む力はあまり下がらなかった。
Q3. In this passage, "get rusty" means ...
rusty はもともと「さびた」。スキルについて使うと「使わないせいで鈍る」という意味なので B。
Many students find it hard to remember how to solve problems after summer vacation. In the United States, this is known as the "summer slide." A 1996 review found that test scores fell by about one month's worth of learning over the summer, especially in math and spelling, while reading dropped less.
Middle-class children even improved slightly in reading, but children from low-income families declined. A later study argued that much of the achievement gap between rich and poor students came from these summer differences. However, in 2019, researchers pointed out problems with how tests were scored and changed. After correcting for these problems, they found that most gaps already existed before children started school.
115 words ・ CEFR B1
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多くの生徒は、夏休みの後に問題の解き方を思い出すのに苦労します。アメリカでは、これは「サマースライド」として知られています。1996年のレビューでは、夏の間にテストの点が約1か月分の学習に相当するほど下がり、特に算数とつづりで下がった一方、読む力の低下は小さいことがわかりました。
中流家庭の子どもは読む力がわずかに伸びたほどでしたが、低所得家庭の子どもは下がりました。後の研究は、豊かな家庭と貧しい家庭の生徒の学力格差の多くは、こうした夏の違いから生じたと主張しました。しかし2019年、研究者たちは、テストの採点方法や切り替え方に問題があったことを指摘しました。こうした問題を補正すると、格差の多くは子どもが学校に入る前にすでに存在していたことがわかりました。
4択リーディングクイズ
Q1. According to the 1996 review, which subjects dropped most over summer?
especially in math and spelling, while reading dropped less とあるので A。
Q2. What happened to middle-class children's reading over summer?
Middle-class children even improved slightly in reading とあるので B。
Q3. What does the 2019 research suggest?
測り方の問題を補正すると格差の多くは入学前に存在していた、つまり「夏に格差が広がる」という定説は思われていたほど確かではないと示唆しているので D。
Researchers have been measuring the "summer slide," the learning students lose over summer vacation, for more than a century. In 1996, Cooper and colleagues reviewed 39 studies and meta-analyzed 13 recent ones. They concluded that test scores fell by roughly one month of grade-level learning over the summer, with the largest losses in math computation and spelling. Middle-class children gained slightly in reading, while low-income children lost ground.
Alexander and colleagues then followed children in Baltimore from first grade. In 2007 they argued that much of the income-based achievement gap at the start of high school could be traced to unequal summer learning. On this view, schools equalize opportunity, and summer is when gaps widen. In 2019, von Hippel and Hamrock showed how measurement artifacts can distort such conclusions.
Some test scales spread out differently as children age, and some studies switched test forms between spring and fall. Once these problems were dealt with, their most robust finding was that most achievement gaps already exist when children start school. Evidence that the gaps grow over summer was inconsistent. An analysis of about 3.4 million students found that summer losses are common, though not every student has them.
197 words ・ CEFR B2
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研究者たちは100年以上にわたって、夏休みの間に生徒が失う学び、いわゆる「サマースライド」を測定してきました。1996年、Cooperさんらは39の研究を見直し、最近の13の研究をメタ分析しました。彼らは、夏の間にテストの点が学年でいうとおよそ1か月分の学習に相当するほど下がり、最も大きく下がったのは計算とつづりだったと結論づけました。中流家庭の子どもは読む力がわずかに伸びた一方、低所得家庭の子どもは後退しました。
続いてAlexanderさんらは、ボルティモアの子どもたちを小学1年生から追跡しました。そして2007年に、高校入学時の家庭の収入による学力格差の多くは、夏の学びの不平等にさかのぼることができると主張しました。この見方では、学校は機会を平等にする場であり、夏こそ格差が広がる時期だということになります。2019年、von HippelさんとHamrockさんは、測定上の見せかけがこうした結論をどのようにゆがめうるかを示しました。
テストの尺度の中には、子どもの年齢とともに点数の広がり方が変わるものがあり、春と秋でテストの形式を切り替えていた研究もありました。これらの問題に対処すると、彼らの最も確かな発見は、学力格差の多くは子どもが学校に入る時点ですでに存在しているということでした。夏に格差が広がるという証拠は一貫していませんでした。約340万人の生徒の分析では、夏の学力低下はよく見られるものの、すべての生徒に起こるわけではないことが分かりました。
4択リーディングクイズ
Q1. What is the main point of the passage?
1996年と2007年の定説を紹介した後、2019年の研究が measurement artifacts(測定上の見せかけ)による見直しを示したと述べているので C。
Q2. What was von Hippel and Hamrock's most robust finding?
their most robust finding was that most achievement gaps already exist when children start school とあるので A。
Q3. What does "measurement artifacts" refer to in the passage?
直後に Some test scales spread out differently as children age, and some studies switched test forms between spring and fall と具体例があり、測り方が生む見せかけの結果を指すので B。
重要単語
- summer slideB2名詞(句)夏休み中の学力低下Reading over the break may prevent the summer slide.
slide は「滑り落ちる」。summer learning loss とも言う。 - achievement gapC1名詞(句)学力格差The achievement gap starts early in life.
gap は「差・すき間」。教育格差を語る長文の定番表現。close the gap「差を縮める」。 - measurementB2名詞測定Changes in measurement can create false results.
動詞 measure(測る)の名詞形。take measurements「寸法を測る」。 - artifactC1名詞(測定などで生じた)見せかけの結果・人工物Some gaps were measurement artifacts.
もとは「人工物・遺物」。研究では「方法のせいで生じた見せかけの結果」の意味になる。 - vacationA2名詞休暇Summer vacation lasts about six weeks in Japan.
主にアメリカ英語。イギリス英語では holiday(s) を使うことが多い。 - inevitableC1形容詞避けられないSummer learning loss is common but not inevitable.
in-(否定)+evitable(避けられる)。It is inevitable that ~「~は避けられない」。
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「夏休みで学力が1か月分下がる」という有名な説。1996年のメタ分析では算数で特に下がっていた。でもテストの測り方のクセを見直したら、「夏に学力格差が広がる」という定説はぐらついたらしい。格差の多くは入学前にできていた。
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出典・参考文献(4件)タップで表示
- Cooper et al. (1996) The Effects of Summer Vacation on Achievement Test Scores: A Narrative and Meta-Analytic Review, Review of Educational Researchdoi.org
- Alexander, Entwisle & Olson (2007) Lasting Consequences of the Summer Learning Gap, American Sociological Reviewdoi.org
- von Hippel & Hamrock (2019) Do Test Score Gaps Grow before, during, or between the School Years? Measurement Artifacts and What We Can Know in Spite of Them, Sociological Sciencedoi.org
- Kuhfeld (2019) Surprising new evidence on summer learning loss, Phi Delta Kappandoi.org
※本記事は上記の研究・公開資料をもとに、原田英語が独自の言葉で解説したものです。引用は著作権法第32条の範囲で行い、出典を明記しています。画像はすべてオリジナルのイメージです。研究結果には限界や個人差があります。誤りのご指摘は原田英語のお問い合わせフォームから。










