人は自分の名前に入っている文字が好き。でも「デニスは歯医者になりやすい」説には強烈なツッコミが

読む前に予想してみよう!
人は自分の名前に含まれる文字を、他の文字より好む傾向がある
「ネーム・レター効果」は多くの言語で確認されている。ただし名前が職業や住む場所まで左右するという説は疑問視されている。
- 対象
- 欧州・日本の成人/米国の公的記録
- 規模
- 数百人の実験/大規模記録の分析
- 研究の種類
- 実験+アーカイブデータ分析
- 確かさ
- ★★★☆☆
自分の名前に含まれる文字を好む「ネーム・レター効果」は日本語でも確認された。一方、名前が職業や住む町まで決めるという説は、統計の見落としを指摘され揺らいだ。
ひとことで言うと自分の名前の文字はなんとなく好き。でも名前で人生が決まるわけじゃない!
ひらがな50音の中から、好きな文字を選んでくださいと言われたら、どれを選びますか?
もしかすると、自分の名前に入っている文字を選んでいるかもしれません。
心理学では、人が自分の名前に含まれる文字をほかの文字より好む傾向を「ネーム・レター効果」と呼びます。ここまではかなり確かな話。でもこの効果、一時は「名前が職業や結婚相手まで決める」という大胆な説にまで発展し、そして大きなツッコミを受けることになりました。
01「自分の名前の文字」はなんとなく好き
1985年、ベルギーの心理学者ジョゼフ・ニュッタンは、参加者にアルファベットの中から好きな文字を選んでもらうと、自分の名前に含まれる文字が選ばれやすいことを報告しました。しかも本人は、その理由に気づいていませんでした。
この効果は、その後いろいろな言語で確かめられています。日本でも1997年、北山忍らが調べました。
この傾向は、意識して答える自尊心のアンケートとは別の、「潜在的な自尊心」の手がかりとして研究に使われるようになりました。
02「デニスは歯医者になりやすい」説
ここから話は大きく広がります。
2002年、アメリカの研究者たちは、公的な記録を分析して「人は自分の名前に似た職業や町を選びやすい」と報告しました。たとえば、デニス(Dennis)という名前の人は、歯医者(dentist)になりやすい。ルイ(Louis)という名前の人は、セントルイス(St. Louis)に住みやすい。
研究者たちは、自分に関連するものを無意識に好む「潜在的自己中心性」が、人生の大きな選択にまで影響していると主張しました。

032011年、「それ、見せかけでは?」
ところが2011年、行動経済学者のユリ・シモンソンが、この説に強烈なツッコミを入れました。
シモンソンは、データには別の理由で生まれる偏りが隠れていると指摘しました。たとえば、
- 名前の流行は年代によって違う。ある名前が多い世代と、ある職業が増えた時期が重なれば、見かけ上の関係が生まれる
- 名前や住む地域は民族的な背景とも関係がある。同じ背景を持つ人同士の結婚が、「名前が似た人と結婚した」ように見える
- 逆の因果もある。たとえば、親が町の名前を子どもにつける(町が先で、名前があと)
こうした要因を考慮して分析し直すと、結婚・職業・引っ越しに関する「名前の効果」の多くは、消えるか大きく小さくなったのです。
04まとめ
自分の名前の文字が好き——それは、私たちの心のどこかに「自分を大切に思う気持ち」がある証拠かもしれません。
でも、そこから「名前が運命を決める」まで話を広げるのは行きすぎでした。小さな心のクセと、人生の大きな選択は別物。統計の数字を見たら、まず「ほかの理由はない?」と疑ってみましょう。
この研究を英語で読もう原田英語の English CornerPeople tend to prefer the letters in their own names, even though they usually do not realize why.
音声
4択クイズ9問A2・B1・B2タップして開く
原田英語の English Corner
この研究を英語で読もう
Which letter do you like best? You may choose a letter in your own name. People often like the letters in their names more than other letters. This is called the name-letter effect.
A study in Japan found the same thing with hiragana. Some researchers said names can even change your job. For example, people named Dennis may become dentists. But later, another researcher found problems with this idea.
69 words ・ CEFR A2
和訳を見る
あなたはどの文字がいちばん好きですか?もしかすると、自分の名前に入っている文字を選ぶかもしれません。人は、自分の名前に入っている文字を他の文字よりも好むことがよくあります。これはネーム・レター効果と呼ばれます。
日本の研究でも、ひらがなで同じことがわかりました。名前が仕事まで変えることがある、と言う研究者もいました。たとえば、デニスという名前の人は歯医者(デンティスト)になりやすいかもしれない、というのです。しかしその後、別の研究者がこの考えに問題を見つけました。
4択リーディングクイズ
Q1. What is the name-letter effect?
People often like the letters in their names more than other letters. This is called the name-letter effect. とあるので A。
Q2. What did the study in Japan use?
A study in Japan found the same thing with hiragana. とあるので B。
Q3. What does the last sentence suggest about the idea that names can change your job?
another researcher found problems with this idea とあり、その説は正しくないかもしれないと読めるので B。
People tend to prefer the letters in their own names, even though they usually do not realize why. This "name-letter effect" was first reported in Belgium in 1985 and has been found in many languages. In a 1997 Japanese study, university students liked the hiragana in their names more than other hiragana, and they also preferred the numbers of their birthdays.
In 2002, American researchers went further. Using public records, they claimed that people choose jobs and towns that resemble their names, so that a man named Dennis is more likely to become a dentist. However, in 2011, a researcher showed that factors such as age and ethnic background could explain most of these links.
115 words ・ CEFR B1
和訳を見る
人は自分の名前に入っている文字を好む傾向がありますが、たいていその理由には気づいていません。この「ネーム・レター効果」は1985年にベルギーで初めて報告され、多くの言語で見つかっています。1997年の日本の研究では、大学生は自分の名前に入っているひらがなを他のひらがなより好み、自分の誕生日の数字も好みました。2002年、アメリカの研究者たちはさらに踏み込みました。
公的な記録を使って、人は自分の名前に似た仕事や町を選ぶと主張したのです。たとえばデニスという名前の男性は歯医者になりやすい、というわけです。しかし2011年、ある研究者が、年齢や民族的背景といった要因でこうした関係のほとんどが説明できることを示しました。
4択リーディングクイズ
Q1. Besides hiragana, what did Japanese students prefer in the 1997 study?
they also preferred the numbers of their birthdays とあるので A。
Q2. What did the 2002 researchers claim?
people choose jobs and towns that resemble their names と主張したので B。
Q3. What can we infer from the 2011 study?
年齢や民族的背景で関係のほとんどが説明できる=名前と人生の選択の関係は見せかけかもしれない、と推論できるので B。文字の好み自体は否定されていない。
Most people like the letters in their own names a little more than other letters, usually without realizing it. The Belgian psychologist Jozef Nuttin first reported this name-letter effect in 1985, and it has since been documented in many languages. A 1997 Japanese study found that university students rated the hiragana in their names more favorably than other characters and also preferred the numbers in their birthdays.
So even in a culture that values modesty, people seem to hold positive feelings about themselves at an implicit level. In 2002, researchers made a far bolder claim based on archival data. Such "implicit egotism," they argued, steers major life decisions, so that people named Dennis disproportionately become dentists and people named Louis move to St. Louis.
In 2011, however, Uri Simonsohn argued that these patterns were largely spurious. Name popularity varies by generation. Names and places are linked to ethnicity. And causality can run backwards, as when parents name children after their town. Once such confounds were controlled, most of the effects on marriage, occupation and relocation vanished or shrank substantially.
179 words ・ CEFR B2
和訳を見る
たいていの人は、自分の名前に入っている文字を他の文字よりも少しだけ好みます。しかも、ふつうはそれに気づいていません。ベルギーの心理学者ジョゼフ・ニュッタンが1985年にこのネーム・レター効果を初めて報告して以来、この効果は多くの言語で記録されてきました。
1997年の日本の研究では、大学生が自分の名前に入っているひらがなを他の文字より好意的に評価し、誕生日の数字も好むことがわかりました。つまり、謙虚さを重んじる文化においてさえ、人は潜在的なレベルでは自分に好意的な感情を持っているようなのです。2002年、研究者たちは記録データをもとに、はるかに大胆な主張をしました。こうした「潜在的自己中心性」が人生の重大な決定を動かしており、デニスという名前の人は不釣り合いなほど多く歯医者になり、ルイという名前の人はセントルイスに引っ越す、というのです。
しかし2011年、ユリ・シモンソンは、これらのパターンの大部分は見せかけだと主張しました。名前の流行は世代によって異なります。名前と場所は民族と結びついています。そして、親が町の名前を子どもにつける場合のように、因果が逆向きになることもあります。こうした交絡要因を統制すると、結婚・職業・転居への効果のほとんどは消えるか、大きく縮小しました。
4択リーディングクイズ
Q1. What is the main point of the passage?
文字の好みは多くの言語で確認されたが、交絡要因を統制すると結婚・職業・転居への効果のほとんどは消えるか大きく縮小した(最終文)という内容なので D。
Q2. Which of the following is NOT mentioned as a confound by Simonsohn?
世代・民族・逆の因果の3つが挙げられている。知能の違いは本文にないので D。
Q3. What does "causality can run backwards" mean in this context?
as when parents name children after their town とあるように、名前→場所ではなく場所→名前という逆の因果のこと。A。
重要単語
- implicitC1形容詞潜在的な、暗黙のImplicit attitudes work below awareness.
反対語 explicit(明示的な)とセットで。implicit bias=無意識の偏見。 - self-esteemB2名詞自尊心The name-letter task measures implicit self-esteem.
esteem は「尊重」。hold ~ in high esteem=「~を高く評価する」。 - confoundC1名詞・動詞交絡(見かけの関係を生む別の要因)/混同させるEthnicity was a hidden confound.
動詞では「困惑させる」の意味も。研究では confounding factor(交絡因子)の形が多い。 - initialB1名詞・形容詞頭文字/最初のMany people like their own initials.
形容詞「最初の」が本来の意味。副詞 initially=at first。 - spuriousC1形容詞見せかけの、偽のThe correlation turned out to be spurious.
spurious correlation=疑似相関。相関と因果を区別する評論文で頻出。 - resembleB2動詞似ているShe resembles her mother.
他動詞なので resemble with / to は誤り(入試の正誤問題の定番)。進行形にしない。 - disproportionatelyC1副詞不釣り合いに、偏ってThe disease disproportionately affects older people.
dis-+proportion(割合)。「本来の割合以上に多く(少なく)」という統計表現。
このネタ、誰かに教えたくなった?
人は自分の名前に入っている文字を、ほかの文字より好む傾向があるらしい。日本人のひらがなでも確認された。でも「デニスさんは歯医者(デンティスト)になりやすい」という有名な説は、後の分析で"見せかけ"の可能性が指摘された。
押すと「マジかリスト」に保存されます
出典・参考文献(4件)タップで表示
- Nuttin (1985) Narcissism beyond Gestalt and awareness: The name letter effect, European Journal of Social Psychologydoi.org
- Kitayama & Karasawa (1997) Implicit self-esteem in Japan: Name letters and birthday numbers, Personality and Social Psychology Bulletindoi.org
- Pelham, Mirenberg & Jones (2002) Why Susie sells seashells by the seashore: Implicit egotism and major life decisions, Journal of Personality and Social Psychologydoi.org
- Simonsohn (2011) Spurious? Name similarity effects (implicit egotism) in marriage, job, and moving decisions, Journal of Personality and Social Psychologydoi.org
※本記事は上記の研究・公開資料をもとに、原田英語が独自の言葉で解説したものです。引用は著作権法第32条の範囲で行い、出典を明記しています。画像はすべてオリジナルのイメージです。研究結果には限界や個人差があります。誤りのご指摘は原田英語のお問い合わせフォームから。










