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「愛情ホルモン」オキシトシンを鼻にスプレーすると人を信じる? 有名研究が再現されなかった話

「愛情ホルモン」オキシトシンを鼻にスプレーすると人を信じる? 有名研究が再現されなかった話

読む前に予想してみよう!

オキシトシンを鼻から吸うと、誰に対しても信頼や優しさが増すことが確立している

研究カード(どんな研究?)
対象
欧州の成人など
規模
数十〜100人規模の実験多数+レビュー
研究の種類
二重盲検実験・追試・レビュー
確かさ
★★★☆☆
3秒でわかる

鼻からオキシトシンを吸うと人を信頼しやすくなる——2005年の有名研究は、その後の追試でうまく再現されず、「仲間びいき」を強めるという研究まで出てきた。

ひとことで言うとオキシトシンは「みんなを好きになる魔法の薬」ではなかった!

もくじ
  1. 2005年、Nature に載った大発見
  2. 追試でうまく再現されない
  3. 「みんなに優しく」ではなく「仲間びいき」?
  4. まとめ

「オキシトシン」という言葉を聞いたことはありますか? 出産や授乳に関わるホルモンとして知られ、ネットや本では「愛情ホルモン」「幸せホルモン」「信頼ホルモン」などと呼ばれています。

「ハグするとオキシトシンが出て絆が深まる」「オキシトシンで人に優しくなれる」——そんな話もよく見かけます。中には、オキシトシン入りをうたうスプレーがネットで売られていることも。

でも、心理学や神経科学の世界では、この「愛情ホルモン」のイメージに、大きなブレーキがかかっています。

012005年、Nature に載った大発見

ブームのきっかけのひとつは、2005年にスイスの研究チームが科学誌 Nature に発表した実験でした。

動物の研究では、オキシトシンがつがいのきずなや子育てに関わることが以前から知られていました。それが人間でも確かめられた——と、世界中のメディアが飛びつきました。

02追試でうまく再現されない

ところが、その後の研究で、雲行きがあやしくなっていきます。

2015年には、カリフォルニア工科大学などの研究者が、オキシトシンと信頼に関する研究を総まとめしました。その結論は厳しいものでした。

  • 鼻からオキシトシンを吸うと信頼が増す、といういちばんシンプルな結果が、うまく再現されていない
  • 血液中のオキシトシンを測る研究は、測定方法そのものに問題がある
  • 遺伝子と信頼の関係を調べた大規模研究でも、一貫した結果は出ていない

レビューは、「オキシトシンが人間の信頼と確かに結びついている、という頑健な証拠はない」とまとめています。

さらに、別の研究者たちは、鼻からオキシトシンを吸う研究の多くが参加者数が少なく、本当の効果を見つける力(検出力)が弱いことを指摘しました。そうした研究で「効果あり」と出た結果は、偶然の可能性も高いのです。実際、オキシトシンで信頼が増すという別の実験を、十分な人数で追試したところ、2回とも効果は再現されませんでした。

ひとつの華やかな発見より、たくさんの地道な追試が答えを決める
ひとつの華やかな発見より、たくさんの地道な追試が答えを決める

03「みんなに優しく」ではなく「仲間びいき」?

もうひとつの意外な研究もあります。オランダの研究チームが、二重盲検法で男性にオキシトシンを吸ってもらい、自分のグループとライバルのグループが関わるお金のゲームをしてもらいました。

すると、オキシトシンを吸った人は、自分のグループへの協力や信頼が増えた一方で、ライバルのグループに対しては、身を守るための攻撃的な行動をとりやすくなっていました。もしこの結果が正しいとすれば、オキシトシンは「誰にでも優しくなる薬」ではなく、「仲間を守る」方向に働くのかもしれません。ただし、この研究も今後の確認が必要です。

04まとめ

「愛情ホルモン」「信頼ホルモン」と呼ばれるオキシトシン。でも、鼻から吸えば人を信頼できる、という有名な結果は、うまく再現されていません。オキシトシンが体の中で大切な役割を持つことは確かですが、「愛情の魔法の薬」というイメージは言い過ぎでした。

科学は、ひとつの大発見ではなく、くり返しの確かめ直しで前に進む。このオキシトシンの物語は、そのことを教えてくれる、もうひとつの「マジか!?」なのです。

この研究を英語で読もう原田英語の English CornerOxytocin is often called the "love hormone" or "trust hormone." Its fame grew after a 2005 study published… 音声 4択クイズ9問A2・B1・B2タップして開く

原田英語の English Corner

この研究を英語で読もう

Oxytocin is often called the "love hormone" or "trust hormone." Its fame grew after a 2005 study published in the journal Nature. Men sprayed either oxytocin or a placebo into their noses, and neither they nor the researchers knew which one they received. In a "trust game" with money, those who received oxytocin gave more money to their partner.

However, a 2015 review concluded that this simple result had not been reliably replicated. Other researchers pointed out that many oxytocin studies used small samples, so positive results might have appeared by chance. A Dutch study even suggested that oxytocin may increase cooperation with one's own group while making people more defensive toward rival groups.

114 words ・ CEFR B1

和訳を見る

オキシトシンは、しばしば「愛情ホルモン」や「信頼ホルモン」と呼ばれます。その名声は、科学誌 Nature に掲載された2005年の研究の後に高まりました。男性たちがオキシトシンか偽薬(プラシーボ)のどちらかを鼻にスプレーし、本人も研究者もどちらを受け取ったのか知りませんでした。お金を使った「信頼ゲーム」では、オキシトシンを受け取った人のほうが、相手により多くのお金を渡しました。

しかし、2015年のレビューは、このシンプルな結果は確実には再現されていないと結論づけました。ほかの研究者たちは、オキシトシン研究の多くが小さなサンプルを使っていたため、効果ありという結果が偶然現れた可能性があると指摘しました。オランダの研究は、オキシトシンが自分のグループとの協力を増やす一方で、ライバルのグループに対しては人をより防衛的にする可能性さえ示しました。

4択リーディングクイズ

Q1. In the 2005 study, who knew whether a participant received oxytocin or a placebo?

Q2. Why might positive results in oxytocin studies have appeared by chance?

Q3. What does the Dutch study suggest about oxytocin?

重要単語

  • hormoneB2
    名詞ホルモンHormones carry messages in the body. 発音は /ˈhɔːrmoʊn/(ホーモウン)。ギリシャ語の「刺激する」が語源。
  • trustB1
    名詞・動詞信頼(する)Trust takes years to build. 形容詞 trustworthy(信頼できる)。trust in ~「~への信頼」。
  • replicateC1
    動詞再現する、追試で同じ結果を出すOther scientists could not replicate the result. 名詞 replication。replica(複製品)と同語源。
  • placeboC1
    名詞偽薬Half of the participants received a placebo. ラテン語で「私は喜ばせるだろう」。placebo effect「偽薬効果」も頻出。
  • in-groupC1
    名詞内集団、自分の仲間のグループPeople often favor their in-group. 反対は out-group(外集団)。in-group bias「内集団びいき」。
  • false positiveC1
    名詞(句)偽陽性(本当は効果がないのに「ある」と出ること)Small studies can produce false positives. 反対は false negative(偽陰性)。検査や統計の基本用語。

4コマでわかる

「愛情ホルモン」オキシトシンを鼻にスプレーすると人を信じる? 有名研究が再現されなかった話の4コマ漫画
「愛情ホルモン」オキシトシン。2005年、鼻から吸うと人を信頼しやすくなるという研究がNatureに載り大ブームに。でも追試ではうまく再現されず、専門家のレビューは「信頼との関係は確かとは言えない」と結論した。

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出典・参考文献(5件)タップで表示
  1. Kosfeld et al. (2005) Oxytocin increases trust in humans, Naturedoi.org
  2. Nave, Camerer & McCullough (2015) Does oxytocin increase trust in humans? A critical review of research, Perspectives on Psychological Sciencedoi.org
  3. Walum, Waldman & Young (2016) Statistical and methodological considerations for the interpretation of intranasal oxytocin studies, Biological Psychiatrydoi.org
  4. De Dreu et al. (2010) The neuropeptide oxytocin regulates parochial altruism in intergroup conflict among humans, Sciencedoi.org
  5. Lane et al. (2015) Failed replication of oxytocin effects on trust: The envelope task case, PLOS ONEdoi.org