ローゼンハン実験とは? 精神科をだました伝説の研究に、50年後「ねつ造」疑惑が持ち上がった

読む前に予想してみよう!
ローゼンハン実験は、のちの調査でもすべての記録が論文どおりだと確認されている
記者の調査で、本人の入院記録と論文の記述の食い違いや、参加者の実在が確認できない点などが指摘されている。
- 対象
- 偽患者8人(と報告された)
- 規模
- 12の病院(と報告された)
- 研究の種類
- フィールド実験(記録に疑義あり)
- 確かさ
- ★☆☆☆☆
健康な人が「声が聞こえる」と偽り全員が精神科に入院できたとする1973年の有名研究。精神医学を変えたが、近年の調査で記録との食い違いが見つかり不正が疑われた。
ひとことで言うと教科書級の有名な実験が、あとから「本当だったの?」と疑われている!
ローゼンハン実験とは、1973年にアメリカの心理学者デイヴィッド・ローゼンハンが科学誌『サイエンス』に発表した研究です。健康な人たちが「頭の中で声が聞こえる」とだけ偽って精神科病院を受診したところ、全員が入院でき、ほとんどが統合失調症と診断された――という内容でした。
この研究は「精神科医は、正常と異常を見分けられないのでは?」と世界に衝撃を与え、精神医学の診断のしかたを見直すきっかけの一つになりました。ところが半世紀近くたって、「そもそもこの実験は論文どおりに行われたのか?」という深刻な疑いが持ち上がったのです。
01論文に書かれた「実験」
さらに論文は、ある病院に「これから偽患者を送る」と予告したところ、実際には誰も送っていないのに、本物の患者の一部が「偽患者では」と疑われたとも報告しています。正常と異常の見分けがいかにむずかしいかを示す、衝撃的なエピソードでした。
02当時から批判はあった
1975年、精神科医のスピッツァーさんは、この研究を厳しく批判しました。「声が聞こえる」と訴える人を入院させて慎重に様子を見るのは医師として当然であり、「寛解」という診断も、症状がないことに医師が気づいていた証拠だ、という主張です。
それでも、ローゼンハンの論文は教科書の定番となり、精神医学の診断基準を大きく作りかえる動きにも影響を与えたと言われています。

03どんでん返し:記録が論文と合わない
2019年、アメリカの記者スザンナ・キャハランさんが、ローゼンハンの残した資料を何年もかけて調べた本を出版しました。そこで次のような問題が指摘されました。
- ローゼンハン本人の入院記録には、論文よりずっと重い症状を訴えていたような記述があった
- 8人の偽患者のうち、身元をたどれたのはごく一部だった
- 病院での体験を良いものだったと語った参加者が、論文からはずされていたらしい
2023年には、精神医学史の研究者スカルさんが、キャハランさんの調査と資料をもとに、この研究を「成功した科学的不正」と呼ぶ論文を発表しました。ただし、ローゼンハンは2012年に亡くなっており、本人が反論することはできません。
04まとめ
ローゼンハン実験は、精神医学のあり方を問い直した伝説の研究でした。そして同時に、「有名な研究ほど、本当に確かめられているかを疑う」ことの大切さを教えてくれる研究にもなりました。
科学は、まちがいに気づいて直していけることが強み。50年後の調査も、その大事な一部なのです。
この研究を英語で読もう原田英語の English CornerIn 1973, the American psychologist David Rosenhan published a famous paper in the journal Science.
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4択クイズ9問A2・B1・B2タップして開く
原田英語の English Corner
この研究を英語で読もう
In 1973, a scientist named Rosenhan wrote about a famous study. He said that eight healthy people went to mental hospitals. They said they heard voices, but nothing else was wrong. All of them were kept in the hospitals. Many doctors and students read about this study.
But many years later, a writer looked at old records. Some of the records did not match the study. Now some experts think the study was not honest.
75 words ・ CEFR A2
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1973年、ローゼンハンという科学者が、ある有名な研究について書きました。彼は、健康な8人が精神科の病院に行ったと述べました。彼らは声が聞こえると言いましたが、ほかには何も悪いところはありませんでした。全員が病院に入院させられました。多くの医師や学生がこの研究について読みました。
しかし何年もたってから、ある作家が古い記録を調べました。記録の一部は研究の内容と合っていませんでした。今では、この研究は誠実なものではなかったと考える専門家もいます。
4択リーディングクイズ
Q1. What is the passage mainly about?
有名な研究を紹介したあと、記録が合わず誠実でなかったと考える専門家がいる、と述べているので B。
Q2. How many healthy people went to hospitals in the study?
eight healthy people went to mental hospitals とあるので A。
Q3. In this passage, "did not match" means ...
match は動詞で「一致する」。記録と研究の内容が一致しなかった、という意味なので D。
In 1973, the American psychologist David Rosenhan published a famous paper in the journal Science. He reported that eight healthy people, including himself, went to 12 hospitals and said they heard voices. All of them were admitted, and most were diagnosed with schizophrenia. After that, they acted normally, but they stayed for 19 days on average. The study shocked the world and made people question whether psychiatrists could tell healthy people from ill people.
However, in 2019, a journalist who had studied Rosenhan's papers for years published a book. She found that his own medical records described more serious symptoms than his paper did, and that only a few of the eight people could be traced.
116 words ・ CEFR B1
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1973年、アメリカの心理学者デイヴィッド・ローゼンハンは、科学誌『サイエンス』に有名な論文を発表しました。彼は、自分をふくむ健康な8人が12の病院に行き、声が聞こえると言ったと報告しました。全員が入院し、ほとんどが統合失調症と診断されました。その後、彼らはふつうにふるまいましたが、平均で19日間入院していました。この研究は世界に衝撃を与え、精神科医は健康な人と病気の人を見分けられるのかという疑問を人々に抱かせました。
ところが2019年、ローゼンハンの資料を何年もかけて調べた記者が本を出版しました。彼女は、ローゼンハン自身の診療記録には論文よりも重い症状が書かれていたこと、そして8人のうち身元をたどれたのはごく一部だったことを見つけたのです。
4択リーディングクイズ
Q1. What is the passage mainly about?
前半で1973年の有名な研究を、後半で2019年に見つかった疑問点を紹介しているので C。
Q2. How long did the pseudopatients stay in hospital on average?
they stayed for 19 days on average とあるので B。12 は病院の数、8 は人数。
Q3. What does the journalist's finding suggest?
記録の症状が論文より重く、参加者の身元もほとんどたどれなかったことから、論文どおりに実験が行われなかった可能性があると推測できるので D。
In 1973, David Rosenhan published "On Being Sane in Insane Places," a paper that went on to shape public views of psychiatry for decades. Rosenhan reported that eight mentally healthy pseudopatients, himself included, sought admission to 12 hospitals by claiming to hear voices saying words such as "empty" and "hollow." All were admitted, and most were diagnosed with schizophrenia. Once inside, they behaved normally.
Even so, they stayed an average of 19 days and were typically discharged with schizophrenia "in remission." The paper seemed to show that psychiatrists could not tell the sane from the insane, and it is said to have influenced the overhaul of diagnostic criteria. Critics responded early. In 1975, the psychiatrist Spitzer argued that admitting someone who reports hallucinations was reasonable, and that the label "in remission" proved doctors had noticed the symptoms were gone.
More damaging doubts came in 2019. The journalist Susannah Cahalan found that Rosenhan's own records described more severe symptoms than the paper did, that only a few pseudopatients could be identified, and that one participant who had a positive experience was apparently left out. Rosenhan had died in 2012, eleven years before a 2023 paper called his study "successful scientific fraud."
200 words ・ CEFR B2
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1973年、デイヴィッド・ローゼンハンは論文「狂気の場所で正気でいることについて」を発表し、この論文はその後何十年にもわたって、精神医学に対する世間の見方を形づくりました。ローゼンハンは、自分をふくむ精神的に健康な8人の偽患者が、「からっぽ」「うつろ」といった言葉を言う声が聞こえると訴えて、12の病院に入院を求めたと報告しました。全員が入院し、ほとんどが統合失調症と診断されました。入院後、彼らはふつうにふるまいました。
それでも平均19日間入院し、たいていは統合失調症「寛解」として退院しました。この論文は、精神科医が正気と狂気を見分けられないことを示しているように見え、診断基準の全面的な見直しに影響を与えたと言われています。批判は早くからありました。1975年、精神科医のスピッツァーは、幻聴を訴える人を入院させるのは妥当であり、「寛解」というラベルは医師が症状が消えたことに気づいていた証拠だと主張しました。
さらに深刻な疑いが出てきたのは2019年です。記者のスザンナ・キャハランは、ローゼンハン自身の記録には論文よりも重い症状が書かれていたこと、身元を特定できた偽患者はごく一部だったこと、そして病院で良い経験をした参加者が除外されていたらしいことを見つけました。2023年のある論文がこの研究を「成功した科学的不正」と呼んだのは、ローゼンハンが2012年に亡くなってから11年後のことでした。
4択リーディングクイズ
Q1. Which statement best summarizes the passage?
大きな影響を与えた研究が、記録と論文の食い違いによって深刻な疑いをかけられている、という流れなので A。
Q2. What did Spitzer argue in 1975?
the label "in remission" proved doctors had noticed the symptoms were gone とあるので C。
Q3. When was the study called "successful scientific fraud"?
Rosenhan had died in 2012, eleven years before a 2023 paper called his study "successful scientific fraud." とあるので D。1975年のスピッツァーや2019年のキャハランは別の批判。
重要単語
- pseudopatientC1名詞偽の患者The pseudopatients said they heard voices.
pseudo-(にせの)+patient。pseudoscience「疑似科学」も同じ接頭辞。p は発音しない(/ˈsuːdoʊ/)。 - diagnosisB2名詞診断The diagnosis was schizophrenia.
dia-(通して)+gnosis(知ること)。be diagnosed with ~「~と診断される」が頻出。 - fraudB2名詞不正・詐欺Some scholars call the study a case of fraud.
scientific fraud「研究不正」。形容詞 fraudulent「不正な」。 - discrepancyC1名詞食い違いThere were discrepancies between the records and the paper.
a discrepancy between A and B「AとBの食い違い」の形で使う。難関大の長文で見かける語。 - labelB1名詞・動詞レッテル・ラベル(を貼る)A psychiatric label can change how people see you.
発音は /ˈleɪbəl/(レイベル)。label A as B「AにBのレッテルを貼る」。 - admitB1動詞(入院・入学を)認める・入れる/認めるAll of them were admitted to the hospital.
be admitted to a hospital「入院する」。「(罪などを)認める」の意味もあり、admit doing の語法が頻出。名詞 admission。
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健康な8人が「声が聞こえる」とウソをつき、全員が精神科に入院できた――1973年の超有名な「ローゼンハン実験」。でも近年、記録と論文の食い違いが見つかり「ねつ造では」と指摘する論文まで出たらしい。
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出典・参考文献(3件)タップで表示
- Rosenhan (1973) On Being Sane in Insane Places, Sciencedoi.org
- Spitzer (1975) On pseudoscience in science, logic in remission, and psychiatric diagnosis: A critique of Rosenhan's "On being sane in insane places", Journal of Abnormal Psychologydoi.org
- Scull (2023) Rosenhan revisited: successful scientific fraud, History of Psychiatrydoi.org
※本記事は上記の研究・公開資料をもとに、原田英語が独自の言葉で解説したものです。引用は著作権法第32条の範囲で行い、出典を明記しています。画像はすべてオリジナルのイメージです。研究結果には限界や個人差があります。誤りのご指摘は原田英語のお問い合わせフォームから。











