心理学

他人のケガを見ると思わず顔をしかめるのはなぜ? 脳は相手の痛みを“自分ごと”で処理していた

他人のケガを見ると思わず顔をしかめるのはなぜ? 脳は相手の痛みを“自分ごと”で処理していた

読む前に予想してみよう!

他人の痛みを見たとき、脳は自分が痛いときとまったく同じ反応をする

研究カード(どんな研究?)
対象
健康な成人
規模
16組のカップルほか(メタ分析は32研究)
研究の種類
fMRI実験+メタ分析
確かさ
★★★★☆
3秒でわかる

他人の痛みを見ると、自分が痛いときに働く脳の領域(前島皮質や帯状皮質)の一部が活動する。体の筋肉まで反応していた。ただし相手が「仲間」かどうかで反応は変わる。

ひとことで言うと人の痛そうな姿を見ると、脳が「自分も痛いかも」と少しマネしちゃう!

もくじ
  1. 恋人の痛みに、自分の脳が反応した
  2. 32の研究をまとめても、同じ結論
  3. 体の筋肉まで「痛み」をマネしていた
  4. どんでん返し:共感には「えこひいき」がある
  5. まとめ

友だちが机の角に小指をぶつけた瞬間、自分まで「うっ」と顔をしかめてしまう。テレビで注射の場面が映ると、思わず腕を押さえる。

答えを先に言うと、脳は他人の痛みを、自分の痛みを処理する回路の一部を使って「自分ごと」として処理しているからです。ただし、まったく同じではありません。そして、その反応は相手が「仲間」かどうかで変わることもわかっています。

01恋人の痛みに、自分の脳が反応した

ところが、「どこが、どれくらい痛いか」を感じる体の感覚の領域は、自分が痛いときにしか強く反応しませんでした。研究タイトルのとおり、共感で共有されるのは痛みの「つらさ(感情的な部分)」で、「感覚そのもの」ではないというわけです。

さらに、ふだんの共感性テストの点数が高い人ほど、パートナーの痛みへの脳の反応も大きい傾向がありました。

0232の研究をまとめても、同じ結論

1つの研究だけでは心もとないですよね。2011年、ラム(Lamm)さんらは、他人の痛みへの共感を調べた32のfMRI研究をまとめて分析しました。その結果、自分の痛みと他人の痛みの両方で働く「核」となるネットワーク(両側の前島皮質と、内側・前部の帯状皮質)が一貫して見つかりました。

他人の痛みを見ると、自分の痛みで働く回路の一部が反応する
他人の痛みを見ると、自分の痛みで働く回路の一部が反応する

03体の筋肉まで「痛み」をマネしていた

顔をしかめたり、腕を押さえたりするのは、脳の中だけの話ではありません。

イタリアのアヴェナンティ(Avenanti)さんらは2005年、人の手に針が刺さる映像を見せながら、見ている人の脳に磁気刺激(TMS)を与えて、手の筋肉の反応を測りました。すると、映像で針が刺さったのと同じ筋肉で、見ている人の筋肉の反応が下がっていました。まるで自分の手が刺されたときのように、体がすくむときに似た運動の反応をしていたのです。

04どんでん返し:共感には「えこひいき」がある

ただし、この共感の回路はいつでも公平に働くわけではありません。

2010年、スイスで行われた研究(Hein さんら)では、サッカーファンの男性に、同じチームのファンとライバルチームのファンが痛みを受ける場面を見せました。すると、同じチームのファンが痛がるときほど前島皮質の反応が大きく、その反応が大きい人ほど、自分が痛みを肩代わりしてでも相手を助けようとする傾向がありました。ライバルのファンが痛がる場面では、逆に脳の「報酬」に関わる領域が反応する人もいたのです。

05まとめ

他人の痛みで思わず顔をしかめるのは、脳が相手の痛みの「つらさ」を自分の回路で再現し、体まで身構えるから。ただしその共感は、相手が仲間かどうかで強さが変わる、ちょっと人間くさい仕組みでもありました。

顔をしかめたあなたは、相手の痛みをちゃんと受け取っている証拠。その一歩先の「大丈夫?」が言えたら完璧です。

この研究を英語で読もう原田英語の English CornerWhy do we wince when someone else gets hurt? 音声 4択クイズ9問A2・B1・B2タップして開く

原田英語の English Corner

この研究を英語で読もう

Why do we wince when someone else gets hurt? In 2004, researchers in London studied 16 couples. While a woman lay in a brain scanner, either she or her partner received a painful electric shock. She could not see his face, only their hands and a signal showing who would be hurt. When she knew her partner was in pain, parts of her brain that also react to her own pain, such as the anterior insula, became active.

However, the areas that tell us where and how strongly the body hurts responded mainly to her own pain. So empathy seems to share the emotional side of pain, not the physical sensation. Our bodies also react: watching a needle enter a hand can affect the same muscle in the viewer's hand.

130 words ・ CEFR B1

和訳を見る

他の人がけがをすると、なぜ私たちは顔をしかめるのでしょうか。2004年、ロンドンの研究者たちは16組のカップルを調べました。女性が脳スキャナーの中に横たわっている間に、彼女かパートナーのどちらかが痛みを伴う電気ショックを受けました。彼女には彼の顔は見えず、2人の手と、どちらが痛みを受けるかを示す合図だけが見えました。パートナーが痛みを受けているとわかると、前島皮質など、自分の痛みにも反応する脳の部分が活発になりました。しかし、体のどこがどれくらい痛いかを伝える領域は、主に自分自身の痛みに反応しました。

つまり共感は、痛みの感覚そのものではなく、感情的な面を共有するようです。体も反応します。針が手に刺さるのを見ると、見ている人の手の同じ筋肉に影響が出ることがあるのです。

4択リーディングクイズ

Q1. What is the main idea of the passage?

Q2. In the 2004 study, what could the woman see?

Q3. What can we infer from the needle example?

重要単語

  • empathyB2
    名詞共感Empathy helps us understand how others feel. em-(中に)+pathy(感情)。sympathy(同情)との違いは入試の定番テーマ。
  • winceC1
    動詞(痛みで)顔をしかめるI winced when I saw him fall. 一瞬ビクッと顔をゆがめる動作。wince at ~「~に顔をしかめる」。
  • observeB1
    動詞観察する、目にするJust observing someone in pain can affect your brain. 「(規則を)守る」の意味もある。名詞は observation(観察)と observance(遵守)で別。
  • overlapB2
    動詞重なるThe two brain networks overlap partly. over(上に)+lap(重なり)。名詞も同形で、an overlap between A and B。
  • in-groupC1
    名詞内集団(自分の仲間グループ)People often help in-group members more. 反対は out-group(外集団)。社会心理学の長文で頻出。
  • impartialC1
    形容詞公平な、えこひいきのないA judge must be impartial. im-(否定)+partial(一方に偏った)。be partial to ~ は「~をひいきする、~が大好きだ」。
他人が注射される映像で思わず顔をしかめるのは、脳が相手の痛みを「自分ごと」として処理しているから。fMRI研究では、パートナーが痛い目にあう合図を見ただけで、自分が痛いときと同じ領域の一部が反応したらしい。

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出典・参考文献(4件)タップで表示
  1. Singer et al. (2004) Empathy for Pain Involves the Affective but not Sensory Components of Pain, Sciencedoi.org
  2. Lamm, Decety & Singer (2011) Meta-analytic evidence for common and distinct neural networks associated with directly experienced pain and empathy for pain, NeuroImagedoi.org
  3. Avenanti et al. (2005) Transcranial magnetic stimulation highlights the sensorimotor side of empathy for pain, Nature Neurosciencedoi.org
  4. Hein et al. (2010) Neural Responses to Ingroup and Outgroup Members' Suffering Predict Individual Differences in Costly Helping, Neurondoi.org