「クマバチは航空力学的に飛べない」はウソだった。ハチの羽が生む“小さな竜巻”の正体

読む前に予想してみよう!
ハチの飛行は、現代の科学でも説明できない謎のままだ
羽ばたく羽の前縁にできる渦や、羽の回転によって大きな揚力が生まれることが実験で示されている。
- 対象
- 昆虫の羽の模型・実際の昆虫
- 規模
- 実験室での流体実験
- 研究の種類
- 実験研究
- 確かさ
- ★★★★☆
「クマバチは理論上飛べない」は、飛行機の固い翼の計算を当てはめた誤解。羽ばたく羽が作る前縁渦などで十分な揚力が出ることが実験で示された。
ひとことで言うとハチは飛行機とちがう飛び方をしているから、ちゃんと飛べる!
「クマバチは航空力学的には飛べないはずなのに、本人は飛べると信じているから飛べるのだ」――自己啓発の本やスピーチでよく聞く話です。
結論から言うと、「クマバチは航空力学的に飛べない」はウソです。この話は、飛行機の“固い翼”の計算を、羽ばたく昆虫の羽にそのまま当てはめたことから生まれた誤解。実際には、ハチの羽ばたきが羽のふちに小さな竜巻のような渦を作り、それが大きな揚力を生んでいることが、実験で確かめられています。
01「飛べない説」はどこから来た?
この話のルーツとしてよく挙げられるのは、1930年代のフランスです。昆虫の飛行についての本の中で、「ハチの体重と羽の大きさで計算すると、飛ぶのに必要な揚力が出ない」という趣旨の話が紹介されたといわれています。
計算自体は「飛行機の翼のように、羽が一定の形・一定の角度でなめらかに空気を切る」と仮定したもの。ところが、ハチの羽は1秒間に何百回も前後に振られ、そのたびにくるっとひっくり返るまったく別の動き方をしています。前提が違えば、答えも違って当然です。
ちなみに日本では「クマバチ」の話として広まっていますが、海外では主にマルハナバチ(bumblebee)の話です。どちらも丸っこい体に小さめの羽という共通点があり、「本当に飛べるの?」と思われやすい見た目なのでしょう。
02正体①:羽のふちにできる「前縁渦」
飛行機の翼では、角度を急にしすぎると空気の流れが翼からはがれて「失速」します。ところが羽ばたく羽では、はがれかけた流れが渦となって羽の上に留まり、かえって揚力を増やすのです。羽ばたきが短い時間で切り返すからこそできる芸当です。

03正体②:油の中で羽ばたく「ロボバエ」
1999年には、米カリフォルニア大学バークレー校のディキンソンらが、さらに踏み込んだ実験をScience 誌に発表しました。
彼らは、ショウジョウバエの羽を大きくしたロボットの羽を作り、ミネラルオイルを満たした水槽の中でゆっくり羽ばたかせました。油の中で大きな羽をゆっくり動かすと、空気中の小さな羽の速い動きと「流れの性質」がそろうため、力をくわしく測れるのです。
その結果、揚力の源は前縁渦だけではありませんでした。羽を切り返すときにくるっと回転させる動きや、自分が直前に作った流れをもう一度とらえる動きからも、大きな力が生まれていたのです。
2005年には、ディキンソンを含む研究チームがミツバチを調べ、ミツバチが小さな振り幅で非常に速く羽ばたく独特のスタイルで体を支えていることも報告しました。ハチの仲間でも、飛び方の「流儀」はいろいろなのです。
04どんでん返し:「謎」が解けた後の方が面白い
「クマバチは飛べると信じているから飛べる」というお話は、気持ちを励ますたとえとしては魅力的です。でも科学的には、ハチは信念ではなく物理で飛んでいます。
そして本当に面白いのはここから。昆虫の羽ばたきの仕組みは、小型ドローンや羽ばたきロボットの設計にも応用が研究されています。「飛べないはず」という誤解が、むしろ新しい技術のヒントの宝庫だったわけです。
05まとめ
「クマバチは航空力学的に飛べない」はウソ。飛行機の翼の計算をそのまま当てはめたのが間違いで、羽ばたく羽がつくる渦や回転が、十分な揚力を生んでいました。
次にブーンと飛ぶクマバチを見かけたら、その羽のふちで小さな竜巻がくるくる回っている様子を想像してみてください。
この研究を英語で読もう原田英語の English CornerMany people have heard that bumblebees should not be able to fly according to the laws of aerodynamics.
音声
4択クイズ9問A2・B1・B2タップして開く
原田英語の English Corner
この研究を英語で読もう
There is a famous story that says bumblebees should not be able to fly. This is not true. The story came from using math for airplane wings.
But a bee's wings are different. They move back and forth hundreds of times a second, and they turn over each time. This makes small whirls of air, like tiny tornadoes, on the edge of each wing. These whirls help lift the bee.
70 words ・ CEFR A2
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マルハナバチは飛べないはずだ、という有名な話があります。これは本当ではありません。この話は、飛行機の翼のための計算を使ったことから生まれました。
しかし、ハチの羽は違います。1秒間に何百回も前後に動き、そのたびにくるっとひっくり返ります。これによって、それぞれの羽のふちに、小さな竜巻のような空気のうずができます。このうずが、ハチを持ち上げるのを助けているのです。
4択リーディングクイズ
Q1. What is the passage mainly about?
「ハチは飛べないはず」という話が間違いである理由を説明しているので A。
Q2. How many times a second do a bee's wings move?
They move back and forth hundreds of times a second とあるので D。
Q3. In the passage, "lift" means ...
lift は「持ち上げる」。うずがハチを持ち上げるのを助けるという意味なので B。
Many people have heard that bumblebees should not be able to fly according to the laws of aerodynamics. This idea is a misconception. It comes from calculations that treated a bee's wing like the stiff wing of an airplane, which moves smoothly at a fixed angle.
In fact, insects flap their wings very quickly and flip them at the end of each stroke. In 1996, researchers in Cambridge found that a flapping wing creates a vortex that stays on its front edge and greatly increases lift. In 1999, another team moved large robotic wings in oil and found that turning the wing and catching air from the previous stroke also produce force.
112 words ・ CEFR B1
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マルハナバチは空気力学の法則によれば飛べないはずだ、という話を聞いたことがある人は多いでしょう。この考えは誤解です。それは、ハチの羽を、一定の角度でなめらかに動く飛行機の固い翼のように扱った計算から来ています。
実際には、昆虫はとても速く羽ばたき、ひと振りごとの終わりに羽をひっくり返します。1996年、ケンブリッジの研究者たちは、羽ばたく羽が前のふちに張りつく渦を作り、それが揚力を大きく高めることを発見しました。1999年には、別のチームが大きなロボットの羽を油の中で動かし、羽を回転させる動きや、直前のひと振りで生まれた空気の流れをとらえる動きからも力が生まれることを見つけました。
4択リーディングクイズ
Q1. What is the main idea of the passage?
飛べない説は誤った前提から生まれたもので、羽ばたく羽は余分な揚力を生む、というのが主旨なので C。
Q2. What did the 1996 study find?
a flapping wing creates a vortex that stays on its front edge and greatly increases lift とあるので B。
Q3. Why was the original calculation wrong?
treated a bee's wing like the stiff wing of an airplane とあり、実際の羽の動きと前提が違ったので D。
Somewhere in a 1930s French book on insect flight, a calculation appeared to show that a bumblebee should not be able to fly. Nobody is sure who did the math, but the story has spread ever since. The calculation treated a bee's wing like a rigid airplane wing, moving smoothly at a constant angle.
Real insect wings do nothing of the sort. They beat back and forth hundreds of times a second and flip over at the end of every stroke. In 1996, researchers at Cambridge released smoke around a flapping model of a hawkmoth, built much larger than life.
During the downstroke, a swirling vortex stayed attached to the wing's leading edge and greatly increased lift. On a fixed wing, such a steep angle would simply cause a stall. Three years later, a team at Berkeley moved enlarged robotic fruit-fly wings through mineral oil, which recreates the flow conditions around small, fast wings.
Rotating the wing as it reverses, they found, and catching the wake it has just created also produce substantial force. Not every insect relies on the same trick. Honeybees, for instance, use unusually small, rapid strokes. Engineers now study insect flight to design tiny flapping drones.
200 words ・ CEFR B2
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1930年代のフランスの昆虫の飛行に関する本のどこかに、マルハナバチは飛べないはずだと示すかのような計算が載っていました。誰が計算したのかははっきりしませんが、この話はそれ以来広まってきました。その計算は、ハチの羽を、一定の角度でなめらかに動く飛行機の固い翼のように扱っていました。
実際の昆虫の羽は、まったくそんな動きはしません。1秒間に何百回も前後に振られ、ひと振りごとの終わりにひっくり返るのです。1996年、ケンブリッジの研究者たちは、実物よりずっと大きく作ったスズメガの羽ばたき模型のまわりに煙を流しました。
すると振り下ろしの間、うずまく渦が羽の前縁に張りついたままになり、揚力を大きく高めていました。固定翼なら、これほど急な角度では単に失速してしまいます。3年後、バークレーのチームは、拡大したショウジョウバエのロボットの羽をミネラルオイルの中で動かしました。油は、小さく速い羽のまわりの流れの条件を再現します。
その結果、切り返しのときに羽を回転させることや、直前に自分が作った後流をとらえることからも大きな力が生まれることがわかりました。すべての昆虫が同じ技に頼っているわけではありません。たとえばミツバチは、非常に小さな振り幅で速く羽ばたきます。今ではエンジニアが、小型の羽ばたきドローンを設計するために昆虫の飛行を研究しています。
4択リーディングクイズ
Q1. Which statement best summarizes the passage?
飛べない説は誤った前提にもとづくもので、実験が羽ばたきによる揚力の仕組みを明らかにした、という内容なので D。
Q2. Why did the 1999 team use mineral oil?
mineral oil, which recreates the flow conditions around small, fast wings とあるので C。
Q3. What does the author suggest about the mechanisms of insect flight?
Not every insect relies on the same trick. とあるので B。ミツバチは unusually small, rapid strokes なので C は誤り。
重要単語
- liftB1名詞揚力Wings produce lift by moving air downward.
動詞では「持ち上げる」。英国では「エレベーター」も lift。give ~ a lift「~を車に乗せてあげる」。 - aerodynamicsC1名詞空気力学The aerodynamics of insects differ from those of airplanes.
aero-(空気)+dynamics(力学)。形容詞 aerodynamic は「空気抵抗の少ない」の意味でも使う。 - vortexC1名詞渦A small vortex forms on the edge of the wing.
複数形は vortices または vortexes。whirlpool(渦潮)、tornado(竜巻)も渦の仲間。 - flapB2動詞羽ばたくBees flap their wings hundreds of times a second.
flap one's wings「羽ばたく」。名詞では「(封筒・ポケットの)ふた」。flutter は「パタパタ小刻みに羽ばたく」。 - misconceptionC1名詞誤解It is a common misconception that bees cannot fly.
mis-(誤って)+conception(考え)。It is a common misconception that ~ は英作文でも使える便利な型。 - assumptionB2名詞前提、仮定The calculation was based on a wrong assumption.
動詞 assume(仮定する・思い込む)。on the assumption that ~「~という前提で」。批判的思考の文章で頻出。
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「クマバチは航空力学的には飛べないのに、飛べると信じているから飛べる」という有名な話、実はウソ。ロボットの羽を油の中で動かす実験で、羽ばたきが作る渦や、羽の回転が揚力を生むことがわかった。
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出典・参考文献(4件)タップで表示
- Ellington, van den Berg, Willmott & Thomas (1996) Leading-edge vortices in insect flight, Naturedoi.org
- Dickinson, Lehmann & Sane (1999) Wing Rotation and the Aerodynamic Basis of Insect Flight, Sciencedoi.org
- Sane (2003) The aerodynamics of insect flight, Journal of Experimental Biologydoi.org
- Altshuler, Dickson, Vance, Roberts & Dickinson (2005) Short-amplitude high-frequency wing strokes determine the aerodynamics of honeybee flight, PNASdoi.org
※本記事は上記の研究・公開資料をもとに、原田英語が独自の言葉で解説したものです。引用は著作権法第32条の範囲で行い、出典を明記しています。画像はすべてオリジナルのイメージです。研究結果には限界や個人差があります。誤りのご指摘は原田英語のお問い合わせフォームから。








