英語で「I'm sad」と言っても脳は静まらない? 気持ちの言語化は“得意な母語”で効く

読む前に予想してみよう!
感情を言葉にすると落ち着く効果は、どの言語で言っても同じように起こる
151人のバイリンガルの脳を調べると、扁桃体の反応が下がったのは、ふだんよく使う母語でラベルをつけたときだけだった。
- 対象
- スペインのバイリンガル成人
- 規模
- 151人
- 研究の種類
- fMRI実験(言語を入れ替えて比較)
- 確かさ
- ★★★☆☆
感情に名前をつけると扁桃体の反応が下がる効果は、よく使う母語でだけ見られた。2言語を同じくらい使う人はどちらの言語でも下がらなかった。
ひとことで言うと気持ちを言葉にして落ち着く効果は、いちばん慣れた言葉でこそ効くみたい。
モヤモヤしたとき、「いま自分は悲しいんだ」と言葉にすると、少し落ち着く。これは感情ラベリングと呼ばれ、脳科学でも確かめられてきた方法です。
では、それを英語でやったらどうなるでしょう? 英語の日記に「I'm sad.」と書けば、同じように心は静まるのでしょうか。
2026年8月31日、スペイン・ジャウメ1世大学(Universitat Jaume I)を中心に、米ブラウン大学などが加わった研究チームが、米国科学アカデミー紀要『PNAS』で答えを出しました。151人のバイリンガルの脳を調べたところ、落ち着く効果が出たのは、ふだんよく使う母語だけだったのです。
01気持ちに名前をつけると、脳の警報が弱まる
感情ラベリングの研究で有名なのが、2007年にアメリカの研究チームが行ったfMRI(脳の活動を画像化する装置)の実験です。怒った顔や怖がる顔を見たときに、その感情に「怒り」と名前をつけると、不安や恐怖に関わる扁桃体の反応が弱まりました。
詳しくは過去記事 イライラは「言葉にする」だけで静まる で紹介しています。
ただ、これまでの実験の多くは母語で行われてきました。
022言語で同じ課題をやってもらった
結果ははっきりしていました。
- 片方の言語に偏って使う人:母語で感情に名前をつけたときだけ、扁桃体の活動が下がった。第二言語では下がらなかった
- 2言語を同じくらい使う人:どちらの言語でも扁桃体の活動は下がらなかった
学校で習った英語だけでなく、身近なカタルーニャ語でも同じパターンでした。

03「バランス型」は両方とも効かない、という意外な結果
いちばん驚きなのは、2言語を半々くらいで使う人で、どちらの言語でも効果が出なかったことです。
さらに、2言語の使い方がバランス型に近い人ほど、母語と第二言語の差も小さくなっていました。スペイン語-英語のグループで脳の領域どうしの連携を見ると、母語では扁桃体と前頭前野の一部(腹外側前頭前野)の連携が強まり、第二言語ではその関係が逆転していました。
研究チームは、感情の言葉をどれだけすばやく、実感をともなって思い出せるかが鍵ではないかと考えています。ただ、バランス型で効かない理由はまだはっきりせず、論文でも今後の課題とされています。
04英語学習者は、どう受け止めればいい?
「じゃあ英語で気持ちを書いても意味ないの?」と思うかもしれませんが、そう決めつけるのは早すぎます。
この研究が調べたのは、他人の表情に名前をつけたときの、扁桃体という一部分の反応です。英語で日記を書くことが英語力アップに役立つことや、気持ちを整理する別の効果まで否定しているわけではありません。
05まとめ
本当にしんどいときは、いちばん慣れた言葉で「つらい」と言ってみる。それが脳のブレーキを効かせるコツかもしれません。
そして英語の勉強は、続ければ続けるほど英語が「使い慣れた言葉」に近づいていきます。いつか英語の「I'm sad」でも心が静まる日が来るのか。それを確かめる研究は、まだこれからです。
この研究を英語で読もう原田英語の English CornerPutting your feelings into words, called affect labeling, can reduce activity in the amygdala, a part of…
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4択クイズ9問A2・B1・B2タップして開く
原田英語の English Corner
この研究を英語で読もう
When you feel sad, saying "I am sad" can help you feel calmer. Scientists in Spain studied 151 people who speak two languages. In a brain scanner, they looked at faces and chose words for the feelings.
A part of the brain called the amygdala became quieter, but only when people used the language they used most. It did not happen in their second language.
65 words ・ CEFR A2
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悲しいとき、「私は悲しい」と言うと、気持ちが落ち着くことがあります。スペインの科学者たちは、2つの言語を話す151人を調べました。脳スキャナーの中で、参加者は顔を見て、その気持ちを表す言葉を選びました。
扁桃体と呼ばれる脳の一部は静かになりましたが、それは一番よく使う言語を使ったときだけでした。第二言語では、それは起こりませんでした。
4択リーディングクイズ
Q1. What is the passage mainly about?
気持ちを言葉にして落ち着く効果が、使う言語によって違った、という話なので B。
Q2. How many people were studied?
Scientists in Spain studied 151 people とあるので A。
Q3. In this passage, "calmer" means ...
calm は「落ち着いた」。悲しいときに言葉にすると楽になる、という文脈なので C。
Putting your feelings into words, called affect labeling, can reduce activity in the amygdala, a part of the brain linked to fear and stress. But does it work in a second language? Researchers at Universitat Jaume I in Spain tested 151 bilingual young adults in a brain scanner.
Some spoke Spanish and English, and others spoke Spanish and Catalan. They looked at photos of faces and chose emotion words in each language. In people who mainly used one language, the amygdala calmed down only when they labeled emotions in their native language. But people who used both languages equally showed no calming effect in either language. The study was published in PNAS.
112 words ・ CEFR B1
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気持ちを言葉にすることは「感情ラベリング」と呼ばれ、恐怖やストレスに関わる脳の一部である扁桃体の活動を下げることがあります。では、それは第二言語でも効くのでしょうか。スペインのジャウメ1世大学の研究者たちは、2言語を話す若い成人151人を脳スキャナーで調べました。
スペイン語と英語を話す人もいれば、スペイン語とカタルーニャ語を話す人もいました。参加者は顔の写真を見て、それぞれの言語で感情の単語を選びました。主に1つの言語を使う人では、母語で感情に名前をつけたときだけ扁桃体が落ち着きました。一方、2つの言語を同じくらい使う人では、どちらの言語でも落ち着く効果は見られませんでした。この研究は『PNAS』に発表されました。
4択リーディングクイズ
Q1. What question did the researchers try to answer?
But does it work in a second language? が研究の問いなので D。
Q2. What happened in people who used both languages equally?
people who used both languages equally showed no calming effect in either language とあるので C。
Q3. What can we infer from the results?
よく使う母語でだけ効果が出て、使い方がバランス型の人では出なかったことから、言語の使い方が効果に関わると推測できる。正解は A。
Putting a feeling into words, a technique called affect labeling, is known to dampen activity in the amygdala, a brain region involved in detecting threat. Almost all of that evidence, though, comes from people using their native language. A team led by Universitat Jaume I in Spain, with collaborators including Brown University, scanned 151 bilinguals with fMRI.
Participants looked at emotional faces and chose either an emotion word or, as a control, a gender-appropriate name, in each of their two languages. For people who relied mainly on one language, amygdala activity dropped only when they labeled in their native tongue. This held for both Spanish-English and Spanish-Catalan speakers.
The design limits what these results can tell us. The study measured brain responses, not how calm anyone felt. Participants labeled other people's facial expressions instead of their own emotions. And all of them were young adults in Spain, so a learner who speaks English every day may respond differently.
Balanced bilinguals were the real surprise. They showed no reduction in either language, and the researchers have no clear account of why. Their best guess is that the effect depends on how quickly and vividly an emotion word comes to mind.
199 words ・ CEFR B2
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気持ちを言葉にすること、つまり感情ラベリングと呼ばれる方法は、脅威の検出に関わる脳の領域である扁桃体の活動を弱めることが知られています。しかし、その証拠のほとんどすべては、母語を使う人から得られたものです。スペインのジャウメ1世大学が率い、ブラウン大学などの共同研究者が加わったチームは、151人のバイリンガルの脳をfMRIで調べました。
参加者は感情を表す顔を見て、感情の単語、または比較用として性別に合う名前を、自分の2つの言語それぞれで選びました。主に1つの言語に頼る人では、母語でラベルをつけたときだけ扁桃体の活動が下がりました。これはスペイン語-英語話者とスペイン語-カタルーニャ語話者の両方に当てはまりました。
この結果からわかることは、研究の設計によって限られます。研究が測ったのは脳の反応であり、人がどれだけ落ち着いたと感じたかではありません。参加者がラベルをつけたのは、自分の感情ではなく他人の表情でした。そして全員がスペインの若い成人だったので、英語を毎日話す学習者は違う反応を示すかもしれません。
本当に意外だったのは、バランス型のバイリンガルです。彼らはどちらの言語でも低下を示さず、研究者たちもその理由をはっきり説明できていません。研究者たちの推測では、効果は感情の言葉がどれだけすばやく、実感をともなって思い浮かぶかによって決まるのではないかということです。
4択リーディングクイズ
Q1. What is the main finding of the study?
偏り型では母語だけで低下、バランス型ではどちらでも低下なし(They showed no reduction in either language)、という2つの結果をまとめた B が正解。
Q2. Why did participants sometimes choose a gender-appropriate name?
as a control(比較用の対照条件として)と書かれているので D。
Q3. Why should we be careful about applying the results to everyday English learners?
all of them were young adults in Spain, so a learner who speaks English every day may respond differently とあるので A。
重要単語
- amygdalaC1名詞扁桃体The amygdala reacts quickly to danger.
発音は /əˈmɪɡdələ/。ギリシャ語の「アーモンド」が語源で、形が似ていることから。 - bilingualB2形容詞・名詞2言語を話す(人)Many people in Canada are bilingual.
bi-(2つ)+lingual(言語の)。monolingual「1言語の」、multilingual「多言語の」。 - native languageB1名詞(句)母語Her native language is Spanish.
mother tongue、first language(L1)とも言う。second language は L2。 - labelB1動詞・名詞名前をつける/ラベルTry to label your feelings when you are upset.
発音は /ˈleɪbəl/(レイブル)。「ラベル」と読まないよう注意。 - dampenC1動詞弱める、抑えるThe bad news dampened our excitement.
damp(湿った)+-en。「湿らせて火の勢いを弱める」イメージ。 - threatB2名詞脅威The animal saw the dog as a threat.
発音は /θret/。動詞 threaten「おびやかす」、形容詞 threatening も頻出。 - vividlyB2副詞ありありと、鮮やかにI vividly remember my first day at school.
形容詞 vivid「鮮やかな」。vivid memory「鮮明な記憶」はよく出るコロケーション。
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「悲しい」と気持ちに名前をつけると、脳の扁桃体が落ち着く。でもスペインのバイリンガル151人を調べたら、その効果が出たのはよく使う母語だけ。英語で「I'm sad」と言っても、脳はあまり静まらないらしい。
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出典・参考文献(4件)タップで表示
- Davydova et al. (2026) Affect labeling down-regulates amygdala only in a dominant native language, PNASdoi.org
- Vives et al. (2021) Foreign Language Processing Undermines Affect Labeling, Affective Sciencedoi.org
- Lieberman et al. (2007) Putting Feelings Into Words, Psychological Sciencedoi.org
- Torre & Lieberman (2018) Putting Feelings Into Words: Affect Labeling as Implicit Emotion Regulation, Emotion Reviewdoi.org
※本記事は上記の研究・公開資料をもとに、原田英語が独自の言葉で解説したものです。引用は著作権法第32条の範囲で行い、出典を明記しています。画像はすべてオリジナルのイメージです。研究結果には限界や個人差があります。誤りのご指摘は原田英語のお問い合わせフォームから。






