地球・歴史・物理

雨の匂いの正体は「土の細菌」が作る物質だった。ペトリコールとゲオスミンの科学

雨の匂いの正体は「土の細菌」が作る物質だった。ペトリコールとゲオスミンの科学

読む前に予想してみよう!

雨の匂いは、雨水そのものの匂いである

研究カード(どんな研究?)
対象
土壌・多孔質の表面28種類
規模
約600回の実験
研究の種類
実験研究(高速度撮影)
確かさ
★★★☆☆
3秒でわかる

雨上がりの匂いの主役は、土の中の放線菌が作る「ゲオスミン」と、乾いた地面にたまった油。雨粒が土に当たった時にできる小さな泡がはじけて、匂いを空中へ運ぶ。

ひとことで言うと雨のにおいは、土の中の小さな菌が作る「土のかおり」だった!

もくじ
  1. 「ペトリコール」と名づけた科学者
  2. 土の匂いの主役「ゲオスミン」
  3. 雨粒が「匂いのシャンパン」を開けていた
  4. なぜ細菌は匂いを出す?
  5. まとめ

夕立のあと、ふわっと鼻をくすぐる「雨の匂い」。あれは雨水の匂いではありません。

答えを先に言うと、主役は土の中にいる細菌(放線菌)が作る「ゲオスミン」という物質と、晴れの日に地面にたまった植物由来の油です。雨粒が地面に当たった瞬間、それらが空中に打ち上げられて、私たちの鼻に届きます。

01「ペトリコール」と名づけた科学者

1964年、オーストラリアの研究機関CSIROのベア(Bear)さんとトーマス(Thomas)さんは、科学誌『Nature』に雨の匂いの研究を発表しました。乾いた岩や土を蒸留すると、黄色っぽい油が取れ、それが雨上がりのあの匂いを放っていたのです。

二人はこれをペトリコール(petrichor)と名づけました。ギリシャ語の「石(petra)」と、神話で神々の血管を流れる液体「イコル(ichor)」を組み合わせた、なかなかロマンチックな名前です。

02土の匂いの主役「ゲオスミン」

その少し後の1965年、アメリカのガーバー(Gerber)さんらが、土の中の放線菌(ストレプトマイセスなどの細菌)から「土くさい匂い」の物質を取り出し、ゲオスミン(geosmin=ギリシャ語で「大地の匂い」)と名づけました。

人間の鼻はゲオスミンにとても敏感で、ごく薄い濃度でも気づけることが知られています。じつは日本の水道の水質基準にもゲオスミンが入っています。水道水が「カビくさい」と感じるときの原因物質の一つだからです。

03雨粒が「匂いのシャンパン」を開けていた

でも、なぜ雨が降ると匂いが立つのでしょう?

まるでシャンパンの泡がはじけて香りが立つように、雨粒が土の匂い成分を空中へ運んでいる、と考えられています。土砂降りより、降り始めのしとしと雨のほうが匂うと感じるのも、これで説明できるかもしれません。

雨粒の中で泡がはじけ、土の香りが空中に打ち上げられる
雨粒の中で泡がはじけ、土の香りが空中に打ち上げられる

04なぜ細菌は匂いを出す?

細菌はなぜ、わざわざ匂いを作るのでしょう。2020年、スウェーデンとイギリスの研究チームが一つの答えを出しました。

ゲオスミンなどの匂いは、土にすむ小さな虫トビムシを引き寄せていたのです。トビムシは放線菌を食べに集まり、そのとき体にくっついた胞子を別の場所へ運んでいました。細菌にとって匂いは、「運び屋」を呼ぶための広告だったのかもしれません。

05まとめ

雨の匂いは、土の中の細菌が作るゲオスミンと、地面にたまった油が、雨粒の小さな泡で空中に運ばれたものでした。

次に夕立のあの匂いをかいだら、足元の土の中で、細菌と小さな虫と雨粒がくり広げている見えないドラマを思い出してみてください。

この研究を英語で読もう原田英語の English CornerThe pleasant smell after a summer shower is not the smell of rainwater, which has almost no odor. 音声 4択クイズ9問A2・B1・B2タップして開く

原田英語の English Corner

この研究を英語で読もう

The pleasant smell after a summer shower is not the smell of rainwater, which has almost no odor. In 1964, two Australian scientists collected a yellowish oil from dry rocks and soil and named the smell "petrichor," from Greek words for "stone" and the fluid in the veins of the gods. A year later, American researchers identified geosmin, an earthy-smelling chemical made by soil bacteria. Humans can notice it even at very low levels.

But how does the smell reach our noses? In 2015, researchers at MIT carried out about 600 experiments, filming water drops with a high-speed camera. When a drop hit the soil, tiny bubbles rose and burst, sending small particles into the air.

116 words ・ CEFR B1

和訳を見る

夏の夕立の後の心地よい匂いは、雨水の匂いではありません。雨水にはほとんど匂いがないのです。1964年、オーストラリアの2人の科学者が乾いた岩や土から黄色っぽい油を取り出し、その匂いを「ペトリコール」と名づけました。「石」と「神々の血管を流れる液体」を表すギリシャ語に由来します。その1年後、アメリカの研究者たちが、土の細菌が作る土くさい匂いの化学物質、ゲオスミンを特定しました。

人間はごく低い濃度でもそれに気づくことができます。では、匂いはどうやって鼻まで届くのでしょうか。2015年、MITの研究者たちは約600回の実験を行い、水滴を高速度カメラで撮影しました。水滴が土に当たると、小さな泡が上がってはじけ、細かい粒を空気中に送り出していたのです。

4択リーディングクイズ

Q1. What is the passage mainly about?

Q2. What did the scientists do in 1964?

Q3. What can we infer about rainwater from the passage?

重要単語

  • petrichorC1
    名詞雨上がりの土の匂いI love the petrichor after a summer shower. petra(石)+ichor(神々の血)。1964年に作られた比較的新しい語。
  • geosminC1
    名詞ゲオスミン(土の匂いのもとになる物質)Geosmin gives soil its earthy smell. geo-(大地)+osme(匂い)。geography, geology の geo- と同じ。
  • aerosolC1
    名詞空気中にただよう細かい粒Raindrops can release aerosols from the ground. aero-(空気)+sol(溶液)。感染症や気候の話題でも頻出。
  • bacteriaB1
    名詞細菌(bacterium の複数形)Soil bacteria make many kinds of chemicals. 単数は bacterium。data / datum と同じくラテン語由来の複数形。
  • sporeC1
    名詞胞子Insects can carry spores to new places. キノコ・シダ・カビなどが増えるための細胞。spread spores「胞子をまき散らす」。
  • odorB2
    名詞匂い(特に強い・不快な匂い)Rainwater itself has almost no odor. イギリス英語は odour。odorless は「無臭の」。smell より硬い語。

4コマでわかる

雨の匂いの正体は「土の細菌」が作る物質だった。ペトリコールとゲオスミンの科学の4コマ漫画
雨上がりの「あの匂い」、正体は土の中の細菌が作るゲオスミンという物質。MITの高速カメラ実験では、雨粒が土に当たった瞬間に小さな泡がはじけ、細かい粒(エアロゾル)を空中にまき散らしていたらしい。

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出典・参考文献(4件)タップで表示
  1. Bear & Thomas (1964) Nature of Argillaceous Odour, Naturedoi.org
  2. Gerber & Lechevalier (1965) Geosmin, an Earthy-Smelling Substance Isolated from Actinomycetes, Applied Microbiologydoi.org
  3. Joung & Buie (2015) Aerosol generation by raindrop impact on soil, Nature Communicationsdoi.org
  4. Becher et al. (2020) Developmentally regulated volatiles geosmin and 2-methylisoborneol attract a soil arthropod to Streptomyces bacteria promoting spore dispersal, Nature Microbiologydoi.org