ミイラ作りの「レシピ」が判明。古代エジプトの工房のつぼに、熱帯林由来の樹脂が入っていた

読む前に予想してみよう!
古代エジプトのミイラ作りに使われた材料は、すべてエジプト国内でとれるものだった
地中海沿岸の樹木の樹脂や、東南アジアなど熱帯林に由来するとみられる樹脂も見つかっている。
- 対象
- サッカラのミイラ工房の容器(第26王朝)
- 規模
- ラベル付き容器31点
- 研究の種類
- 残存有機物の化学分析(GC-MS)+文字資料
- 確かさ
- ★★★☆☆
サッカラのミイラ工房で見つかったラベル付きのつぼ31個を化学分析。地中海の松やにから遠い熱帯林の樹脂まで、世界中の材料を使った「防腐レシピ」が見えた。
ひとことで言うとミイラ作りには、遠い国から運んだ木のやになどが使われていた。
古代エジプトのミイラは、数千年たっても形をとどめています。その秘密はどこにあったのでしょう?
ギリシャの歴史家ヘロドトスなどが作り方を書き残していますが、実際にどんな材料を、どう組み合わせていたのかは、長いあいだはっきりしませんでした。
ところが2023年、ある「工房」から見つかったつぼの化学分析で、ミイラ作りの具体的なレシピが見えてきたのです。
01中身の名前が書かれた「つぼ」
舞台は、カイロの南にある遺跡サッカラ。2016年、ドイツ・テュービンゲン大学などのチームが、地下にあるミイラ作りの工房を発見しました。今から約2600〜2500年前、第26王朝の時代のものです。
工房には、たくさんの土器が残っていました。そのうち31個には、中身の名前や「頭に塗るもの」といった使い方が墨で書かれていたのです。
02「没薬」だと思われていた言葉の正体
古代エジプトの文書には「アンティウ」という材料がよく出てきます。これまでは、香りのよい樹脂「没薬(もつやく)」と訳されることが多い言葉でした。
ところがラベルに「アンティウ」と書かれたつぼの中身は、針葉樹の油やタールなどを混ぜたものでした。文字の記録と化学分析を組み合わせることで、古い言葉の意味が書き換えられたのです。

03遠い熱帯から運ばれた樹脂
いちばんの「マジか」は、材料の産地です。
使われていたものには、地中海沿岸のピスタチオ類の木の樹脂や針葉樹のやにのほか、「ダマール」や「エレミ」と呼ばれる樹脂が含まれていました。これらは東南アジアなどの熱帯林の木からとれるものと考えられています。
04ミイラ作りの始まりは、もっと古かった
ミイラ作りは王朝時代に急に生まれたわけではないようです。
ジョーンズらの国際チームは2014年、王朝が始まる前の時代(紀元前5千年紀〜4千年紀)の墓から見つかった亜麻布の包帯を分析しました。すると、松の樹脂、植物のエキス、植物のガム、天然の石油成分、油脂が見つかりました。後の時代と似た材料を、似た割合で混ぜていたのです。
2018年には、イタリア・トリノの博物館にある先王朝時代のミイラでも、似た「防腐レシピ」の証拠が報告されました。
05どんでん返し:1つの工房=エジプト全体ではない
ただし、サッカラの結果は1つの時代の1つの工房のものです。ミイラ作りの方法は、時代や地域、そして依頼主の身分や予算によっても違ったと考えられます。
また、熱帯の樹脂の正確な産地は、まだ化学的な特徴から推定している段階です。
06まとめ
- サッカラのミイラ工房から、中身の名前が書かれたつぼ31個が見つかった
- 化学分析で、油・タール・樹脂などを部位ごとに調合したレシピが判明
- 東南アジアなど熱帯林由来とみられる樹脂も使われ、長距離交易が背景にあった
- ミイラ作りの化学的な工夫は、王朝時代よりずっと前から始まっていた
ミイラは「怖いもの」ではなく、古代の化学と世界貿易が詰まったタイムカプセルなのです。
この研究を英語で読もう原田英語の English CornerAncient Egyptian mummies have kept their shape for thousands of years, but the exact ingredients used to…
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4択クイズ9問A2・B1・B2タップして開く
原田英語の English Corner
この研究を英語で読もう
Ancient Egyptians made mummies, and some of them still exist today. But how did they do it? In 2016, scientists found an old mummy workshop at Saqqara in Egypt. It had 31 pots with names and uses written on them.
Scientists tested what was left inside. They found oils, tar and tree resins. Some resins came from trees in faraway tropical forests, such as Southeast Asia.
66 words ・ CEFR A2
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古代エジプト人はミイラを作り、その一部は今日も残っています。しかし、どうやって作ったのでしょうか。2016年、科学者たちはエジプトのサッカラで古いミイラ作りの工房を見つけました。そこには、名前や使い方が書かれたつぼが31個ありました。
科学者たちは中に残ったものを調べました。彼らは油、タール、木の樹脂を見つけました。樹脂の中には、東南アジアのような遠くの熱帯林の木からとれたものもありました。
4択リーディングクイズ
Q1. What is the passage mainly about?
ミイラ作りの工房のつぼから材料が判明した話なので B。
Q2. What was written on the 31 pots?
31 pots with names and uses written on them とあるので A。
Q3. In this passage, "faraway" means ...
faraway は far(遠い)+away で「遠く離れた」。熱帯林がエジプトから遠いという意味なので D。
Ancient Egyptian mummies have kept their shape for thousands of years, but the exact ingredients used to preserve them were long unclear. In 2016, a team from the University of Tübingen discovered an underground embalming workshop at Saqqara, dating from about 2,600 to 2,500 years ago. Among the pottery found there, 31 vessels had labels describing their contents or how to use them, such as "to put on the head."
Researchers including Rageot analyzed the residues inside. They found that oils, tars and resins were mixed in different ways for different parts of the body. Some resins, called dammar and elemi, probably came from tropical forests in places like Southeast Asia. So the embalmers depended on long-distance trade.
118 words ・ CEFR B1
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古代エジプトのミイラは何千年も形を保っていますが、保存に使われた正確な材料は長い間はっきりしませんでした。2016年、テュービンゲン大学のチームが、サッカラで約2600〜2500年前の地下のミイラ工房を発見しました。そこで見つかった土器のうち31個には、中身や、「頭に塗るもの」といった使い方を説明するラベルがついていました。
ラジョを含む研究者たちは、その中の残留物を分析しました。その結果、油、タール、樹脂が、体の部位ごとに違う方法で混ぜられていたことがわかりました。ダマールやエレミと呼ばれる一部の樹脂は、おそらく東南アジアのような地域の熱帯林から来たものです。つまり、ミイラ職人たちは長距離交易に頼っていたのです。
4択リーディングクイズ
Q1. What made the 31 vessels especially useful for research?
31 vessels had labels describing their contents or how to use them とあるので C。中身の名前と化学分析を照らし合わせられた。
Q2. What did the analysis show about the ingredients?
mixed in different ways for different parts of the body とあるので D。
Q3. What can we infer about ancient Egyptian embalmers?
熱帯林由来の樹脂を使い、the embalmers depended on long-distance trade とあることから、遠方の材料を入手できたと推測できる。正解は A。
Herodotus and other ancient authors described mummification, but the precise substances embalmers used were uncertain until recently. In 2016, a team from the University of Tübingen uncovered an underground embalming workshop at Saqqara from the Twenty-sixth Dynasty, about 2,600 to 2,500 years ago. Thirty-one of its vessels carried ink labels naming their contents or their purpose, so the chemistry could be matched with words. Rageot and colleagues analyzed the residues with gas chromatography-mass spectrometry.
In 2023 they reported that oils, tars and resins had been blended into specific mixtures for particular body parts. The study also challenged a long-standing translation. The word "antiu", usually rendered as myrrh, labeled a mixture containing conifer oil and tar. Some ingredients, including dammar and elemi resins, probably came from tropical forests such as those of Southeast Asia, so the embalmers depended on wide trade networks.
But the workshop is a single site from one period, practices may have varied with region and budget, and the tropical origins are inferred from chemical markers. The recipes did not appear overnight. Jones and colleagues had earlier found pine resin, plant extracts and oils on linen wrappings from burials thousands of years before the pharaohs.
197 words ・ CEFR B2
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ヘロドトスなどの古代の著述家がミイラ作りについて記していましたが、職人たちが使った正確な物質は最近まで不確かでした。2016年、テュービンゲン大学のチームが、サッカラで第26王朝時代、約2600〜2500年前の地下のミイラ工房を発掘しました。その容器のうち31個には中身や用途を記した墨のラベルがあり、中の化学成分を言葉と照らし合わせることができました。ラジョらはガスクロマトグラフィー質量分析で残留物を分析し、2023年、油・タール・樹脂が特定の部位用の決まった調合に混ぜられていたと報告しました。
この研究は、長年の翻訳にも疑問を投げかけました。ふつう没薬と訳されてきた「アンティウ」という語は、針葉樹の油とタールを含む混合物に貼られていたのです。ダマールやエレミの樹脂を含む一部の材料は、おそらく東南アジアなどの熱帯林から来たもので、職人たちは広い交易網に頼っていたことになります。
ただし、この工房は1つの時代の1か所にすぎず、方法は地域や予算によって違った可能性があり、熱帯の産地も化学的な指標から推定されたものです。こうした調合は一夜にして生まれたわけではありません。ジョーンズらは以前、ファラオの時代より何千年も前の埋葬に使われた亜麻布の包帯から、松の樹脂や植物のエキス、油を見つけていました。
4択リーディングクイズ
Q1. Which of the following best expresses the main idea?
ラベル付きのつぼと化学分析で調合レシピと長距離交易が見えたことが中心なので B。
Q2. What did the study reveal about the word "antiu"?
The word "antiu", usually rendered as myrrh, labeled a mixture containing conifer oil and tar. とあるので C。
Q3. Why does the author warn against generalizing from Saqqara?
the workshop is a single site from one period とあり、地域や予算でも方法が違った可能性があるので D。
重要単語
- embalmC1動詞(遺体に)防腐処理をするAncient Egyptians embalmed the bodies of the dead.
em-(中に)+balm(香油・バルサム)。l は発音しない /ɪmˈbɑːm/。 - resinC1名詞樹脂・やにTree resin helped to protect the body.
天然樹脂のほか、synthetic resin(合成樹脂)としてプラスチック素材の意味でも使う。 - workshopB1名詞工房・作業場Archaeologists found an embalming workshop.
「研修会・参加型講座」の意味もよく使われる。 - residueC1名詞残留物Chemical residues were left inside the jars.
reside(残る・住む)の仲間。pesticide residue「残留農薬」。 - trade networkB2名詞(句)交易網The ingredients reveal a wide trade network.
trade route(交易路)とセットで歴史系長文に頻出。 - preserveB1動詞保存するResin and oil helped preserve the body.
pre-(前もって)+serve(守る)。preservative は「保存料」。
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古代エジプトのミイラ工房から、中身の名前が書かれたつぼが見つかった。化学分析したら、遠い熱帯林でとれる樹脂まで入っていたらしい。ミイラ作りは、2500年前の「世界貿易」に支えられていた。
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出典・参考文献(3件)タップで表示
- Rageot et al. (2023) Biomolecular analyses enable new insights into ancient Egyptian embalming, Naturedoi.org
- Jones et al. (2014) Evidence for Prehistoric Origins of Egyptian Mummification in Late Neolithic Burials, PLoS ONEdoi.org
- Jones et al. (2018) A prehistoric Egyptian mummy: Evidence for an 'embalming recipe' and the evolution of early formative funerary treatments, Journal of Archaeological Sciencedoi.org
※本記事は上記の研究・公開資料をもとに、原田英語が独自の言葉で解説したものです。引用は著作権法第32条の範囲で行い、出典を明記しています。画像はすべてオリジナルのイメージです。研究結果には限界や個人差があります。誤りのご指摘は原田英語のお問い合わせフォームから。











