脳と心理ホント

くすぐったい理由は「予測できないから」だった。自分でくすぐっても平気なのは脳の先読みのせい

くすぐったい理由は「予測できないから」だった。自分でくすぐっても平気なのは脳の先読みのせい

読む前に予想してみよう!

自分の手の動きでロボットにくすぐらせても、動きが少し遅れて伝わると、くすぐったく感じやすくなる

研究カード(どんな研究?)
対象
健康な成人・患者さん
規模
小規模の実験を複数
研究の種類
実験研究・fMRI
確かさ
★★★★☆
3秒でわかる

自分でくすぐっても平気なのは、脳(特に小脳)が自分の動きから「どこにどんな感触が来るか」を先読みし、感覚を弱めているから。予測がずれるとくすぐったさが戻る。

ひとことで言うと自分の手の動きは脳がよんでいるから、自分でくすぐってもくすぐったくない!

もくじ
  1. くすぐったい理由は「予測できないこと」
  2. ロボットで「ずらす」と、くすぐったさが復活
  3. 自分の触った感触が弱まらない人もいる?
  4. どんでん返し:「予測は感覚を弱める」は本当か論争中
  5. まとめ

友だちに脇腹をつつかれると笑い転げるのに、自分で同じ場所をくすぐっても何も起きない。試してみた人も多いはずです。

結論から言うと、くすぐったさを感じない理由は脳が「自分の動きで、どこに、いつ、どんな感触が来るか」を先読みして、その感覚を弱めているからです。くすぐったさは、触れ方が予測からずれるほど強くなると考えられています。脳の中でこの先読みを担う重要な場所として、小脳が注目されています。

01くすぐったい理由は「予測できないこと」

くすぐりの研究は意外と古く、1971年には英国の研究者が科学誌 Nature に「自分をくすぐる」装置を使った観察を報告しています。

本格的に脳のしくみを調べたのが、英ロンドン大学(UCL)のサラ=ジェーン・ブレイクモアらです。

脳は、手を動かす命令を出すと同時に、その「コピー」を使って「この動きなら、手のひらのこのあたりに、こんな感触が来るはず」と予測します。予測どおりの感触が来ると、「これは自分のせいだから気にしなくていい」と感覚の音量を下げてしまうのです。

02ロボットで「ずらす」と、くすぐったさが復活

では、予測を外せば自分でもくすぐれるのでしょうか。ブレイクモアらは1999年、ロボットを使ってこれを確かめました。

参加者は左手でロボットのレバーを動かし、その動きが別のロボットを通じて右手のひらをなでます。研究者は、その間に時間の遅れを入れたり、なでる方向を回転させたりしました。

自分の動きと感触のあいだに「ずれ」を入れると、くすぐったさが戻ってきた
自分の動きと感触のあいだに「ずれ」を入れると、くすぐったさが戻ってきた

結果ははっきりしていました。遅れが大きいほど、方向のずれが大きいほど、くすぐったさの評価は上がったのです。自分で動かしているのに、予測とずれた感触は「他人の手」のように感じられたわけです。

つまり、くすぐったさを決めているのは「誰の手か」ではなく、脳の予測と実際の感触のずれだと考えられます。

03自分の触った感触が弱まらない人もいる?

さらにマジか!?な報告もあります。ブレイクモアらが2000年に Psychological Medicine 誌で報告した研究では、幻聴や「自分の行動が誰かに操られている」と感じる体験のある患者さんでは、自分で触った感触が、他人に触られたときと同じくらい強く感じられていました。

自分の動きによる感覚を「自分のもの」と見分けるしくみがうまく働いていない可能性があり、こうした症状を理解する手がかりとして研究が続いています。

04どんでん返し:「予測は感覚を弱める」は本当か論争中

ただし、話はここで終わりません。2022年、英国などの研究チームは Psychological Science 誌で「予測された感触は、むしろ強く感じられる」という結果を報告し、定説に疑問を投げかけました。

これに対し、オランダの研究チームは2023年に eLife 誌で、事前に計画を登録した3つの実験から「強まって見えたのは比べる基準の条件のせいで、自分の動きによる感触はやはり弱まる」と反論しています。

「予測が感覚を弱める」の基本は多くの実験で支持されていますが、どんな条件でどこまで弱まるのかは、今もホットな論争中です。

05まとめ

自分でくすぐってもくすぐったくないのは、脳が自分の動きを先読みして、感触の音量を下げているから。くすぐったさは「予測とずれた感触」への反応と考えられるのです。

誰かにくすぐられて笑ってしまうのは、あなたの脳が「次にどこを触られるか」を読み切れていないからだと考えられます。ちょっと悔しいけれど、脳が自分の動きと外からの刺激をちゃんと区別している、ということでもあります。

この研究を英語で読もう原田英語の English CornerMost people cannot tickle themselves, and scientists think the brain is the reason. 音声 4択クイズ9問A2・B1・B2タップして開く

原田英語の English Corner

この研究を英語で読もう

Most people cannot tickle themselves, and scientists think the brain is the reason. When we move, the brain sends a command to our muscles and also uses a copy of it to predict the touch that the movement will cause. If the real touch matches the prediction, the brain turns the feeling down.

In a 1998 study, a brain area that processes touch was more active when the touch came from outside than when people touched themselves. In 1999, researchers used robots to add a delay or change the direction of a self-made touch. The bigger the difference from the prediction, the more ticklish the touch felt.

107 words ・ CEFR B1

和訳を見る

ほとんどの人は自分をくすぐることができず、科学者はその理由が脳にあると考えています。私たちが体を動かすとき、脳は筋肉に命令を送ると同時に、その命令のコピーを使って、動きによって生じる感触を予測します。実際の感触が予測と一致すると、脳はその感覚を弱めます。

1998年の研究では、触覚を処理する脳の領域が、自分で触ったときよりも外から触られたときのほうが活発に働きました。1999年には、研究者たちがロボットを使い、自分で生み出した感触に遅れを加えたり、方向を変えたりしました。予測とのずれが大きいほど、その感触はくすぐったく感じられました。

4択リーディングクイズ

Q1. What is the main idea of the passage?

Q2. What did the 1998 study find?

Q3. If a robot adds a long delay to your own touch, what will probably happen?

重要単語

  • tickleB1
    動詞・名詞くすぐる/くすぐりIt is hard to tickle yourself. 形容詞は ticklish(くすぐったがりの)。「(問題が)扱いにくい」という意味の ticklish もある。
  • predictB1
    動詞予測するThe brain predicts what will happen next. pre-(前に)+dict(言う)。名詞は prediction。dictionary, contradict も dict(言う)の仲間。
  • sensationB2
    名詞感覚The sensation was weaker than I expected. sense(感覚)の名詞形。「大評判・センセーション」の意味もある。形容詞 sensational。
  • cerebellumC1
    名詞小脳The cerebellum helps us move smoothly. ラテン語で「小さな脳」。大脳は cerebrum。発音は /ˌserəˈbeləm/(セラベラム)。
  • attenuateC1
    動詞弱めるYour brain attenuates the feeling of your own touch. ラテン語 tenuis(薄い)から。weaken の硬い言い方で論文に多い。名詞は attenuation。
  • delayB1
    名詞・動詞遅れ/遅らせるA short delay made the touch feel ticklish. without delay「遅れずに・すぐに」は入試の定番イディオム。be delayed「(電車などが)遅れる」。

4コマでわかる

くすぐったい理由は「予測できないから」だった。自分でくすぐっても平気なのは脳の先読みのせいの4コマ漫画
自分で自分をくすぐってもくすぐったくないのは、脳が「次にどこを触るか」を先読みして感覚を弱めているかららしい。ロボットで自分の手の動きを少し遅らせると、くすぐったさが戻ってきた。

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出典・参考文献(5件)タップで表示
  1. Blakemore, Wolpert & Frith (1998) Central cancellation of self-produced tickle sensation, Nature Neurosciencedoi.org
  2. Blakemore, Frith & Wolpert (1999) Spatio-temporal prediction modulates the perception of self-produced stimuli, Journal of Cognitive Neurosciencedoi.org
  3. Blakemore et al. (2000) The perception of self-produced sensory stimuli in patients with auditory hallucinations and passivity experiences, Psychological Medicinedoi.org
  4. Thomas, Yon, de Lange & Press (2022) Action Enhances Predicted Touch, Psychological Sciencedoi.org
  5. Job & Kilteni (2023) Action does not enhance but attenuates predicted touch, eLifedoi.org