脳と心理ビミョー

スマホの通知が気になって仕方ないのは、脳に眠る「ガチャ回路」のせいかもしれない

スマホの通知が気になって仕方ないのは、脳に眠る「ガチャ回路」のせいかもしれない

読む前に予想してみよう!

通知の音が鳴っただけで、スマホを見なくても作業のミスが増えることがある

研究カード(どんな研究?)
対象
サル(ドーパミン研究)・大学生(通知の実験)
規模
動物は数匹、人は1実験あたり数十〜数百人
研究の種類
動物の神経記録+人の実験・追試
確かさ
★★☆☆☆
3秒でわかる

「何が来るか分からない」報酬に脳のドーパミン系は強く反応する。通知はまさにその構造。ただし「ドーパミン中毒」は言い過ぎな面も。

ひとことで言うと何が届くかわからないワクワクが、スマホを見たくさせる!

もくじ
  1. ドーパミンは「快感物質」ではなく「予想外センサー」
  2. 「当たるか分からない」が一番クセになる
  3. 鳴っただけで、集中力は削られる
  4. 「ドーパミン中毒」は言い過ぎ?
  5. まとめ

「ピロン♪」。その音が聞こえた瞬間、手が勝手にスマホへ伸びる。中身はたいてい、どうでもいいお知らせなのに。

これ、意志が弱いせいだけではなさそうです。脳にもともと備わっている「当たるか分からないごほうび」に弱い仕組みが、通知とガッチリかみ合っているのかもしれません。

カギになるのは、やる気や学習に関わる脳内物質ドーパミン。ただし「スマホでドーパミンがドバドバ出て中毒になる」という話は、半分くらい言い過ぎ。順番に見ていきましょう。

01ドーパミンは「快感物質」ではなく「予想外センサー」

よく「ドーパミン=気持ちよくなる物質」と言われますが、研究者の見方はちょっと違います。

つまりドーパミン細胞は、「思ってたより良かった!」という予想とのズレを知らせる係。専門用語で「報酬予測誤差」と言います。かみ砕くと「おっ、得したぞ」センサーです。

02「当たるか分からない」が一番クセになる

さらに面白い研究があります。これもサルの実験ですが、ごほうびが出るか出ないか五分五分のとき、合図からごほうびまでの待ち時間に、ドーパミン細胞の活動がじわじわ高まっていくことが見つかったのです(Science, 2003)。確率が0%や100%に近いときより、いちばん不確かな50%のときにこの高まりが最大でした。

「もしかしたら…」のドキドキが、脳にとっては特別な状態というわけです。ただし、これはサルの脳の神経細胞の記録で、人がスマホを見るときに同じことが起きているかを直接確かめたものではありません。

スマホの通知は、構造としてはまさにこれ。開けるまで、それが好きな人からのメッセージなのか、ただの広告なのか分からない。くじ引きやガチャと同じ構造が、1日に何十回も回っているんです。

通知は「中身の分からないくじ引き」。脳はこれに弱い
通知は「中身の分からないくじ引き」。脳はこれに弱い

03鳴っただけで、集中力は削られる

通知は「見るかどうか」だけの問題ではありません。

米フロリダ州立大のストザートらは、集中力が必要な課題の最中に、参加者のスマホへ通知を送りました(Journal of Experimental Psychology: Human Perception and Performance, 2015)。すると、スマホを手に取らなかった人でもミスが増え、その影響は、実際に電話やメッセージをしたときに近い大きさでした。

「誰からだろう?」と頭の片隅で考え始めた瞬間、注意の一部がもう持っていかれている、というわけです。

04「ドーパミン中毒」は言い過ぎ?

ここで冷静に。ドーパミンの研究は主に動物や実験室で行われたもので、「スマホを見ると脳内で薬物並みにドーパミンが出る」と直接測った研究があるわけではありません。

スマホの使いすぎに悩む人がいるのは事実ですが、それを「依存症」と同じものとして扱うべきかは、専門家の間でも議論が続いています。仕組みとしては似ている、でも同じとは限らない――これが今の正直な答えです。

05まとめ

通知が気になるのは、あなたの脳が「予想外のごほうび」に強く反応するしくみを持っているからかもしれません。その仕組み自体は、生き延びるために大切なものです。

ただ、ポケットの中のくじ引きに1日を振り回されないように。ガチャを回すタイミングは、自分で決めましょう。

この研究を英語で読もう原田英語の English CornerWhy is it so hard to ignore a phone notification? 音声 4択クイズ9問A2・B1・B2タップして開く

原田英語の English Corner

この研究を英語で読もう

Why is it so hard to ignore a phone notification? One reason may be dopamine. In experiments with monkeys, dopamine neurons fired strongly when a juice reward came unexpectedly, but they reacted less when the reward was predictable. In another monkey study, these neurons were most active when the chance of a reward was 50%.

Phone notifications work in a similar way, because we never know whether the next one will be exciting or boring. In a 2015 study, people doing a task made more mistakes after receiving a notification, even if they did not touch their phones. However, no study has directly shown that checking a phone releases huge amounts of dopamine.

113 words ・ CEFR B1

和訳を見る

スマホの通知を無視するのは、なぜこんなに難しいのでしょうか。理由の一つはドーパミンかもしれません。サルを使った実験では、ジュースのごほうびが予想外にもらえると、ドーパミン神経細胞が強く反応しましたが、ごほうびが予測できると反応は小さくなりました。別のサルの研究では、これらの神経細胞は、ごほうびがもらえる確率が50%のときに最も活発でした。スマホの通知も似た仕組みで働きます。

次の通知がワクワクするものか退屈なものか、決してわからないからです。2015年の研究では、課題をしている人は、スマホに触れなくても、通知を受け取った後にミスが増えました。しかし、スマホを見ると大量のドーパミンが放出されることを直接示した研究はありません。

4択リーディングクイズ

Q1. What is the main idea of the passage?

Q2. When were the dopamine neurons most active in the second monkey study?

Q3. What does the 2015 study suggest?

重要単語

  • notificationB2
    名詞通知I turned off notifications while studying. 動詞 notify(知らせる)。notify A of B「AにBを知らせる」の語法が入試で出る。
  • reward prediction errorC1
    名詞(句)報酬予測誤差Dopamine neurons signal reward prediction errors. 「予想より良かった・悪かった」のズレ。prediction は predict(予測する)の名詞形。
  • uncertaintyB2
    名詞不確実性Uncertainty can make rewards more exciting. uncertain(不確かな)の名詞形。economic uncertainty「経済の先行き不透明感」もニュース頻出。
  • addictionB2
    名詞依存症、中毒Experts debate whether heavy phone use is an addiction. be addicted to ~「~の中毒になっている」。to の後は名詞・動名詞。
  • attentionA2
    名詞注意Even a short sound can steal your attention. pay attention to ~「~に注意を払う」、attention span「集中力の持続時間」。
  • nuancedC1
    形容詞微妙な違いを含んだ、単純でないThe science of dopamine is more nuanced than headlines suggest. nuance(ニュアンス)の形容詞形。a nuanced view「単純化しない見方」。
スマホの通知が気になって仕方ないのは、脳が「当たるか分からないごほうび」に弱いからかも。ガチャやくじ引きと同じ仕組みが、ポケットの中で毎日回ってる。

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出典・参考文献(5件)タップで表示
  1. Schultz, Dayan & Montague (1997) A neural substrate of prediction and reward, Sciencedoi.org
  2. Fiorillo, Tobler & Schultz (2003) Discrete coding of reward probability and uncertainty by dopamine neurons, Sciencedoi.org
  3. Stothart, Mitchum & Yehnert (2015) The attentional cost of receiving a cell phone notification, Journal of Experimental Psychology: Human Perception and Performancedoi.org
  4. Ward et al. (2017) Brain drain: the mere presence of one's own smartphone reduces available cognitive capacity, Journal of the Association for Consumer Researchdoi.org
  5. Ruiz Pardo & Minda (2022) Reexamining the "brain drain" effect: a replication of Ward et al. (2017), Acta Psychologicadoi.org