脳と心理ビミョー

腸には数億個の神経細胞がある。脳から切り離しても動き続ける「第二の脳」の正体

腸には数億個の神経細胞がある。脳から切り離しても動き続ける「第二の脳」の正体

読む前に予想してみよう!

腸で作られたセロトニンが血液にのって脳に届き、気分を直接明るくしている

研究カード(どんな研究?)
対象
動物・ヒトの消化管の研究
規模
多数の研究
研究の種類
生理学実験・総説
確かさ
★★★★☆
3秒でわかる

腸の壁には数億個の神経細胞が網のように広がり、脳の命令なしで消化の動きを操る。ただ「腸が考える」「腸で幸せホルモン」は言い過ぎ。

ひとことで言うとおなかには自分だけで動ける神経のネットワークがあるんだ!

もくじ
  1. 腸の壁に張りめぐらされた「神経の網」
  2. 脳からの線を切っても、腸は動いた
  3. 腸の神経がないと、どうなる?
  4. でも「腸が考える」は言い過ぎ
  5. まとめ

「腸は第二の脳」——健康番組などで、一度は聞いたことがあるかもしれません。

ちょっと大げさなキャッチコピーに聞こえますが、実はちゃんとした根拠があります。腸の壁の中には、数億個もの神経細胞が網の目のように広がっているのです。これは、脊髄の神経細胞の数に匹敵するともいわれます。

01腸の壁に張りめぐらされた「神経の網」

この神経のネットワークを腸管神経系(ちょうかんしんけいけい)と呼びます。食道から肛門まで、消化管の壁の層のあいだに網のように広がり、

  • 食べ物を先へ送るぜん動運動のリズム
  • 消化液や水分の出し入れ
  • 腸の血流の調整

などを、現場でコントロールしています。

2020年の総説は、消化管を「独立した自前の神経系を進化させた、唯一の内臓」と表現しています。

02脳からの線を切っても、腸は動いた

この反射は「腸の法則」とも呼ばれ、その後、体から取り出した腸の一部でも、中に液体を入れるとぜん動運動が起きることが確かめられていきました。腸は、脳の命令がなくても自分で動けるのです。

後ろを縮めて、前をゆるめる。腸の神経が自分で作るリズム
後ろを縮めて、前をゆるめる。腸の神経が自分で作るリズム

03腸の神経がないと、どうなる?

腸管神経系の大切さがよくわかるのが、ヒルシュスプルング病という生まれつきの病気です。大腸の一部に腸管神経系の神経細胞ができないため、その部分で中身を送り出せず、重い便秘や腸閉塞を起こします。

脳はちゃんと働いていても、腸の神経がなければ腸は動けないのです。

04でも「腸が考える」は言い過ぎ

ここからが、どんでん返しです。

① 腸は"考えて"はいない腸管神経系は、消化の動きを自動で調整する、とても賢い反射のネットワークです。でも、計画したり悩んだりする「思考」をしているわけではありません。

② 「腸で作る幸せホルモン」の誤解体の中のセロトニンの大部分は腸で作られる、というのは本当です。でも、腸のセロトニンは血液脳関門という"関所"をほとんど通れず、脳には直接届きません。脳のセロトニンは、脳の中で作られています。

③ ただし、腸と脳は"通話中"腸と脳は迷走神経などでつながり、たくさんの情報をやりとりしています。迷走神経の線維の多くは、腸から脳へ向かう感覚の線です。

05まとめ

腸には数億個の神経細胞がいて、脳からの指令がなくても、食べ物を運ぶ動きを自分で作り出しています。その意味で「第二の脳」は、半分ホント。

でも、腸が考えたり、腸のセロトニンが直接気分を変えたりするわけではありません。おなかの中の"もう一つの司令塔"、今日はちょっとねぎらってあげてください。

この研究を英語で読もう原田英語の English CornerThe phrase "the gut is our second brain" sounds like an exaggeration, but it has a scientific basis. 音声 4択クイズ9問A2・B1・B2タップして開く

原田英語の English Corner

この研究を英語で読もう

The phrase "the gut is our second brain" sounds like an exaggeration, but it has a scientific basis. The gut wall contains hundreds of millions of neurons, which form the enteric nervous system. This network controls the waves that push food along, the release of digestive fluids, and blood flow. In 1899, two British scientists showed that when part of a dog's intestine was stimulated, the section above it tightened and the section below it relaxed, even after the nerves from the brain were cut.

However, the gut does not think. Also, although most of the body's serotonin is made in the gut, it can hardly pass into the brain. The gut and brain do communicate, mainly through the vagus nerve.

121 words ・ CEFR B1

和訳を見る

「腸は第二の脳」という言葉は誇張のように聞こえますが、科学的な根拠があります。腸の壁には数億個の神経細胞があり、それが腸管神経系を作っています。このネットワークは、食べ物を先へ押し出す波のような動きや、消化液の分泌、血流を制御しています。1899年、イギリスの2人の科学者は、イヌの腸の一部を刺激すると、脳からの神経を切った後でも、その上側の部分が縮み、下側の部分がゆるむことを示しました。

しかし、腸は考えるわけではありません。また、体のセロトニンの大部分は腸で作られますが、それが脳に入ることはほとんどできません。腸と脳は、主に迷走神経を通じて実際に情報をやりとりしています。

4択リーディングクイズ

Q1. What does the enteric nervous system control?

Q2. What is true about serotonin made in the gut?

Q3. What is the writer's overall view of the phrase "second brain"?

重要単語

  • entericC1
    形容詞腸のThe enteric nervous system lives in the gut wall. ギリシャ語 enteron(腸)から。enteric nervous system(腸管神経系)で覚える。
  • peristalsisC1
    名詞ぜん動運動Peristalsis pushes food through the intestine. peri-(周りを)+stalsis(締めつけ)。腸が輪状に締まって中身を送るイメージ。
  • intestineB2
    名詞腸The small intestine absorbs nutrients. small intestine(小腸)/large intestine(大腸)。口語では gut、bowel。
  • reflexB2
    名詞反射A reflex happens without conscious thought. re-(戻る)+flex(曲げる)。have quick reflexes「反射神経がよい」。
  • vagus nerveC1
    名詞(句)迷走神経The vagus nerve links the brain and the gut. vagus はラテン語で「さまよう」。体内を広く巡るためこの名。vague(あいまいな)と同語源。
  • exaggerationB2
    名詞誇張Calling the gut a thinking organ is an exaggeration. 動詞 exaggerate。It is no exaggeration to say that ~「~と言っても過言ではない」は英作文の定番。

4コマでわかる

腸には数億個の神経細胞がある。脳から切り離しても動き続ける「第二の脳」の正体の4コマ漫画
腸の壁には数億個の神経細胞がネットワークを作っていて、脳とつながる神経を切っても、食べ物を先へ送る動きを続けられるらしい。体の中で「自前の神経系」を持つ臓器は腸だけ。ただし「腸が考えている」はさすがに言い過ぎ。

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出典・参考文献(4件)タップで表示
  1. Bayliss & Starling (1899) The movements and innervation of the small intestine, The Journal of Physiologydoi.org
  2. Furness (2012) The enteric nervous system and neurogastroenterology, Nature Reviews Gastroenterology & Hepatologydoi.org
  3. Furness et al. (2014) The enteric nervous system and gastrointestinal innervation: integrated local and central control, Advances in Experimental Medicine and Biologydoi.org
  4. Spencer & Hu (2020) Enteric nervous system: sensory transduction, neural circuits and gastrointestinal motility, Nature Reviews Gastroenterology & Hepatologydoi.org