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わさびの「ツーン」が鼻に来て、すぐ消えるのはなぜ? 唐辛子とは別の“痛みセンサー”TRPA1の話

わさびの「ツーン」が鼻に来て、すぐ消えるのはなぜ? 唐辛子とは別の“痛みセンサー”TRPA1の話

読む前に予想してみよう!

わさびと唐辛子の辛さは、同じセンサーで感じている

研究カード(どんな研究?)
対象
培養細胞・マウスの神経
規模
基礎研究
研究の種類
分子生物学・電気生理学の実験
確かさ
★★★★☆
3秒でわかる

わさびの辛味成分は空気中に飛びやすく、鼻の奥の痛みセンサー「TRPA1」を刺激する。唐辛子とは別のセンサーで、刺激がすっと引くのも特徴。

ひとことで言うとわさびのツーンは、鼻まで飛んでいく「におい系の辛さ」だった!

もくじ
  1. わさびの辛さは「空を飛ぶ」
  2. 唐辛子とは別の「痛みセンサー」
  3. 「すぐ消える」のはなぜ?
  4. ツーンで人を起こす「わさび火災報知器」
  5. まとめ

お寿司のわさびをつけすぎて、鼻の奥に「ツーン!」。思わず涙目になって、鼻を押さえる——。でも数十秒もすると、あの刺激はすーっと消えていきます。

一方、激辛ラーメンの唐辛子の辛さは、口の中にヒリヒリといつまでも残りますよね。

同じ「辛い」なのに、なぜここまでちがうのでしょうか。実は、わさびと唐辛子は、辛さの成分も、それを感じるセンサーも別物だったのです。

01わさびの辛さは「空を飛ぶ」

わさびの辛さのもとは、アリルイソチオシアネートなどの成分です。からし(マスタード)や大根おろしのピリッとした辛さも、同じ仲間の成分によるものです。

わさびをすりおろすと、細胞が壊れて、もとになる物質と酵素が出会い、この辛味成分ができます。そしてこの成分の大きな特徴は、揮発性が高い(空気中に飛びやすい)こと。

だから、口に入れたわさびの辛味成分は、すぐに気体になって喉の奥から鼻へと上がっていきます。「ツーン」が口ではなく鼻に来るのはこのためです。

02唐辛子とは別の「痛みセンサー」

TRPA1は、口の中だけでなく鼻や目、気道の神経にもあります。わさびの成分が鼻に飛んでいくと、鼻の奥の神経のTRPA1が刺激されて、あの強烈な「ツーン」になるのです。玉ねぎを切ると目がしみるのと、ちょっと似ています。

わさびの成分は気体になって鼻の奥へ。唐辛子の成分は口の中にとどまりやすい
わさびの成分は気体になって鼻の奥へ。唐辛子の成分は口の中にとどまりやすい

03「すぐ消える」のはなぜ?

わさびの「ツーン」がすぐ引くのは、辛味成分が飛びやすく、口や鼻の中に長くとどまりにくいことが大きいと考えられています。

一方、唐辛子のカプサイシンは油に溶けやすく、水には溶けにくいため、舌の表面に長くとどまります。だから、水を飲んでもなかなか辛さが引かないのです。

04ツーンで人を起こす「わさび火災報知器」

この「わさびのツーン」を、まさかの方法で役立てた日本の研究者たちがいます。耳の不自由な人に、火事を「におい」で知らせる火災報知器です。

火災を検知すると、わさびの辛味成分を空気中に噴き出し、その強い刺激で眠っている人を起こすしくみ。この研究は2011年にイグノーベル賞(化学賞)を受賞しました。わさびの「鼻への直撃力」が、命を守る技術に変わったのです。

05まとめ

わさびの「ツーン」は、空気中に飛びやすい辛味成分が鼻の奥のTRPA1を刺激することで起きていました。唐辛子の「ヒリヒリ」とは、成分もセンサーも別物だったのです。

次にお寿司を食べるときは、ツーンと来たら「今、鼻の奥のTRPA1が鳴ってるな」と思い出してみてください。ほんの少しだけ、涙に余裕が生まれるかもしれません。

この研究を英語で読もう原田英語の English CornerToo much wasabi causes a sharp sting in the nose that fades within a minute or so, while chili heat lingers… 音声 4択クイズ9問A2・B1・B2タップして開く

原田英語の English Corner

この研究を英語で読もう

Too much wasabi causes a sharp sting in the nose that fades within a minute or so, while chili heat lingers in the mouth. The two differ in both their chemicals and their sensors. Wasabi's pungent compound, allyl isothiocyanate, forms when the root is grated, and it easily turns into vapor. It therefore rises from the back of the mouth into the nose.

In 2004, two US research teams showed that this compound activates TRPA1, a pain sensor on nerves, which is different from TRPV1, the sensor triggered by chili. Chili's capsaicin dissolves in oil rather than water, so it stays on the tongue, while wasabi's compound escapes quickly.

109 words ・ CEFR B1

和訳を見る

わさびを食べすぎると鼻に鋭いツーンとした刺激が起こり、それは1分ほどで消えますが、唐辛子の辛さは口の中に残ります。この2つは、化学物質もセンサーもちがうのです。わさびのツンとくる成分アリルイソチオシアネートは、根がすりおろされるときにでき、気体になりやすい性質をもっています。そのため、口の奥から鼻へと上がっていきます。2004年、アメリカの2つの研究チームは、この成分が神経にある痛みのセンサーTRPA1を活性化することを示しました。

これは、唐辛子が刺激するセンサーTRPV1とは別のものです。唐辛子のカプサイシンは水ではなく油に溶けるので舌にとどまりますが、わさびの成分はすばやく逃げていくのです。

4択リーディングクイズ

Q1. When is wasabi's pungent compound formed?

Q2. Which sensor is triggered by chili?

Q3. Why does chili heat last longer than wasabi's sting?

重要単語

  • pungentC1
    形容詞ツンとくる、刺激の強いWasabi has a pungent smell. においや味が鋭く刺激的なこと。比喩で「辛辣な」(pungent criticism)。
  • vaporB2
    名詞蒸気、気体The vapor goes up into your nose. イギリス式は vapour。動詞 vaporize(気化する)、water vapor(水蒸気)。
  • grateB2
    動詞すりおろすGrate fresh wasabi just before eating. grater は「おろし金」。great(すばらしい)と同音なので注意。
  • irritantC1
    名詞刺激物Wasabi contains a natural irritant. irritate(刺激する・イライラさせる)の名詞形の1つ。
  • alarmB1
    名詞警報(装置)The wasabi alarm wakes people with its smell. fire alarm「火災報知器」、alarm clock「目覚まし時計」。動詞は「不安にさせる」。
  • lingerC1
    動詞(なかなか)消えずに残るThe heat of chili lingers in the mouth. においや感情が「後を引く」ときに使う。lingering doubt「消えない疑い」。
唐辛子の辛さは口に残るのに、わさびのツーンは鼻に抜けてすぐ消える。わさびの成分は空気中に飛びやすく、鼻の奥の痛みセンサー「TRPA1」を直撃するから。わさび火災報知器はイグノーベル賞に。

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出典・参考文献(3件)タップで表示
  1. Jordt et al. (2004) Mustard oils and cannabinoids excite sensory nerve fibres through the TRP channel ANKTM1, Naturedoi.org
  2. Bandell et al. (2004) Noxious cold ion channel TRPA1 is activated by pungent compounds and bradykinin, Neurondoi.org
  3. Depree et al. (1998) Flavour and pharmaceutical properties of the volatile sulphur compounds of Wasabi (Wasabia japonica), Food Research Internationaldoi.org