心理学

黒板をひっかく音はなぜこんなに不快? 脳の「感情センター」が聴覚に口出ししていた

黒板をひっかく音はなぜこんなに不快? 脳の「感情センター」が聴覚に口出ししていた

読む前に予想してみよう!

黒板をひっかく音が不快なのは、高すぎる音(超高音)のせいだと実験ではっきりした

研究カード(どんな研究?)
対象
健康な成人
規模
13人(脳画像)ほか
研究の種類
実験研究(fMRI)
確かさ
★★★☆☆
3秒でわかる

黒板をひっかく音は、人がとくに敏感な2000〜5000ヘルツ付近の成分を含む。脳では感情を担う扁桃体が聴覚野とやりとりし、不快さを強めていた。

ひとことで言うとキーッという音は、脳の「イヤだ!センター」が、音を聞く場所に口出ししている!

もくじ
  1. 嫌な音ランキング1位は「ナイフでビン」
  2. 不快ゾーンは「2500〜5500ヘルツ」
  3. どんでん返し:犯人は「超高音」じゃなかった
  4. まとめ

この文章を読んでいるだけで、ちょっとゾワッとする人もいるかもしれません。黒板をツメでひっかく「キーーッ」という音。

答えを先に言うと、あの音には人間の耳がとくに敏感な2000〜5000ヘルツあたりの成分がたっぷり含まれています。そして脳の中では、感情を担う「扁桃体(へんとうたい)」が聴覚の領域に口出しして、不快さを強めていることがわかってきました。

01嫌な音ランキング1位は「ナイフでビン」

脳画像を見ると、不快な音ほど扁桃体が活発になり、さらに扁桃体から聴覚野(音を分析する場所)への働きかけが強まっていました。研究チームは、扁桃体が「これは要注意の音だ」と判断し、聴覚野にその音をより強く処理させているのではないかと考えています。

02不快ゾーンは「2500〜5500ヘルツ」

同じグループは2008年、たくさんの音の評価を、耳から脳への音の処理を再現したモデルで分析しました。すると、不快さと関係していたのは、

  • 周波数がおよそ2500〜5500ヘルツ
  • 音の大きさが1秒間に1〜16回くらいのリズムで揺れること

という特徴でした。黒板やガラスをこする音は、まさにこの条件にぴったり当てはまります。

興味深いのは、この周波数帯が人の悲鳴とも重なること。そもそも人の耳は、耳の穴の形の影響で2000〜5000ヘルツ付近の音をよく拾うつくりになっています。大事な音を聞き逃さないための感度が、こすれる音には「効きすぎて」しまうのかもしれません。

不快な音を聞くと、扁桃体が聴覚野に「もっと注意しろ」と口出しする
不快な音を聞くと、扁桃体が聴覚野に「もっと注意しろ」と口出しする

03どんでん返し:犯人は「超高音」じゃなかった

「キーッ」は高い音だから不快なのだろう、と思いますよね。ところが、話はそう単純ではありません。

1986年、アメリカのハルパーン(Halpern)さんらは、園芸用の道具で黒板をひっかく音を録音し、周波数ごとに成分を削って不快さを比べました。すると、いちばん高い音の成分をカットしても、不快さはほとんど変わらなかったのです。むしろ、もっと低めから中くらいの音域が効いていることがわかりました。

研究チームは、この音がサルの仲間の警戒の叫び声に似ているからではないか、という大胆な仮説も出しました(これは今も検証されていない推測です)。この研究は、2006年に「人を笑わせ、考えさせる研究」に贈られるイグノーベル賞を受賞しています。

04まとめ

黒板をひっかく音が不快なのは、耳が敏感な2000〜5000ヘルツ付近の成分と、独特のザラついた揺れを持つから。そして脳では、扁桃体が聴覚野に口出しして不快さを強めていました。

あのゾワッは、危険な音を聞き逃さないための警報システムの「鳴りすぎ」なのかもしれません。

この研究を英語で読もう原田英語の English CornerThe scratch of nails on a chalkboard makes many people shiver. 音声 4択クイズ9問A2・B1・B2タップして開く

原田英語の English Corner

この研究を英語で読もう

The scratch of nails on a chalkboard makes many people shiver. In 2012, researchers at Newcastle University in the UK asked 13 people to rate 74 sounds while their brain activity was measured. The most unpleasant sound was a knife on a bottle, followed by a fork on a glass and chalk on a blackboard. Pleasant sounds included bubbling water.

The researchers found that unpleasant sounds increased activity in the amygdala, a part of the brain linked to emotion. The amygdala also seemed to send stronger signals to the auditory cortex, which analyzes sound. In another study, the same group found that unpleasant sounds had frequencies of about 2,500 to 5,500 hertz, a range that overlaps with human screams.

119 words ・ CEFR B1

和訳を見る

黒板をツメでひっかく音を聞くと、多くの人はぞっとします。2012年、イギリスのニューカッスル大学の研究者たちは、13人に脳の活動を測定しながら74種類の音を評価してもらいました。最も不快な音はナイフでビンをこする音で、フォークでグラス、チョークで黒板が続きました。心地よい音には、水が泡立つ音などがありました。研究者たちは、不快な音を聞くと、感情に関わる脳の部位である扁桃体の活動が高まることを発見しました。

扁桃体はまた、音を分析する聴覚野により強い信号を送っているようでした。別の研究で、同じグループは、不快な音の周波数が約2,500〜5,500ヘルツであることを見つけました。これは人の悲鳴と重なる音域です。

4択リーディングクイズ

Q1. What is the passage mainly about?

Q2. Which sound was ranked third?

Q3. What can we infer about the amygdala's role?

重要単語

  • unpleasantB1
    形容詞不快なThat scratching noise is so unpleasant. un-(否定)+pleasant(心地よい)。名詞 unpleasantness は論文で「不快度」の意味で使われる。
  • frequencyB2
    名詞周波数(音の高さを表す数値)、頻度Our ears are sensitive to this frequency range. 「頻度」の意味も重要。形容詞 frequent(頻繁な)。単位は hertz(ヘルツ)。
  • amygdalaC1
    名詞扁桃体(感情にかかわる脳の部位)The amygdala reacts quickly to danger. ギリシャ語で「アーモンド」。形がアーモンドに似ていることから。恐怖・不安の文脈で頻出。
  • auditory cortexC1
    名詞(句)聴覚野Sound signals are processed in the auditory cortex. auditory は audio, audience と同じ「聞く」の語源。visual cortex は「視覚野」。
  • screamB1
    名詞・動詞悲鳴(をあげる)A scream grabs everyone's attention. scream for help「助けを求めて叫ぶ」。shout は大声一般、scream は恐怖・興奮の甲高い叫び。
  • speculateC1
    動詞推測するThe authors speculated about the reason. 名詞 speculation。証拠が不十分なまま考えるニュアンス。「投機する」の意味もある。
黒板をひっかく「キーッ」がゾッとするのはなぜ? イギリスの脳研究では、不快な音ほど脳の感情センター(扁桃体)が聴覚の領域に強く口出ししていた。最も嫌われた音の1位は「ナイフでビンをこする音」だったらしい。

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出典・参考文献(3件)タップで表示
  1. Kumar et al. (2012) Features versus Feelings: Dissociable Representations of the Acoustic Features and Valence of Aversive Sounds, The Journal of Neurosciencedoi.org
  2. Kumar et al. (2008) Mapping unpleasantness of sounds to their auditory representation, The Journal of the Acoustical Society of Americadoi.org
  3. Halpern, Blake & Hillenbrand (1986) Psychoacoustics of a chilling sound, Perception & Psychophysicsdoi.org