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明らかに違う線を「同じ長さ」と答えた?アッシュの同調実験、実は"独立"の物語だった

明らかに違う線を「同じ長さ」と答えた?アッシュの同調実験、実は"独立"の物語だった

読む前に予想してみよう!

アッシュの同調実験では、参加者の大半がほとんどの問題で多数派に合わせて間違えた

研究カード(どんな研究?)
対象
男子大学生
規模
123人(1956年の主報告)
研究の種類
実験室実験+メタ分析・追試
確かさ
★★★★☆
3秒でわかる

全員がわざと間違えると、本人も合わせて間違える──有名なアッシュの実験。でも数字をよく見ると、回答の大半は正解のまま。味方が1人いるだけで同調は激減した。

ひとことで言うとみんなが同じことを言うと、つい合わせちゃう。でも味方が1人いれば平気!

もくじ
  1. 「全員サクラ」の部屋に、ひとりだけ
  2. どんでん返し:数字をひっくり返して読むと
  3. 味方が1人いるだけで、同調は激減
  4. 時代と文化で変わる「合わせやすさ」
  5. 70年後にやり直したら?
  6. まとめ

カードに描かれた1本の線。それと同じ長さのものを、隣のカードの3本から選ぶだけ。小学生でも間違えないような問題です。

ところが、あなた以外の全員が、自信満々に間違った線を答えたら?

1950年代にアメリカの心理学者ソロモン・アッシュが行ったこの実験は、「人は同調圧力に弱い」ことの証拠として、教科書の定番になりました。でも、元の数字をよく見ると、ちょっと違う物語が見えてきます。

01「全員サクラ」の部屋に、ひとりだけ

実験のしくみはこうです。

結果、サクラがそろって間違えた問題では、本物の参加者の回答の約3分の1が多数派に合わせた間違いになりました。また、約4分の3の人が少なくとも1回は多数派に合わせています。

「目の前の線より、周りの声を信じてしまう」。この結果は大きな衝撃を与えました。

02どんでん返し:数字をひっくり返して読むと

でも、同じ数字を逆から見てみましょう。

  • 回答の約3分の2は、全員が反対する中でも正しい答えだった
  • 約4分の1の人は、一度も多数派に合わせなかった

実はアッシュ自身も、この研究を「独立と同調」の研究として位置づけていました。1990年には、教科書がこの実験を「同調」ばかり強調して紹介しすぎていると指摘する論文も出ています。

コップに水が「半分しか入っていない」と見るか、「半分も入っている」と見るか。アッシュの実験は、まさにそんなデータだったのです。

たった1人の味方が、同調の魔法をほどく
たった1人の味方が、同調の魔法をほどく

03味方が1人いるだけで、同調は激減

アッシュはいろいろな条件も試しました。その中でいちばん劇的だったのが「味方の効果」です。

サクラの中に1人だけ正しい答えを言う人を混ぜると、本物の参加者が多数派に合わせる割合は大きく下がりました。全員一致の壁にひびが入るだけで、人は自分の目を信じやすくなるのです。

面白いのは、その味方が途中で多数派の側に「寝返る」と、同調がまた増えたことです。人を支えていたのは「正しい答え」そのものより、同じ意見の人がそばにいる安心感だったのかもしれません。

また、多数派が1〜2人だと影響は小さく、3人くらいになると強くなる一方、それ以上増やしても効果はあまり増えませんでした。

04時代と文化で変わる「合わせやすさ」

1996年、世界の線判断の実験をまとめたメタ分析(Bond & Smith)では、

  • アメリカでは、1950年代から時代が進むにつれ同調の度合いが下がる傾向
  • 集団の調和を重んじる文化の国では、同調がやや強い傾向

が報告されました。同調は「人間の本能」というより、時代や環境で変わるものだと言えそうです。

0570年後にやり直したら?

「昔の話でしょ?」と思うかもしれません。ところが2023年、スイスの研究者フランツェンとマーダーが、サクラ5人+本物の参加者1人という形で210人を対象に元の実験をやり直しました。

結果、間違った多数派に合わせた回答の割合は約33%。アッシュの元の数字とほぼ同じでした。さらに、正解するとお金がもらえる条件にすると、同調は約25%に下がったものの、ゼロにはなりませんでした。

つまり、アッシュの「約3分の1」は今でもかなり再現できる、しっかりした現象です。ただし国や時代、場の雰囲気によって強さが変わることも、たくさんの研究が示しています。

ちなみに、同じく「権威への服従」を調べた有名な実験についてはミルグラム実験の再検証の記事も参考になります。

06まとめ

アッシュの実験が教えてくれるのは「人は流されやすい」ことだけではありません。たった1人の味方がいれば、人はちゃんと自分の目を信じられるということです。

あなたが誰かの「最初の1人」になれば、その場の空気は変わるかもしれません。

この研究を英語で読もう原田英語の English CornerIn the 1950s, Solomon Asch asked people a simple question. 音声 4択クイズ9問A2・B1・B2タップして開く

原田英語の English Corner

この研究を英語で読もう

In the 1950s, Solomon Asch asked people a simple question. Which of three lines was the same length as a target line? Everyone else in the group was secretly working with the researcher, and on certain trials they all gave the same wrong answer.

When people answered alone, they almost never made mistakes. In the group, however, about one-third of their answers followed the incorrect majority, and around three-quarters of the participants went along at least once. The experiment is often used to show how easily people give in to social pressure.

But look at the numbers again. About two-thirds of the answers stayed correct, and about a quarter of people never conformed at all. When just one other person gave the correct answer, conformity dropped sharply.

127 words ・ CEFR B1

和訳を見る

1950年代、ソロモン・アッシュは人々に簡単な質問をしました。3本の線のうち、基準の線と同じ長さなのはどれか、という質問です。グループの他の全員はひそかに研究者と協力しており、特定の回では全員が同じ間違った答えを言いました。

1人で答えたとき、人々はほとんど間違えませんでした。しかしグループの中では、答えの約3分の1が間違った多数派に合わせたものになり、参加者の約4分の3が少なくとも1回は合わせました。この実験は、人がいかに簡単に社会的な圧力に屈するかを示すためによく使われます。

でも、数字をもう一度見てみましょう。答えの約3分の2は正しいままで、約4分の1の人は一度も同調しませんでした。他の1人だけでも正しい答えを言うと、同調は大きく減りました。

4択リーディングクイズ

Q1. How did participants perform when they answered alone?

Q2. What proportion of the answers stayed correct in the group condition?

Q3. What is the writer's main point?

重要単語

  • conformityC1
    名詞同調(周りに合わせること)Conformity can be strong when everyone agrees. conform to ~「~に従う・合わせる」。form(形)に合わせるイメージ。
  • majorityB1
    名詞多数派The majority chose the wrong line. 反対は minority(少数派)。the majority of ~「~の大多数」。
  • unanimousC1
    形容詞全員一致のThe vote was unanimous. un(1つ)+anim(心)=心が1つ。発音は「ユーナニマス」。
  • independenceB1
    名詞独立、自分で判断することAsch also studied independence, not just conformity. independent of ~「~から独立した」。前置詞 of に注意(from も可)。
  • peer pressureB2
    名詞(句)仲間からの圧力、同調圧力Teenagers often feel peer pressure at school. peer は「同年代の仲間」。教育・若者がテーマの長文で頻出。
  • confederateC2
    名詞(実験の)仕掛け人、共犯者The other group members were confederates. 心理学実験の「サクラ」。もとは「同盟者」の意味。
  • dissentC1
    名詞・動詞反対(意見を言う)A single dissenting voice reduced conformity. dis-(離れて)+sent(感じる)。consent(同意)と対で覚える。

動画でもっと知る

全員がわざと間違った答えを言う中で、ひとりだけ本物の参加者。有名なアッシュの同調実験だけど、実は答えの約3分の2は「正解」のままだったらしい。しかも味方が1人いるだけで同調はガクッと減る。

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出典・参考文献(5件)タップで表示
  1. Asch (1956) Studies of independence and conformity: I. A minority of one against a unanimous majority, Psychological Monographsdoi.org
  2. Asch (1955) Opinions and social pressure, Scientific Americandoi.org
  3. Bond & Smith (1996) Culture and conformity: A meta-analysis of studies using Asch's line judgment task, Psychological Bulletindoi.org
  4. Friend, Rafferty & Bramel (1990) A puzzling misinterpretation of the Asch 'conformity' study, European Journal of Social Psychologydoi.org
  5. Franzen & Mader (2023) The power of social influence: A replication and extension of the Asch experiment, PLOS ONEdoi.org