ヘビの顔の「穴」は熱を見る第3の目。暗闇でもネズミの体温を感じるセンサーの正体

読む前に予想してみよう!
ヘビは目の網膜で赤外線を見ている
赤外線を感じるのは目ではなく、顔の「ピット器官」。光を化学反応でとらえるのではなく、熱で温まることを感じとっている。
- 対象
- ガラガラヘビ・ニシキヘビ・ボアなどピットを持つヘビ
- 規模
- 数種のヘビの神経組織と培養細胞
- 研究の種類
- 遺伝子発現解析・細胞での電気生理学・光学と熱の計算モデル
- 確かさ
- ★★★★☆
マムシやガラガラヘビの目と鼻の間の「ピット器官」は、赤外線(熱)を感じるセンサー。熱で温まると反応するTRPA1というたんぱく質が、その正体だった。
ひとことで言うとヘビの顔の小さな穴は、ねつを感じるセンサー。まっくらでもえものの体温がわかる!
マムシやガラガラヘビの顔をよく見ると、目と鼻の穴の間に、もう一つ小さなくぼみがあります。
これはピット器官と呼ばれる、赤外線(熱)を感じるセンサーです。真っ暗な夜でも、ヘビはこのセンサーで、ネズミなど温かい獲物の体温をとらえることができます。
まるで、生まれつきサーモグラフィーを顔につけているようなもの。そのしくみの核心が解き明かされたのは、2010年のことでした。
01くぼみの奥に張られた、うすい膜
マムシのピット器官は、ただの穴ではありません。くぼみの奥には、とても薄い膜が、空気の部屋の上に張られています。
獲物の体から出た赤外線がこの膜に当たると、膜はわずかに温まります。膜には神経がびっしり通っていて、その温度の変化を感じとるのです。
マムシの仲間(クサリヘビ科のマムシ亜科)は顔に1対、ニシキヘビやボアの一部の種は唇のふちにいくつもの「ピット」を持っています。これらは、別々に進化したと考えられています。

02センサーの正体は「熱で開く扉」
では、膜の神経は、どうやって熱を感じているのでしょうか。
ジュリアスさんは、熱や痛みを感じるTRPチャネルの研究で、2021年にノーベル生理学・医学賞を受賞しています。人間では、TRPA1はわさびやからしの「ツーン」とする刺激を感じるセンサーとして知られています。同じ仲間のたんぱく質が、ヘビでは赤外線センサーに作りかえられていたのです。
03映像はぼやけている。でも感度は超高い
ピット器官がとらえる「熱の映像」は、どれくらいはっきりしているのでしょうか。
2007年、アメリカの研究者ジョージ・バッケンさんとアーロン・クロッチマルさんは、光学と熱の伝わり方を計算して調べました。すると、膜に映る熱の像は、実はかなりぼやけていて、コントラストも低いことがわかりました。それでも実際のヘビが獲物をとらえられることを説明するには、膜の神経が0.001℃以下の温度差にも反応している必要がある、と見積もられました。脳の中で、ぼやけた像をくっきりさせる処理をしている可能性もあります。
さらにクロッチマルさんたちは、ピット器官が狩りだけでなく、すごしやすい涼しい場所を探すことにも使われていることを、12種のヘビで確かめています。
04コウモリも「熱を見る」
赤外線を感じる動物は、ヘビだけではありません。
血を吸うチスイコウモリも、鼻のまわりで獲物の体温を感じます。2011年、同じUCSFのチームは、チスイコウモリが、熱を感じる別のチャネルTRPV1を少し作りかえて、より低い温度で反応するようにしていることを『Nature』で報告しました。ヘビとコウモリは、別々の部品を使って、同じ「熱を見る力」を手に入れていたのです。
05まとめ
ヘビの顔の小さなくぼみは、熱を感じる第3の目でした。その正体は、わさびの刺激を感じるたんぱく質の仲間を、赤外線センサーに作りかえたもの。
同じ部品でも、使い方しだいでまったく別の感覚になる。進化の「リフォーム力」には驚かされます。
この研究を英語で読もう原田英語の English CornerRattlesnakes and other pit vipers have a small hollow between each eye and nostril, and some pythons and…
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4択クイズ9問A2・B1・B2タップして開く
原田英語の English Corner
この研究を英語で読もう
Some snakes, like rattlesnakes, have a small hole between each eye and nose. This hole is called a pit organ. It can feel heat from warm animals.
So the snake can find a mouse even in the dark. Inside the pit, there is a very thin skin. When it gets a little warm, the nerves send a message. Scientists found the special protein that feels the heat in 2010.
69 words ・ CEFR A2
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ガラガラヘビのように、目と鼻の間に小さな穴を持つヘビがいます。この穴はピット器官と呼ばれます。温かい動物から出る熱を感じることができます。
そのため、ヘビは暗闇の中でもネズミを見つけられます。穴の中には、とても薄い膜があります。それが少し温まると、神経が信号を送ります。科学者たちは2010年に、熱を感じる特別なたんぱく質を見つけました。
4択リーディングクイズ
Q1. What is the passage mainly about?
熱を感じるピット器官がテーマなので C。
Q2. Where is the pit organ?
a small hole between each eye and nose とあるので B。
Q3. In this passage, "even in the dark" means ...
even は「~でさえ」。光がないときでも見つけられる、という意味なので D。
Rattlesnakes and other pit vipers have a small hollow between each eye and nostril, and some pythons and boas have similar pits along their lips. These pit organs sense infrared radiation, the heat given off by warm bodies. Deep inside a viper's pit is a thin membrane full of nerves, which warms slightly when heat reaches it.
In 2010, Elena Gracheva and David Julius discovered that the key sensor is a protein called TRPA1, which acts like a door that opens when it is heated. In humans, the same type of protein helps us feel the sharp sting of wasabi. Julius later won a Nobel Prize for his research on proteins that sense heat and pain.
116 words ・ CEFR B1
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ガラガラヘビなどのマムシの仲間は目と鼻の穴の間に小さなくぼみを持ち、ニシキヘビやボアの一部は唇に沿って似たくぼみを持っています。これらのピット器官は、温かい体から出る熱である赤外線を感じとります。マムシの仲間のくぼみの奥には神経がびっしり通った薄い膜があり、熱が届くと少し温まります。2010年、エレナ・グラチェヴァさんとデヴィッド・ジュリアスさんは、カギとなるセンサーがTRPA1というたんぱく質であることを発見しました。
これは温められると開く扉のように働きます。人間では、同じ種類のたんぱく質が、わさびのツーンとした刺激を感じるのに役立っています。ジュリアスさんは後に、熱や痛みを感じるたんぱく質の研究でノーベル賞を受賞しました。
4択リーディングクイズ
Q1. What do pit organs sense?
sense infrared radiation, the heat given off by warm bodies とあるので D。
Q2. How does TRPA1 work, according to the passage?
acts like a door that opens when it is heated とあるので C。
Q3. What does the wasabi example suggest?
人間ではわさびの刺激を感じる同じ種類のたんぱく質が、ヘビでは熱センサーになっている、ということなので A。
Between the eyes and nostrils of pit vipers such as rattlesnakes sits a pair of small pits. Some pythons and boas have rows of similar pits along their lips, and the two designs are thought to have evolved separately. Inside each viper pit, a thin membrane packed with nerves is stretched over an air chamber. When infrared radiation from a warm body hits it, the membrane warms slightly.
In 2010, Elena Gracheva, David Julius, and colleagues identified the molecular sensor as TRPA1, an ion channel that in these snakes is more sensitive to heat than any vertebrate channel known before. So snakes detect infrared by being heated, not through the photochemical reactions that eyes use. Julius later shared the 2021 Nobel Prize for work on such channels.
Vampire bats sense the body heat of their prey with a modified version of a different channel, TRPV1. How sharp is the image a snake gets? Calculations by George Bakken and Aaron Krochmal suggested that the thermal image on the membrane is blurry, so the nerves would have to respond to differences of 0.001 degrees Celsius or less. That number came from a model rather than from direct measurement, and the brain may sharpen the image.
203 words ・ CEFR B2
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ガラガラヘビなどのマムシの仲間の目と鼻の穴の間には、1対の小さなくぼみがあります。ニシキヘビやボアの一部は、唇に沿って似たくぼみが並んでおり、この2つのつくりは別々に進化したと考えられています。マムシの仲間のくぼみの中には、神経がびっしり通った薄い膜が、空気の部屋の上に張られています。温かい体からの赤外線が当たると、膜がわずかに温まります。
2010年、エレナ・グラチェヴァさん、デヴィッド・ジュリアスさんらは、その分子センサーがTRPA1というイオンチャネルであることを特定しました。これらのヘビのTRPA1は、それまで知られていたどの脊椎動物のチャネルよりも熱に敏感です。つまりヘビは、目が使う光化学反応ではなく、温められることで赤外線を検出しているのです。ジュリアスさんは後に、こうしたチャネルの研究で2021年のノーベル賞を共同受賞しました。
チスイコウモリは、別のチャネルであるTRPV1を作りかえたもので獲物の体温を感じとります。ヘビが得る像はどれくらい鮮明なのでしょうか。ジョージ・バッケンさんとアーロン・クロッチマルさんの計算では、膜に映る熱の像はぼやけており、そのため神経は0.001℃以下の差に反応しなければならないことになります。ただしその数値は直接の測定ではなくモデルから出たもので、脳が像をくっきりさせている可能性もあります。
4択リーディングクイズ
Q1. What did the 2010 study show about how snakes detect infrared?
snakes detect infrared by being heated, not through the photochemical reactions that eyes use とあるので A。
Q2. How do vampire bats sense the body heat of prey?
a modified version of a different channel, TRPV1 とあるので D。
Q3. Why should the 0.001-degree figure be treated with caution?
That number came from a model rather than from direct measurement とあるので C。
重要単語
- infraredC1名詞・形容詞赤外線(の)Warm bodies give off infrared radiation.
infra-(下の)+red。「赤より下(波長が長い)」の意味。反対側は ultraviolet(紫外線)。 - pit organC1名詞(句)ピット器官The pit organ lies between the eye and the nostril.
pit は「くぼみ・穴」。pit viper は「ピット器官を持つヘビ(マムシの仲間)」。 - ion channelC1名詞(句)イオンチャネルTRPA1 is an ion channel that opens with heat.
channel は「水路・通り道」。テレビの「チャンネル」と同じ語。 - preyB2名詞獲物The snake can sense its prey in total darkness.
pray(祈る)と同音なのでつづりに注意。fall prey to ~「~の餌食になる」。 - membraneC1名詞膜A thin membrane inside the pit is warmed by heat.
cell membrane「細胞膜」は生物の基本用語。 - nostrilB2名詞鼻の穴The pit lies between the eye and the nostril.
nose(鼻)全体に対して、穴の部分が nostril。
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マムシやガラガラヘビの、目と鼻の間にある小さな穴。あれは赤外線(熱)を感じるセンサーらしい。真っ暗でもネズミの体温がわかる。正体は熱で開く「TRPA1」というたんぱく質で、見つけたのは、のちにノーベル賞を受賞したジュリアスさんらの研究チーム。
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出典・参考文献(4件)タップで表示
- Krochmal, Bakken & LaDuc (2004) Heat in evolution's kitchen: evolutionary perspectives on the functions and origin of the facial pit of pitvipers, Journal of Experimental Biologydoi.org
- Bakken & Krochmal (2007) The imaging properties and sensitivity of the facial pits of pitvipers as determined by optical and heat-transfer analysis, Journal of Experimental Biologydoi.org
- Gracheva et al. (2010) Molecular basis of infrared detection by snakes, Naturedoi.org
- Gracheva et al. (2011) Ganglion-specific splicing of TRPV1 underlies infrared sensation in vampire bats, Naturedoi.org
※本記事は上記の研究・公開資料をもとに、原田英語が独自の言葉で解説したものです。引用は著作権法第32条の範囲で行い、出典を明記しています。画像はすべてオリジナルのイメージです。研究結果には限界や個人差があります。誤りのご指摘は原田英語のお問い合わせフォームから。












