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「バイリンガルは頭がいい」は本当? 20年続いた大論争の"現在地"

「バイリンガルは頭がいい」は本当? 20年続いた大論争の"現在地"

読む前に予想してみよう!

2つの言語を話す人は、1つの言語しか話さない人より、注意の切り替えなどの能力が明らかに高いことが確定している

研究カード(どんな研究?)
対象
成人のバイリンガルとモノリンガル
規模
152研究
研究の種類
メタ分析(出版バイアス補正あり)
確かさ
★★★★☆
3秒でわかる

「2言語を話す人は注意の切り替えなどが得意」という説は大論争に。152研究をまとめた分析では、出版バイアスを補正すると、はっきりした優位は見られなかった。

ひとことで言うと2つの言葉を話せても、頭がよくなるとはかぎらない。でも、話せることが最大の得!

もくじ
  1. はじまり:「切り替えの達人」説
  2. 逆風:「よい結果だけが論文になっていた?」
  3. 152研究のメタ分析:補正すると優位は消えた
  4. まとめ

「バイリンガルの子は頭がいい」「2つの言語を使うと脳が鍛えられる」。子どもの英語教育の話題で、よく耳にする言葉です。

人気の解説動画や記事でも、バイリンガルの脳の"すごさ"はたびたび紹介されてきました。

ところがこの説、実は20年近くにわたって科学者どうしが激しく議論してきたテーマです。そして近年、多くの研究をまとめた分析が出て、話はかなり変わってきました。

01はじまり:「切り替えの達人」説

2000年代、カナダの心理学者エレン・ビアリストクらの研究などから、こんな説が注目されました。

バイリンガルは、話すたびに「使わないほうの言語」をおさえ、2つの言語を切り替えている。この毎日のトレーニングで、注意を切り替えたり、余計な情報をおさえたりする力(実行機能)が鍛えられるのではないか——。

実際、色や矢印を使った反応テストで、バイリンガルのほうが速いという結果がいくつも報告されました。

さらに2007年には、トロントの病院の記録を調べた研究で、バイリンガルの人は、認知症の症状が出始める年齢が平均で約4年遅かったという報告も出て、大きな話題になりました。

02逆風:「よい結果だけが論文になっていた?」

ところが2010年代に入ると、反対の結果が相次ぎます。

2013年には、複数の実験で多くの指標を調べたものの、一貫したバイリンガル優位は見られなかったという研究が発表されました。

そして2015年、決定的な一撃が放たれます。

これは、「論文を集めると優位があるように見えるのは、ないという結果が表に出てこなかったせいかもしれない」ということを意味します。

03152研究のメタ分析:補正すると優位は消えた

遠くから大きく見えた「山」が、近づくと小さかった
遠くから大きく見えた「山」が、近づくと小さかった

2019年の総説は、優位の有無をめぐって意見が割れ、議論は行き詰まっていると整理しています。つまり「バイリンガルなら誰でも認知能力が高い」とは言い切れません。認知症の発症を遅らせるという話も、その後の研究で結果が分かれており、決着はついていません。

04まとめ

「バイリンガルは頭がいい」は、今の研究では言い切れない、というのが現在地です。

でも、がっかりする必要はありません。2つの言語を話せることの本当の価値は、テストの反応速度ではなく、出会える人と世界が大きく広がること。それだけで、英語を学ぶ理由としては十分すぎるはずです。

この研究を英語で読もう原田英語の English CornerFor years, many people believed that speaking two languages gives the brain a workout. 音声 4択クイズ9問A2・B1・B2タップして開く

原田英語の English Corner

この研究を英語で読もう

For years, many people believed that speaking two languages gives the brain a workout. Bilinguals must constantly control which language they use, so they might develop stronger executive function, the ability to switch attention and ignore distractions. Early studies supported this idea, and a 2007 study even reported that bilingual patients showed signs of dementia about four years later on average.

However, in 2015 researchers at the University of Edinburgh found signs of publication bias: studies supporting the bilingual advantage were more likely to be published. In 2018, a meta-analysis of 152 studies on adults found only a small advantage at first, and after correcting for publication bias, no clear advantage remained. The real benefit of a second language may simply be the people and information it opens up.

129 words ・ CEFR B1

和訳を見る

何年もの間、多くの人が2つの言語を話すことは脳のトレーニングになると信じていました。バイリンガルはどちらの言語を使うかを常にコントロールしなければならないので、注意を切り替えたり気を散らすものを無視したりする能力、つまり実行機能が強くなるのかもしれない、というわけです。初期の研究はこの考えを支持し、2007年の研究では、バイリンガルの患者は認知症の兆候が平均で約4年遅く現れたとさえ報告されました。しかし2015年、エディンバラ大学の研究者たちは出版バイアスの兆候を見つけました。

バイリンガル優位を支持する研究ほど論文として出版されやすかったのです。2018年、成人を対象とした152の研究のメタ分析では、最初はわずかな優位が見られただけで、出版バイアスを補正すると、はっきりした優位は残りませんでした。第二言語の本当の利点は、単にそれが開いてくれる人や情報なのかもしれません。

4択リーディングクイズ

Q1. What is "executive function" in this passage?

Q2. What did the Edinburgh researchers find?

Q3. What is the writer's main message in the last sentence?

重要単語

  • bilingualB1
    形容詞・名詞2言語を話す(人)She grew up bilingual in Japanese and English. bi-(2つ)+lingual(言語の)。monolingual(1言語)、multilingual(多言語)とセットで。
  • executive functionC1
    名詞(句)実行機能(注意の切り替え・抑制などのコントロール能力)Executive function helps you switch between tasks. executive は「管理する・実行の」。脳の「司令塔」のイメージ。心理学・教育系の長文で頻出。
  • publication biasC1
    名詞(句)出版バイアス(よい結果ほど論文になりやすい偏り)Publication bias can make an effect look bigger than it is. 「効果あり」の論文ばかり集まると、実際より効果が大きく見える。メタ分析を読むときの必須知識。
  • inhibitory controlC1
    名詞(句)抑制制御(関係ない情報や反応をおさえる力)The task measured inhibitory control. inhibit「抑える・妨げる」の形容詞形。inhibit A from doing「Aが~するのを妨げる」は入試頻出構文。
  • meta-analysisC1
    名詞メタ分析The meta-analysis included 152 studies. 複数の研究を統計的にまとめる手法。ただし元の研究に偏りがあれば結果も偏るので、出版バイアスの補正が重要。
  • contestedC1
    形容詞議論の分かれる・異論のあるThe dementia findings remain contested. contest(争う)の過去分詞。controversial とほぼ同義で、研究紹介でよく使う。
  • retrospectiveC1
    形容詞後ろ向きの(過去の記録をさかのぼって調べる)Retrospective studies use past records. retro-(後ろへ)+spect(見る)。prospective(前向きの)と対。研究デザインの信頼度を見分けるカギ。

動画でもっと知る

「バイリンガルは脳が鍛えられて頭がいい」という説。152本の研究をまとめた分析では、“よい結果ほど論文になりやすい偏り”を補正すると、はっきりした優位は消えたらしい。科学の大論争、意外な展開に。

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出典・参考文献(5件)タップで表示
  1. Bialystok, Craik & Freedman (2007) Bilingualism as a protection against the onset of symptoms of dementia, Neuropsychologiadoi.org
  2. de Bruin, Treccani & Della Sala (2015) Cognitive advantage in bilingualism: An example of publication bias?, Psychological Sciencedoi.org
  3. Paap & Greenberg (2013) There is no coherent evidence for a bilingual advantage in executive processing, Cognitive Psychologydoi.org
  4. Lehtonen et al. (2018) Is bilingualism associated with enhanced executive functioning in adults? A meta-analytic review, Psychological Bulletindoi.org
  5. Antoniou (2019) The advantages of bilingualism debate, Annual Review of Linguisticsdoi.org