ストックホルム症候群とは? 有名なのに正式な病名ではなく、研究もほとんどなかった

読む前に予想してみよう!
ストックホルム症候群は、精神医学の国際的な診断基準に正式な病名として載っている
DSMやICDなどの診断基準には載っていない。2008年のレビューでも、確立した診断基準はないと結論づけられた。
- 対象
- 人質・誘拐事件の被害者など
- 規模
- 12本の論文(文献レビュー)ほか
- 研究の種類
- 系統的文献レビュー・理論的提案
- 確かさ
- ★★☆☆☆
人質が犯人に好意を抱くとされるストックホルム症候群。1973年の事件が由来だが診断基準はなく、研究の大半は事例報告。「なだめる生存戦略」と見る提案もある。
ひとことで言うと有名な言葉だけど、病気としてはっきり決まったものではなかった!
ストックホルム症候群とは、誘拐や人質事件の被害者が、犯人に好意や共感を抱いたり、かばったりするようになる状態を指す言葉です。1973年にスウェーデンの首都ストックホルムで起きた銀行強盗・人質事件が名前の由来です。
ところが、これだけ有名な言葉なのに、精神医学の国際的な診断基準には載っていません。研究者がきちんと調べてみると、その中身は意外なほどあいまいだったのです。
01名前の由来になった6日間
1973年8月、ストックホルムの銀行に強盗が立てこもり、銀行員たちが約6日間人質になりました。
事件のあと、人質の一部が警察より犯人に同情的な発言をしたことが注目され、事件にかかわった専門家がこの状態を「ストックホルム症候群」と呼んだのが始まりとされています。その後、この言葉は映画やドラマ、ニュースで広く使われるようになりました。

02調べてみたら、研究がほとんどなかった
実は、名前の由来になった事件の人質本人も、のちに「警察の対応への不信感があった」という趣旨の話をしていると伝えられています。犯人への好意というより、命がけの状況で、自分たちを守ってくれそうにない相手への不満だった可能性もあるのです。一つの言葉で人の気持ちをまとめてしまうことのむずかしさが、ここにも表れています。
03言葉が「便利すぎた」?
2012年の社会学の研究は、別の角度からこの言葉を分析しました。ストックホルム症候群という言葉は、もともとの人質事件だけでなく、家庭内暴力や人身売買、さらには政治の議論にまでどんどん使われる範囲を広げてきたというのです。
そして、「あの人はストックホルム症候群だから」と言うことで、相手の意見を「正常な判断ではない」と片づけてしまう道具にもなりうる、と指摘しています。
04新しい見方:「なだめる」は生き残るための作戦
2023年、研究者らは、ストックホルム症候群という言葉の代わりに、「アピーズメント(なだめ・宥和)」という考え方を提案しました。
命の危険がある状況で、犯人に逆らわず、話を合わせ、落ち着かせようとするのは、混乱した心の病ではなく、危険を小さくするための生存戦略だという見方です。この視点に立つと、被害者を「おかしくなった人」として扱うのではなく、必死に生き延びた人として理解できます。ただし、この提案自体もまだ一つの理論で、今後の検証が必要です。
05まとめ
ストックホルム症候群は、有名なわりに、科学的な裏づけがとても弱い言葉でした。
人がつらい状況でとる行動を、ひとことのラベルで片づけない。言葉の由来と限界を知ることは、他人を理解するための大切な一歩です。
この研究を英語で読もう原田英語の English CornerDuring a 1973 bank robbery in Stockholm, bank workers were held hostage for about six days.
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4択クイズ9問A2・B1・B2タップして開く
原田英語の English Corner
この研究を英語で読もう
Stockholm syndrome is a famous name. People use it when hostages seem to like the person who took them. The name comes from a bank robbery in Stockholm, Sweden, in 1973.
But it is not an official illness. Doctors have no clear way to check for it, and there is very little research. Some scientists say that being nice to a dangerous person is a way to stay safe.
69 words ・ CEFR A2
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ストックホルム症候群は有名な名前です。人質が、自分を捕らえた人を好きになったように見えるときに使われます。この名前は、1973年にスウェーデンのストックホルムで起きた銀行強盗事件から来ています。
でも、これは正式な病気ではありません。医師にはそれを確かめるはっきりした方法がなく、研究もほとんどありません。危険な人にやさしくするのは安全でいるための方法だ、と言う科学者もいます。
4択リーディングクイズ
Q1. What is the passage mainly about?
ストックホルム症候群は有名だが正式な病気ではない、という内容なので C。
Q2. Where does the name come from?
The name comes from a bank robbery in Stockholm, Sweden, in 1973. とあるので B。
Q3. In this passage, "official" is closest to ...
official は「公式の・正式な」。専門家に正式に認められた、という意味なので D。B の popular(人気のある)は「有名」とは近いが別の意味。
During a 1973 bank robbery in Stockholm, bank workers were held hostage for about six days. Afterward, some of them spoke more kindly about the robber than about the police. This case gave a name to Stockholm syndrome. The term describes victims of kidnappings or hostage situations who come to feel sympathy for their captors.
But it is not an official diagnosis. In 2008, a research team searched medical and psychological databases and found only 12 relevant papers. Most of them were case reports, and none gave tested diagnostic criteria.
More recently, researchers have offered a different view. A hostage who calms a dangerous person and agrees with them may not be confused at all. They may be using a strategy to stay alive.
124 words ・ CEFR B1
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1973年にストックホルムで起きた銀行強盗事件で、銀行員が約6日間人質になりました。事件のあと、人質の一部は警察よりも犯人について好意的に話しました。この事件から、ストックホルム症候群という名前が生まれました。この言葉は、誘拐や人質事件の被害者が、犯人に同情を抱くようになることを指します。
しかし、これは正式な診断名ではありません。2008年、ある研究チームが医学と心理学のデータベースを調べたところ、関連する論文はわずか12本しか見つかりませんでした。そのほとんどは事例報告で、検証された診断基準を示したものは1本もありませんでした。
最近では、研究者たちが別の見方を示しています。危険な相手を落ち着かせ、話を合わせる人質は、混乱しているわけではまったくないのかもしれません。生き延びるための戦略を使っているのかもしれないのです。
4択リーディングクイズ
Q1. What is the main point of the passage?
有名な言葉だが正式な診断名ではなく、研究も12本の論文しかなかったと述べているので C。
Q2. What did the 2008 research team find?
found only 12 relevant papers. Most of them were case reports とあるので A。
Q3. How would the newer view describe a hostage who agrees with the captor?
最終文 They may be using a strategy to stay alive. とあり、混乱しているのではなく生き延びるための行動だと見ているので D。
During a 1973 bank robbery in Stockholm, employees were held for about six days, and afterward some of them seemed more sympathetic to the robber than to the police. The case gave its name to Stockholm syndrome, the idea that hostages come to sympathize with their captors. The term is now everywhere, but it has never been recognized in international diagnostic manuals. A 2008 systematic review found only 12 qualifying papers.
Most were case reports using inconsistent definitions, and none offered validated diagnostic criteria. The authors suggested that similarities among a few well-publicized cases may come from reporting and publication bias. Even the original story is less simple than it sounds. One of the hostages reportedly expressed distrust of how the police handled the situation, which complicates the story of affection for the captor.
In 2023, researchers proposed replacing the term with "appeasement," a survival strategy of calming a dangerous person, though this idea has yet to be tested. The old term also travels loosely. A 2012 sociological analysis found that it had spread to domestic violence, human trafficking and even politics, where it can be used to dismiss someone's views as irrational.
193 words ・ CEFR B2
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1973年にストックホルムで起きた銀行強盗事件で、従業員が約6日間拘束され、その後、一部の人は警察よりも犯人に同情的に見えました。この事件が、人質が犯人に共感するようになるという考え「ストックホルム症候群」の名前の由来になりました。この言葉は今ではどこでも使われていますが、国際的な診断マニュアルで認められたことは一度もありません。2008年の系統的レビューで条件に合った論文はわずか12本でした。
そのほとんどは定義がばらばらな事例報告で、検証された診断基準を示したものは1本もありませんでした。著者たちは、広く報じられた少数の事件どうしに共通点が見えるのは、報道や出版のバイアスによるのかもしれないと指摘しました。元の事件の話でさえ、見かけほど単純ではありません。人質の一人は警察の対応に不信感を示していたと伝えられており、「犯人への好意」という構図は複雑になります。
2023年には研究者たちが、この言葉を、危険な相手を落ち着かせる生存戦略である「アピーズメント(なだめ)」に置きかえることを提案しましたが、この考えもまだ検証されていません。また、古いほうの言葉は気軽に広まっていきます。2012年の社会学的な分析によると、この言葉は家庭内暴力や人身売買、さらには政治にまで広がり、そこでは誰かの意見を「不合理だ」と退けるために使われうるのです。
4択リーディングクイズ
Q1. Which title best fits the passage?
有名な用語なのに診断基準も研究もほとんどないことを中心に論じているので B。D の always は本文の内容に反する。
Q2. According to the 2012 analysis, what is one risk of using the term widely?
it can be used to dismiss someone's views as irrational とあるので C。
Q3. Why does the writer mention the hostage's distrust of the police?
which complicates the story of affection for the captor とあり、警察への不信は「犯人を好きになった」という単純な話ではない可能性を示すために挙げているので A。
重要単語
- hostageB2名詞人質The hostages were released after six days.
take/hold ~ hostage「~を人質にとる」。h は発音し、/ˈhɑːstɪdʒ/。 - captorC1名詞捕らえた人・犯人Some victims seemed to defend their captor.
capture(捕らえる)と同じ capt-(つかむ)。反対側の「捕らわれた人」は captive。 - diagnosisB2名詞診断It is not an official diagnosis.
複数形は diagnoses。動詞 diagnose A with B「AをBと診断する」の語法に注意。 - survival strategyB2名詞(句)生存戦略Staying calm can be a survival strategy.
survival は survive の名詞形。strategy(戦略)と tactic(戦術)の違いも押さえておくとよい。 - appeasementC1名詞なだめること・宥和Appeasement may help victims avoid harm.
動詞 appease「なだめる」。歴史では1930年代の「宥和政策(appeasement policy)」として登場する。 - sympathizeB2動詞同情する・共感するSome hostages began to sympathize with the robber.
sympathize with ~ の形で使う。名詞 sympathy、形容詞 sympathetic。sym-(共に)+pathy(感情)。
このネタ、誰かに教えたくなった?
人質が犯人をかばう「ストックホルム症候群」。ドラマでおなじみだけど、実は国際的な診断基準には載っていない。2008年の文献レビューでは研究の多くが事例報告で、診断基準すらなかったらしい。言葉だけが一人歩きしている面も。
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出典・参考文献(3件)タップで表示
- Namnyak et al. (2008) 'Stockholm syndrome': psychiatric diagnosis or urban myth?, Acta Psychiatrica Scandinavicadoi.org
- Adorjan et al. (2012) Stockholm Syndrome as Vernacular Resource, The Sociological Quarterlydoi.org
- Bailey et al. (2023) Appeasement: replacing Stockholm syndrome as a definition of a survival strategy, European Journal of Psychotraumatologydoi.org
※本記事は上記の研究・公開資料をもとに、原田英語が独自の言葉で解説したものです。引用は著作権法第32条の範囲で行い、出典を明記しています。画像はすべてオリジナルのイメージです。研究結果には限界や個人差があります。誤りのご指摘は原田英語のお問い合わせフォームから。








