心理学ホント

「気合いの声」は本当に力を出す。握力が約7%アップした実験と、脳の"ブレーキ"が外れる仕組み

「気合いの声」は本当に力を出す。握力が約7%アップした実験と、脳の"ブレーキ"が外れる仕組み

読む前に予想してみよう!

力を出すときに大きな声を出しても、筋力は変わらない

研究カード(どんな研究?)
対象
武道の熟練者と初心者
規模
50人ほか複数の小規模実験
研究の種類
実験(同じ人で条件比較)
確かさ
★★★☆☆
3秒でわかる

武道の「気合い」の声を出しながら握力を測ると、黙って握るより平均で約7%強かった。叫ぶと脳の運動の"ブレーキ"がゆるむ可能性が、日本の研究でも示された。

ひとことで言うと「せーの!」の声は、ただの気分じゃなくて本当に力になる!

もくじ
  1. 武道家50人の握力を測ってみた
  2. 60年前の日本人研究者も気づいていた
  3. 脳の中で何が起きている?
  4. テニスのうなり声には、もうひとつの効果
  5. まとめ

重い荷物を持ち上げるとき、思わず「よいしょ!」。剣道の「メーン!」、空手の「エイッ!」、テニス選手の「ンアッ!」。

力を出すとき、人はなぜか声を出します。ただの気分やカッコつけ? それとも、本当に力が出ている?

実はこの疑問、60年以上前から研究されていて、答えはおおむね「ホント」です。

01武道家50人の握力を測ってみた

7%と聞くと小さく感じるかもしれません。でも、トップレベルのスポーツでは、わずかな差が勝敗を分けます。しかも「声を出す」だけなら道具も練習もいりません。

0260年前の日本人研究者も気づいていた

声と筋力の関係を早くから調べていたのが、日本の運動生理学者猪飼道夫です。

アメリカの生理学者スタインハウスと共同研究をしていた猪飼は、、筋力が何によって変わるかを調べ、力を出す瞬間に叫ぶ、ピストルの音を鳴らす、催眠をかけるといった条件で、ふだんより大きな力が出ることを報告しました。

ここから生まれた考え方が、「人はふだん、本当の限界まで力を出していない」というもの。脳が筋肉や関節を守るために、無意識にブレーキをかけているのではないか、というのです。いわゆる「火事場の馬鹿力」も、このブレーキが外れた状態だと考えられています。

叫び声が、脳の"安全ブレーキ"を少しゆるめる?
叫び声が、脳の"安全ブレーキ"を少しゆるめる?

03脳の中で何が起きている?

2021年、日本の研究チーム(Takarada & Nozaki)は、叫びながら握力を出すときの脳と体の変化を詳しく調べました。

叫ぶと握力が上がるだけでなく、瞳孔が大きく開き、脳の運動野に磁気刺激を与えたときの反応から、運動を抑える働き(ブレーキ)が弱まっていることが分かりました。瞳孔が開くのは、脳の覚醒に関わるノルアドレナリンの系統が活発になったサインと考えられます。

声は単なる気合いではなく、脳の状態を「全力モード」に切り替えるスイッチになっているのかもしれません。

04テニスのうなり声には、もうひとつの効果

テニスのうなり声には、別の側面もあります。

2010年の研究では、打球の瞬間に雑音(うなり声に見立てた音)を加えた動画を見ると、見ている側はボールの行き先を判断するのが遅く、不正確になりました。うなり声が相手の判断を邪魔している可能性があるのです。

05まとめ

「声を出すと力が出る」は、根性論ではなく科学的にも裏づけのある話でした。

体育祭の綱引き、重い荷物の積みおろし。ここぞという一瞬は、遠慮せず「せーの!」と声を出してみましょう。ただし、ケガをしない範囲で。

この研究を英語で読もう原田英語の English CornerMany athletes shout or grunt when they use their full strength. 音声 4択クイズ9問A2・B1・B2タップして開く

原田英語の English Corner

この研究を英語で読もう

Many athletes shout or grunt when they use their full strength. A 2012 study tested whether this actually helps. Fifty people, half of them martial arts experts and half beginners, squeezed a handgrip both silently and while shouting a kiai. On average, they were about 7% stronger when they shouted, and the effect was similar for both groups. This idea is not new.

In 1961, the Japanese physiologist Michio Ikai reported that people produced more force when they shouted at the moment of effort. He suggested that the brain usually holds back some strength to protect muscles and joints. A 2021 Japanese study found signs that shouting may weaken this "brake" in the brain.

114 words ・ CEFR B1

和訳を見る

多くのスポーツ選手は、全力を出すときに叫んだりうなったりします。2012年の研究は、これが実際に役立つのかを調べました。50人(半分は武道の熟練者、半分は初心者)が、黙った状態と「気合い」の声を出しながらの両方で握力計を握りました。平均すると、声を出したときのほうが約7%強く、その効果は両方のグループで同じくらいでした。この考えは新しいものではありません。

1961年、日本の生理学者・猪飼道夫は、力を出す瞬間に叫ぶと、人はより大きな力を出すと報告しました。彼は、脳はふだん筋肉や関節を守るために力の一部を抑えているのではないかと考えました。2021年の日本の研究では、叫ぶことで脳のこの「ブレーキ」が弱まる可能性を示す兆候が見つかりました。

4択リーディングクイズ

Q1. Who took part in the 2012 study?

Q2. What did Michio Ikai suggest?

Q3. What does the word "brake" in the last sentence refer to?

重要単語

  • shoutA2
    動詞・名詞叫ぶ/叫び声He shouted as he lifted the weight. shout at 人(怒鳴りつける)と shout to 人(遠くの人に呼びかける)の前置詞の違いが頻出。
  • grip strengthB2
    名詞(句)握力Grip strength is easy to measure. grip は「握る・つかむ」。get a grip(落ち着く・しっかりする)という口語表現もある。
  • maximal forceC1
    名詞(句)最大筋力Shouting may increase maximal force. maximal は maximum の形容詞形で学術的。minimal と対になる。
  • inhibitionC1
    名詞抑制The brain uses inhibition to protect the body. 動詞 inhibit(抑える)。心理学では「気おくれ・遠慮」の意味でも使う。
  • gruntC1
    動詞・名詞うなる/うなり声Some tennis players grunt when they hit the ball. もとは豚の「ブーブー」という鳴き声の擬音語。
  • noviceC1
    名詞初心者The course is suitable for novices. nov-(新しい)が語根で novel, renovate と同語源。beginner よりやや硬い語。
  • rule outB2
    動詞(句)除外する、可能性を否定するWe cannot rule out other explanations. 研究紹介の定番表現。cannot rule out the possibility that ~「~の可能性を排除できない」。
武道家50人に、黙って握るのと「気合い」の声を出して握るのを比べたら、声ありの方が平均で約7%強かったらしい。日本の研究では、叫ぶと脳の運動のブレーキがゆるむ様子まで見えた。テニスのうなり声にも理由がある。

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出典・参考文献(4件)タップで表示
  1. Ikai & Steinhaus (1961) Some factors modifying the expression of human strength, Journal of Applied Physiologydoi.org
  2. Welch & Tschampl (2012) Something to shout about: A simple, quick performance enhancement technique improved strength in both experts and novices, Journal of Applied Sport Psychologydoi.org
  3. Takarada & Nozaki (2021) Shouting strengthens maximal voluntary force and is associated with augmented pupillary dilation, Scientific Reportsdoi.org
  4. Sinnett & Kingstone (2010) A preliminary investigation regarding the effect of tennis grunting: Does white noise during a tennis shot have a negative impact on shot perception?, PLoS ONEdoi.org